4#野良猫アル、萎んでた風船を大きく膨らませてあげる

 「うにゃぁっ。」


 街路樹に引っ掛かっていた赤い風船を取ってあげた、野良猫のアル。


 「ほうら、泣くのはおよし。風船取ってあげたよ。」


 アルは涙目の子猫にそっと取ってあげた、若干浮力が無くなっている赤い風船を差し伸べた。


 「風船、縮んじゃった・・・」


 子猫はボソッと言った。


 「縮んじゃった?うそっ?!」


 野良猫のアルは、風船のゴムが始め見た時より小さくなっているのに気付いた。


 ・・・ははん。俺がカラスと格闘ていた反動でヘリウムガスが少し抜けて縮んじゃったんだな・・・


 「よし!俺がでっかく膨らませてあげるぜ!」


 ・・・おい!何、子猫に言ってるんだ俺・・・!!

 ・・・ええいっ・・・!!

 ・・・渡りに船だ・・・!!


 野良猫のアルは、赤い風船の吹き口の紙で出来た留め具を前肢の爪で外すと、息を深く深く深く深く深く思いっきり吸い込んだ。


 ・・・膨らませ過ぎて破裂しちゃったら・・・


 ・・・もうヤケだ・・・!!


 野良猫のアルは、まだ風船に残っているヘリウムガスが逆流しないように吹き口を口にくわえ、鼻の孔をパンパンにして、頬っぺたをめいいっぱい孕ませ、めいいっぱいめいいっぱい孕ませ、顔を真っ赤にして、


 ぷぅ~~~~~~~!!

 ぷぅ~~~~~~~!!

 ぷぅ~~~~~~~!!

 ぷぅ~~~~~~~!!

 ぷぅ~~~~~~~!!

 ぷぅ~~~~~~~!!

 ぷぅ~~~~~~~!!

 ぷぅ~~~~~~~!!

 ぷぅ~~~~~~~!!

 ぷぅ~~~~~~~!!



 と、無頼の野良猫らしくパワフルに息を思いっきり入れて赤い風船を膨らませた。



 ぷぅ~~~~~~~!!

 ぷぅ~~~~~~~!!

 ぷぅ~~~~~~~!!

 ぷぅ~~~~~~~!!

 ぷぅ~~~~~~~!!

 ぷぅ~~~~~~~!!

 ぷぅ~~~~~~~!!

 ぷぅ~~~~~~~!!

 ぷぅ~~~~~~~!!

 ぷぅ~~~~~~~!!



 「にゃっ!にゃっ!にゃっ!にゃっ!おじちゃんの頬っぺたも、風船みたいにでっかく膨らんでるよ。」


 「余計なお世話だよ子猫ちゃん!!」



 ぷぅ~~~~~~~!!

 ぷぅ~~~~~~~!!

 ぷぅ~~~~~~~!!

 ぷぅ~~~~~~~!!

 ぷぅ~~~~~~~!!

 ぷぅ~~~~~~~!!

 ぷぅ~~~~~~~!!

 ぷぅ~~~~~~~!!

 ぷぅ~~~~~~~!!

 ぷぅ~~~~~~~!!



 「やべえ!!」


 野良猫のアルは風船を膨らますのに夢中になりすぎて、風船の吹き口に連なるネックまで膨らみまるで洋梨のように膨らみすぎた事に戦慄した。



 ガクガクブルブル・・・


 

 「あぶねー!!もうひと吹きしてたなら、ドデカイ音を立てて風船が大爆発するとこだった!!」


 野良猫のアルは「くわばらくわばら・・・」と、しゅ~!!と若干膨らませた風船の空気を抜いて、再び紙の詮に吹き口をしっかりと止めた。


 「はい!子猫ちゃん、風船!!飛ばさないように、尻尾に結んであげる。」


 野良猫のアルは、爪が風船に触れないように風船の紐を尻尾に結んであげた。


 「おじちゃん、風船どうもありがとう。風船さん!!風船さん!!」


 子猫は、尻尾のヘリウムガスと野良猫のアルの吐息が混合して大きく膨らんだ赤い風船を見とれながら、はしゃぎまわった。


 「風船さん!!風船さん!!」 


 子猫は満面の笑みで大はしゃぎした。

 そんな無邪気な仕草に、孕ませすぎてジンジンする頬っぺたが気になって肉球で押さえ、膨らませた風船が割れる恐怖を逃れて安堵している野良猫のアルは、胸がキュンとなった。


 ・・・俺もこんな時期があったんだな・・・


 ずてっ!!

 

 子猫が倒れた。


 「てへっ・・・」


 立ち上がった子猫は、野良猫のアルの方を振り向いて悲しい目で照れ笑いした。


 その悲しい目は、何をアルに訴えたいかまだアルは解らなかった。


 「おじちゃん。」「何だ?子猫。」


 「一緒に遊ぼうよ。鬼ごっこしよ・・・」


 子猫は、尻尾の赤い風船を揺らせてはにかんだ。




 

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