3#野良猫アル、風船を子猫に取ってあげる

 「ねえ、そこの子猫ちゃん?何、やってるの?」


 野良猫のアルは、何度も街路樹の下で何度もジャンプする白い子猫に、ニヤニヤしながら話しかけてみた。


 「にゃ?!」


 見知らぬ厳つい雄猫に話しかけられた子猫は、思わず緊張して硬直した。


 「ん?」


 野良猫のアルは木の上を見上げた。



 ふわふわふわふわふわふわ・・・



 「ふ・・・風船・・・!!」


 野良猫のアルは、思わず顔を強張らせた。


 「俺・・・風船、苦手なんだけど・・・」


 幾度も修羅場を潜り抜けた無頼の野良猫、アル。

 そんなアルでも、苦手なものがあった。


 ゴム風船だった。


 1度、道端で転がっていた風船が邪魔で、どかそうとネコパンチを繰り出したら・・・




 ばぁああああああああああああああーーーーーーーーー

ん!!!!!!!!!!!




 この世の中が爆裂するような、凄まじいパンク音にビックリ仰天!!


 気が動転して、縦横無尽に猛ダッシュして駆けまわって危うく壁に激突しそうになったからだ。


 災いにして、それをライバルの野良猫に見られて笑われ、

 「最強猫アルの弱点は風船だ!」

 と見破られ、

 決闘することになると、ライバル猫の部下猫達がこぞって大量のゴム風船を口で膨らませて、爪で、


 パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!パン!!


 と、割らせまくって、アルは尻尾を巻いて(ただし、アルの尻尾は丸くなってるのだが)退散させられたこともあった。

 

 これが、無頼猫アルの唯一の敗北だった。


 ・・・困った・・・困った・・・風船を取りに行くなんて・・・


 ・・・勢い余って、爪に風船が触れて大爆発しないかしら・・・?


 ・・・俺は、風船よりシャボン玉が好きなんだがにゃ・・・


 ・・・だって、シャボン玉は破裂しても、プチンと弾けるだけだし(それがたまらないにゃ)・・・


 ・・・寄りによって・・・本当に俺は猫が良すぎる・・・けど・・・困った猫がいると、居ても立ても居られないたちだからなにゃ・・・


 ・・・どうしょうかにゃ・・・


 ・・・風船取ってあげようかにゃ・・・


 ・・・風船怖いから、ここは・・・




 「??!!!!」



 かーかーかーかー!!



 野良猫のアルが躊躇してるうちに、木の枝の赤い風船の前ではとんでもない事が起きていた。


 「か、カラスの奴!!」


 赤い風船の引っ掛かっている木の枝に、『風船割りカラスのジョイ』がニヤニヤしながら留まっていたのだ。


 「かーーー!!あっ!風船だ!!

 拙者、風船を見ると思わず割りたくなるもんね~~~~!!

 割ろうかな~~~!!割っちゃおうかな~~~!!」


 カラスのジョイは、鋭い嘴をフワフワと浮いている赤い風船のゴムの表面にそっと近付けて、突っつこうとしていた。



 「ふーーーーーーーーっ!!」


 野良猫のアルは、そのカラスに激しく威嚇した。


 実はアルには、カラスは因縁の『敵』であった。

 子猫時代に、人間に兄弟ごとゴミ袋に入れられ生ゴミと一緒に捨てられた時、ゴミ捨て場にやって来たカラスに兄弟を攻撃されて、殺られて食われたという経験があったからだ。


 しかし、今正に風船に攻撃しようとしているカラスのジョイは、そこまで獰猛では無かったが・・・


 野良猫のアルにとって、カラスはカラスだった。



 「うにゃーーーーーーーーっ!!!!」


 激怒した野良猫のアルは、木の枝へ一気に駆け上ると真っ先にカラスのジョイへ飛び掛かった。



 ボコスカボコスカボコスカボコスカボコスカボコスカボコスカボコスカボコスカボコスカ!!!!




 「かーかーかーかー!!拙者、猫はとても苦手だよおおおおおーーー!!猫ダイッキライ!!かーかーかーかー!!」



 見事に風船割りの悪戯カラスから、風船を守った野良猫のアルの左脚には、引っ掛かっていた木の枝から取り除いた赤い風船の紐が絡んでいた。



 「何だか知らんけど、風船取っちゃったにゃーーー!!」


 そんな野良猫のアルの顔は、ひきつっていた。







 

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