6#子猫の涙、風船の涙

 「風船さんって、綺麗だね・・・」

 

 子猫は、鼻をヒクヒクさせて微風にフワフワ揺れる赤い風船を見上げて呟いた。


 「僕・・・もうもたないんだ・・・逃げてきたんだ・・・怖い人間から・・・」


 「怖い人間から・・・?!」


 「殺されそうになったの。それで、隙をみて・・・」



 野良猫のアルは、他の野良猫や地域猫や飼い猫の噂話を聞いていた。



 猫を捕まえて虐待する心無い人間が、この世の中に居る事を・・・


 野良猫のアルは、心の底から激しい怒りが混み上がってきた。



 ・・・こいつも、人間どもの犠牲に・・・

 ・・・俺らが何をした・・・!!

 ・・・ふざけるな・・・!!



 子猫は更に話を続けた。


 「僕のママ、風船なんだ。」

 「え?何で風船がお前のママなんだ?」


 野良猫のアルは、若干萎んで更に浮力が少なくなってきた子猫の尻尾の赤い風船を見詰めていた。


 「僕、目が見えて初めて見たのが風船なんだ・・・だから風船がママなの。

 僕、本当のママの顔も姿も知らない。知らないんだ・・・」 


 子猫の目から一筋の涙が流れた。


 「逢いたいよ・・・本当のママに・・・でも逢えない・・・だけど、おじちゃん。

 おじちゃんだけだよ・・・こんなに僕に優しくしてくれたの・・・」


 「子猫よ・・・」


 ・・・この世には、こんなに不幸な子猫が居るんだ・・・


 ・・・この母猫は、この子猫を産み捨てたのか・・・?それとも・・・?



 ぬっ・・・



 「可愛いい!!」


 突然、人間の手が2匹に伸びてきた。


 「ふーーーーーっ!!」


 野良猫のアルは、側にやって来た通りすがりの人間に唸り声をあげて威嚇した。


 野良猫のアルは不覚だった。


 ここは、人通りの多い歩道であること。


 アルはとっさに子猫の首筋をくわえて、そこから逃げた。


 ぽーん、ぽーん、ぽーん、ぽーん・・・


 子猫の尻尾の風船が、野良猫のアルの百戦練磨を物語る傷の跡だらけの身体に触れる。


 ぽーん、ぽーん、ぽーん、ぽーん・・・


 アルと戦った、強者の猫達が付けた無数の傷。

 この子猫のように母猫の顔を知らず、人間に翻弄された者も中には居るだろう、強者の猫達に赤い風船のゴムが優しく癒すように・・・












 

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