16 お嬢様の出会い
――天神グループの一人娘?
――大金持ちなんでしょ?
そんな風に言われたことは何度もありました。
けれど
とてつもなく広い箱庭の中で稽古と勉強に捧げ。
たまの外出は決まって衆人環視。
窮屈で、騒々しくて、煩わしい世界。
箱入り娘、時々
それが私――
こんな言葉は決して口に出せませんが、そんなクソみたいな人生から何とか逃げ出したくて、私は知恵を絞ります。
まずは自分の力を付けました。
頭脳も、体力も、技術も、役立ちそうなことは熱心に学び、一方で社交界でしか使わないような事物には手を抜きます。
次に仲間を増やしました。
執事、ボディーガード、メイドさん、先生方――天神家ではなく私を尊重してくれる方を見極め、主従関係ではなく友人として味方に付けてきました。
そうやって地盤を固めてから父を攻めました。
天神グループの絶対的権力者は父。遅かれ早かれ突破しなければならない壁だったのです。
けれどそう簡単にいくはずもなく。
主張しては一蹴され、無視され、完膚なきまでに論破されたこともありましたし、厳しい折檻を受けて投げ出しそうになったことも一度や二度ではありません。
けれど、支えてくれた皆さまのおかげで
……といっても、どちらかといえば妥協と表現するのが正しく、完全に自由を得たわけではないのですが、それでも人並の、普通の生活を過ごせる境遇を手にできたことは確かな戦果です。
そして花の女子高生――私は美山高校に入学しました。
本当は何のしがらみもない公立高校が良かったのですが、さすがに許されませんでした。
美山高校はというと、一見すると平凡な私立高校ですが、天神グループの傘下が経営しています。つまりは息がかかっていて何かと御しやすいため、ここに決まりました。実際、私の護衛も密かに配備されています。
ですが、そんなことはすぐに些細な事物となりました。幼なじみの麻衣ちゃん――
楽しい学園生活になるはずでした――のに。
麻衣ちゃんが私と話すことはありませんでした。どころか校内では関わらないでほしいとお願いされる始末です。
お願い? ――いいえ、あれは絶対的な意思表示でした。
麻衣ちゃんは昔から変わった子で、頑固でした。
幼少期のお話ですが、殴り合いの喧嘩をしたこともあります。それでも折れてくれなかった。
今は何やら似合わない眼鏡を付けて、自らを地味に演出しているようです。私は理由を訊きました。
――縛りプレイなの。おもちゃとおかずを探すためのね。
麻衣ちゃんはそう言いました。
私にはわかるはずもありません。
わかったのはただ一つ。
麻衣ちゃんと仲良く、楽しく学校生活をおくることなどできないのだということ。
麻衣ちゃんなんてもう知りません。私は、私なりに学生生活を謳歌してやります――
私は自由に過ごしました。
勇気を出して声を掛けて。
疑問に思ったことは尋ねて。
おかしいと思ったことは指摘して。
言っても通じないのならしつこく言って。
それでも通じないなら実力行使でわからせて。
私はあの父から妥協を引き出したのですから。何でもできるし、何にでもなれる気さえしていました。
そんな風に過ごして半年が経ちました。
まだ私には友人と呼べる方がいなかったのですが、声を掛ければ、皆さまは答えてくださいました。けれど、相手から近づいてくることはほとんどありません。
女子も、男子も。同級生も、先輩も。教職員の方々さえ。
そんな違和感を抱いていたある日、事件が起きます。
「調子に乗ってんじゃねえぞ、お嬢様だからってよー」
とある日の、昼休憩。体育館裏にて、私は五人の男子に囲まれていました。
呼び出された理由に身の覚えはありません。優しく声を掛けられたことが嬉しくて、さっきまでただただ舞い上がっていたくらいです。
「
「学校では出てこねえよ。見たことねえだろ。こいつも人並の生活をおくりたいってことだよ」
「その割にはずいぶん暴れてくれたみたいだけど」
「ああ。だからヤキを入れてやるのさ」
どうやら呑気な期待を抱いている場合ではないようです。
集団で暴行を加えてくる危険が臭います。どうしてこんなことに、と考えて、これは代弁なのだと思いました。
普通に過ごせていたなら、こんな事態にはなりません。美山高校は自由な校風ですが、罰則には厳しく、不良が存在できる余地などないのですから。
にもかかわらず、この状況――私が相当やらかしてきたことの証左に他なりません。
「
「お前の慎ましい体に興味なんかねえよ。暴行女はお前だろうが」
「あれはあなたが強引にナンパしてきたからです」
リーダー格の男性――
何度言っても引き下がってくれなかったからと、そういえば投げ飛ばしたのですわね。受身を取る技量をお持ちではなかったので、きちんと加減致したのですが。
「だからといって投げ技キメる必要はねえだろうがよ。どれだけ恥かいたと思ってんだコラ」
憎悪に満ちた目で私を睨んできます。
……加減の問題ではありませんわね。投げ飛ばされるという醜態は、彼のプライドにとって到底許されることではなかった。ただそれだけのことです。
珍しいとは思いません。体裁に過剰に依存する人間は、社交界でも度々見てきましたから。
「おいお前ら。五人全員で、全力で攻めるぞ。ボコボコにしてやる」
「北河内さん、本当に……」
「オレは北河内グループだぞ」
「……わかりました。やります」
北河内グループ――天神グループとパートナーシップを結んでいる大企業ですわね。おそらく彼はご子息なのでしょう。なぜお金持ちがこんな高校に、と言いたいところですが、人のことは言えません。
そうなると残りの四人、少なくとも押し黙った一人は、両親の首を握られている、ということでしょうか。
クビにされたくなければ従え、と。
「天神姫香。覚悟しろ」
晴人君が拳を握り、一歩踏み込んできたかと思うと、パンチが飛んできました。
――遅い。
私はもっとおっかない方々と日々鍛錬しています。
喧嘩が強い方が何かと便利だ、と仰っていたのは麻衣ちゃんの父親、王介さんでした。確かにそうかもしれません。
彼の握り拳を交わし、足払いをお見舞いします。
晴人君は尻餅をつきました。
「っ……、く、クソが、……おら! やっちまえ!」
その雄叫びを契機に、残りの四人が飛びかかってきて――
数分後。
私は懲らしめた五人を引き連れて一階の交差点に来ていました。
職員室で先生方に経緯をお伝えしようとしたところ、ここで担任の山下先生に声を掛けられて、そのまま説明に至っているところです。
「そ、そうか……」
先生はおどおどした様子で答えます。
私と目を合わせてくれもしません。
「まるで支配者だな」
地べたに座り込んでいた晴人君が「いてて」と言いながら立ち上がり、人を小馬鹿にするような笑みを浮かべました。
「なんたって天神グループの一人娘なんだからな。この高校も傘下なんだろ? 下手に気分を損ねたら退学だ、解雇だ。恐怖以外の何者でもないぜ」
時間帯が時間帯、場所が場所なだけあってギャラリーが多い……はずなのですが、その発言は妙な静寂と共に響きます。
「なんでこんなとこに入学したんだ? お嬢様が通う学校なんていくらでもあるだろ。まあそういう世界が居心地悪いのはオレもわかるけどな……」
ふらふらと晴人君が歩み寄ってます。先生が一歩退いて道を開けました。
彼は目の前までやってくると、いきなり私の胸倉を掴んで、
「だったらおとなしくしてろよ。正直お前は権力をふりかざして遊んでるキ●ガイにしか見えないぜ」
「そんな……、
嘘だ。
そんなんじゃない。
私はただ、普通の高校生活がしたくて。みんなと同じように楽しみたくて。
「くくっ、北河内家のネットワークでお前の実態を触れ回ってもいいんだぜ。天神グループの名前には少しは傷がつくだろ。うちとしてもやりやすくなるもんだ」
かあっと頭が熱くなるのが自分でもわかりました。
常に冷静で在れとは何度言われたことか。知っています。教えられましたから。身に染みているはずでした。
ですが、抗えませんでした。
「あなたは勘違いされているようですが、天神家にとって北河内家など取るに足らない存在です。先日、別邸にあなたの父君がいらしておりました。お父様に頭を下げておられましたが、立場を弁えているではないのですか」
気付けば私は、そんなことを喋っていました。
「……ゲスが。ほら! みんなも聞いただろ?」
ちっと舌打ちしたかと思うと、晴人君は大げさに両手を掲げ、演説するかのように続けます。
「北河内グループでさえこれだ。一般市民なんて瞬殺されるぜ? 怖いよなホント」
先輩の噛み殺した笑い声だけが不気味に響きます。
周囲を見回してみましたが、誰も目を合わせてくれません。
――支配者。
その言葉が頭をよぎります。
……違う。そんなつもりはなかった。
むしろそういう世界が、立場が、跡継ぎが嫌で、必死で逃げてきたのに。
「おらっ!」
それが晴人君の攻撃であることはわかっていました。反撃の意思が目に宿っていたから。
私は彼の蹴りを回避して、その隙だらけの、不安定な体をちょんと押します。
いとも簡単に倒れました。
周囲が息を飲んだのがわかります。
恐れている。
怯えている。
この感覚は何度か見覚えがありますわね。私は昔から鍛錬していて、子どもの中でもずば抜けて喧嘩が強かったですから。
つっかかってくる同年代の子をこうして返り討ちにしては、同じ反応をされたものでした。
「あ、え……」
腰の抜けた晴人君が突如声に詰まります。
その露骨に怯えた視線を追いかけると、黒服にサングラスをかけた、見るからに屈強そうな男性が二人ほどこちらに近づいてきていました。――私の護衛ですわね。
「お嬢様?」
何事かと問うてきます。
彼らには基本的に学校生活に干渉しないよう言い聞かせてありますが、それでも来たということは、傍から見ても大事に見えたのだということ。
私が、それだけのことをやらかしてしまったのだということ。
「いえ、何もありません……」
私は何をしているのだろう……。
穴があったら入りたい気分でした。
あるはずもないのに、周りを見回して穴を探す私。
その時でした――間もなく友人となる二人と出会ったのは。
皆さまが怯え、素知らぬふりをして目を逸らしている中、二人だけ――腕を組んで感心した様子で見ている女性と、こちらをちらちら見ながらメモを取っている男性の方。
私は二人に近寄ります。
彼女は全く怯むことなく私を見ています。彼は……メモから顔を上げてくれません。
「……何をされていますの?」
思わず声を掛けてしまいました。
「答えなさいよ」
「え、僕が? ……メモだけど」
「メモ? 何を書かれていますの?」
「えっと、こんなマンガみたいなお金持ちが存在するんだなーと思って。小説のネタになりそうだから」
仰られていることの意味はわかりかねますが……とりあえず疑問をぶつけてみることにします。
「目に焼き付ければメモの必要は無いかと存じますが……」
「君もスペックが高そうだね。凡人はそうはいかないんだけど」
「すぺっく、とはスペシフィケーションのスペック――仕様、の意でございますか?」
彼が隣の女性――
彼女は私と同じ一年生。成績優秀者で、体育祭でも活躍しておられましたから覚えています。
それにしても、視線のぶつけ方に全くの遠慮がないところを見ると、二人はずいぶんと打ち解けているご様子。恋仲なのかしら。
「私を見るな。……天神さん、このバカの言うことは気にしないでいいわよ。ネットスラングを平然と発言するような痛い奴だから」
「スペックはスラングではないだろう」
「天神さんに通じてないじゃない」
「お嬢様を基準にしちゃダメだろう」
「別にお嬢様だから基準したわけじゃないわよ」
いつ以来でしょうか。
同年代の方から、こんなざっくばらんに話をしていただけるのは――
「――て、天神さん!? 泣いてるの? 大丈夫? このバカのせい?」
「お前が高圧的すぎてびびったんだろ。僕もまだビビるくらいだし」
「なんか言った?」
「言ってません」
目が少し潤んでいます。
彩音さんがハンカチを差し出そうとするのを制して、私は自分のもので拭ってから、訊いてみました。
「お二人は……
「怖い? どこにそんな要素があるのよ?」
「隣の怪力女の方が怖いアダッ!? ……ほら見てのとおり」
彼が腕を捻られながら言いました。
二人の夫婦漫才みたいなやりとりに、思わず笑みがこぼれてしまいます。
「女性をそのように申しては失礼ですわよ。それに今のは力ではありません」
なんだか気分も軽くなって、つい忠告してしまいました。
一瞬しまったと思いましたが、彩音さんも笑顔を返してくれました。
「天神さん、やはりできるわね。護身術とか習ってるの?」
「護身術、というカテゴリではありませんが、色々と稽古しておりますわ」
手を差し出してくる彩音さん。
「私は綾崎彩音。よかったら友達にならない?」
「まあ!」
友達。
知ってはいたけど、久しく縁の無かった言葉。
「天神姫香です。ありがとうございます、彩音さん」
私はしっかりと握り返します。
「へー、お嬢様でも普通に握手するんだ」
そんな様子を、特に私の手を、彼がまじまじと見つめていました。
さっきからお嬢様、お嬢様と枠に押し込めて捉えようとしてくるところが少し気に入りませんわね。
けれど不快な感じはしません。不思議なものです。
私は意識的にむっとした顔つきをつくって、彼に手を差し出してみました。
「……」
「天神姫香ですわ。以後お見知りおきを」
「え、あ、ああ……」
照れくさそうに手を握ってくれました。
意外と奥手なのかもしれません。
「
「うるさい。お嬢様の手だぞ? 男が気安く触れていいか戸惑うのが普通だ」
違う。まだそうやって特別扱いする……。
「あの!」
私は叫ぶ勢いでぶつけます。
「え、あ、はい!?」
「名乗っていただけませんか? それと
「あ、いや、そう言われても事実だし。リア充みたいなものかと」
頭をかきながら答える彼。
「り、りあじゅう?」
「気にしないでね天神さん、この人、フィクションの読み過ぎでちょっと――ううん、だいぶおかしいから。ほら、早く名乗りなさいよ」
「
井堂瞬くん、か……。その名前をしっかりと焼き付けます。
「瞬くん、ですわね。
「私も姫香って呼ぶわね?」
「はい」
「天神というネームバリューにコンプレックスがあるとみた。ますますお嬢様っぽい」
仰るとおりなのですが、こうも遠慮無しに言われると、やはり
ですが不思議と憎めません。何と言えばいいのでしょうか、少しばかりいじめたくなる感じ。はしたない……ですが、ちょっとなら。
「瞬くん」
「ウギッ!? ……いきなり何だ? 僕の手を潰す気か」
「なるほど握力攻撃ね。いいアイデアよ姫香」
「なるほどじゃねえ、おい待て何でお前も手を握る」
間もなく悲鳴を上げた瞬くんに追い打ちをかけていると、視界の隅で護衛が静かに立ち去っていくのが見えました。
長年一緒に過ごしている私にしかわからない、その変化に乏しい表情は、少しだけほころんでいました。……心配をおかけしました。ありがとう。
私は集まった皆さんにも改めてお詫びを申し上げ、その場は散会となりました――
それが、私と瞬くんの出会いでした。
◆ ◆ ◆
「相談し損ねましたわ……」
逃げるように教室を後にした瞬くんの背中を見ながら、私はつぶやいていました。
「ん、何か言った?」
「いえ。何でもありません……。それより瞬くん、大丈夫でしょうか」
「仮病ね。美少女三人にキャパオーバーしちゃったのよ」
「自分で言うかな。年増のくせに」
麻衣ちゃんがごく自然に瞬くんの席に腰を下ろします。
「童顔詐欺は黙りなさい」
「詐欺は
「一度眼科に行くべきね。何なら紹介するけど?」
どことなく敵意も感じられますが、こんなに人懐っこい麻衣ちゃんを見たのは初めてです。
私の知らない、そんな麻衣ちゃんを引き出しているのは彩音さんと――瞬くん。
二人の応酬を眺めながら、私は考えます。
相談するべきかどうかを。
――私はテレポーターです。
まだ誰にも知らせていませんが、つい先日、覚醒しました。
敷地に落ちていた一枚の紙切れ。
そこに書かれていた早口言葉の指示。
どなたの仕業か、全く思い当たらなくて、だからこそ無視できなくて、つい部屋に持ち帰って、ちょうど手持ち無沙汰だったこともあって、熱心に唱えていたら――本当に超能力が手に入ってしまいました。
自分でも信じられません。
けれど私は物も、自分自身も、一瞬で離れた空間に送ることができました。
これは現実なのです。
最初は黙っていれば無問題と思っていました。うっかりテレポートしてしまわないよう、左手親指の扱いにだけ気を付けていればいいと。
そんな私がテレポートの危険性に気付いたのは先週末、日曜日のこと。
瞬くんが好きなラノベ――ライトノベルが面白くて、読み耽っていました。
その作品はいわゆる超能力バトルもので、アクションの迫力と頭脳戦の技巧が上手い具合に混じり合っているところが見所だと評されている作品です。
その登場人物の一人がテレポート能力を持っていて、主人公を追い詰めるシーンを読んでいた時でした。
この空想みたいなことが、今や現実にあるのでは?
もしこの力を悪事に使ったとしたら?
私にその気はないけれど、もし他にもテレポーターがいたとしたら?
そんな可能性にふと気付いた私の思考は、覚醒した時に変化した説明書の文面を引っ張り出していました。
――私立美山高校のテレポーター様。
私の想像はたくましく広がっていき。気付けば私は――ベッドの中で、布団を被って震えていました。
どなたかに相談する……? でも誰に?
少なくとも父に知られることだけは避けなければなりません。父がテレポートの存在を知ったら、仕事の道具として使うに決まっています。私も再び拘束されるでしょう。
そもそもこんな爆弾みたいな
先日、海外のニュースにて、宝くじを当てた人が親戚に襲われて殺された事件が報道されていました。他にもビットコインの保有者が武装集団に襲撃された話もありましたわね。
大げさかもしれませんが、そういうことも起こりえます。まして私が持っているのは
誰にも気付かれないように、私は平静を装うのでいっぱいいっぱいでした。
不安や恐怖は翌日、月曜日になっても消えてくれませんでした。
けれど、閉じこもったところで何も始まりません。
学校に行けば何か情報が集まるかもしれない。あるいは相談できるかもしれない。
私は重たい腰を上げて登校しました――
この三人なら真摯に向き合ってくれそうな気がします。
けれど、まだ決心はできないし、していいかもわかりません。厄介な事に巻き込んでしまう恐れもありますから。
そんな風に悩みはするものの、私の心底は明るいものでした。
ずっと疎遠だった麻衣ちゃんと、こうして再び一緒になれたから。
これもたぶん二人の――特に瞬くんのおかげです。彼は決して語ろうとしませんが、麻衣ちゃんとの出会いから詳しくお聞きしたいところです。
それだけではありません。もっと色んなことを知りたいし、知ってほしいとさえ思います。
彼との距離感はさっぱりわからず、今日もいわゆる『下ネタ』を押し出してしまいました。思い出しただけでも顔が赤くなりそう。
こんな気持ちになったのは初めてかもしれません。これが男性の友達を持つということなのか、それとも……ううん、今は考えないでおきましょう。
ともかく、今は学校が楽しいのです。
こんな日常が続くといいな、と心から思います。
「おいお前ら、席に戻れ」
「はーい」
麻衣ちゃんの陽気な返事が響くと、教室がにわかに慌ただしくなります。
ふと視線を感じたので見てみると、彩音さんが心配そうに覗き込んでいました。……少し考え込んでしまっていたようです。
私は何でもない、と手振りを交えて返事をします。それ以上の追及はありませんでした。
間もなく授業が始まったのですが。
私の視線は黒板ではなく、先生でも教科書でもなく、空席となった廊下側最前席に向いてしまいます。
彼は今、保健室で休んでいるのでしょうか。
不真面目だとわかっていながらも、私は物思いに耽っていました。
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