40.5 放置

「いかがなさいますか?」


 娘の友人を見送り終えて、戻ってきた白山が主に問う。


「――何もするな。今の状況は、悪くない」


 その一言で白山は全てを悟った。


 彼の主――天神晴臣てんじんはるおみが畏怖していた二階堂家の血筋は、もういない。

 一方で、そんな怪物さえも倒した『何か』がまだ潜んでいて、かつ井堂瞬いどうしゅんが何らかの形で関与していることも濃厚なのだが、そんなことは大した問題ではない。


 二階堂王介おうすけは天神家の弱みを握っていた。

 それは絶対に知られてはならないものだったし、娘の麻衣に共有されてない保証もなかった。


 本音を言えば、晴臣は王介を弱みごと消し去りたかった。

 しかし、芸能界の王として君臨し続けるほどの実力者を――あの要塞みたいな男を倒すのは容易ではない。現に弱みという形でいとも簡単に封じられていた。


 そんな彼が死んだ。

 『何か』によって殺された。

 彼だけじゃない。彼の才を受け継いでいた、唯一の娘も。

 それは、晴臣にとっては吉報以外の何者でもなかった。


 無論、二階堂以上の脅威である『何か』が敵となればたまったものではないが、幸いにも『何か』は天神家には興味がない。

 もしあるのなら、既に何らかのアクションを取っているはずなのだから。

 麻衣や姫香がやられたのも、天神家とは無関係だと考えられる。


 害意が無いなら放っておけばいい。

 むしろ下手に探ろうとすれば返り討ちに遭いかねない。

 二階堂家は死んだ。それでいい――


 そんな晴臣の心境を、白山は汲み取っていた。


 主に向かって深々と一礼をして、部屋を出て行った。

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