# Call Back

「この魔法には、脆弱性がある。」


「ふむ・・・トウジくん、詳しく聞かせてほしい。」

俺たちは魔法通信機でルビィに状況を説明していた。

「お姉、戦場盤オペラハウスの表示がメチャクチャだって話したよね。」

「ああ、でも城の戦場盤ではんだ。システムのどこかに異常があるんだろうか?」

「いいえ、これはおそらく敵のサイバー攻撃です。」

俺は極力落ち着いた口調で話す。

「サイバー攻撃・・・?」

「おいトウジ!もったいぶってないで早く教えろよ!」

ジャヴァは苛ついている。

「順を追って話すよ。攻撃を受けた時は冷静になることが大切だ。」


戦場盤のシステムは、各部隊が集めた情報を一度城に集めて情報分析し、その結果を部隊に返送コールバックする。城での処理結果が正しいことを考えると、問題はその後。返送のに脆弱性があり、攻撃を受けていることになる。


「しかし・・・通信は暗号がかかっていて敵には手出しができないはず。」

とルビィが異論を唱える。

「ええ。では、敵が王国の通信を傍受して、ことはできますか?」

「再送信?それは可能だが・・・。」

馬鹿な、とジャヴァが口を挟む。

「そんなことしても、俺らを助けるだけだぜ。」

「そのまま再送信するんじゃないんだ。送る。」

「あのなぁトウジ、暗号がかかってるって言ってんだろ。中身が見えないのにどうやって書き換えるんだよ。」

書き換えているとすれば?」

皆がざわつく。最初に返答したのはルビィだった。

「それも可能だろうが・・・。殆ど不正なデータになって処理されないはずだ。」

「あのノイズ・・・!」

パールは思い出した。なぜか今日の通信にノイズが多かったことを・・・!


俺は確信を深めて説明を続ける。

不正なデータ、ですね。では1000回、10000回、もっと送り続ければ・・・どうなりますか。」

「まさか・・・いやそんな!」

マトラーもこの脆弱性に気が付いたようだ。続いてルビィ。

「ごく低い確率で、正常なデータとして受信してしまえば・・・子機のデータが破壊されることになる・・・!」


「おそらくそれが敵の攻撃手法です。」


ルビィはしばし沈黙してから、

「こんな攻撃が・・・戦い方が存在したなんて。トウジくん、あなたは一体・・・?」


ズズン...

テントに地響きが伝わり、外が騒がしくなる。


「なんだァ!?」

「敵?」

ジャヴァとパールが慌てて戦場盤を覗き込むが、赤いマーカーは周りに表示されていない。これはアテにならないんだ、ということを思い出して二人は落胆した。


ザッ、とテントのカーテンを開け、男が二人飛び込んで来た。

「中尉!敵襲です!竜騎兵ドラゴキャバルリ!」


俺たちはテントの外に飛び出した。

「西側だ!歩兵中隊は何してる!」

防衛にあたる魔法使いが走っていく方向に俺たちも向かう。


防壁の向こう数百メートルの地点に、何体もの巨大な影が見えた。

パールが指を鳴らすと、遠景が拡大されて俺たちの前に表示される。

「これが・・・ドラゴン。」

まるで恐竜だった。4足歩行で、羽はない。代わりに、騎兵を載せるシートと魔法弾を撃ち出す砲身が左右の背面に別れて取り付けられていた。


「よし、補足したぞ、迎撃用意!」

マトラーが戦場盤に黄色く表示された竜騎兵を見て浮き足立つ。


しかし・・・

ザザ、とノイズの後、竜騎兵の表示の半分が消え、もう半分が友軍緑色の表示に変わってしまった!

「くそ!だめだ、セーフティがかかって自動防御できない!」


キュン...!バシィ!

撃たれた!思わず俺たちは身をかがめる。

竜騎兵からの攻撃が始まり、魔法弾が防壁に直撃して中和されたのだ。


「お姉、ちょっとこれヤバいかも・・・。」

ルビィとの魔法通信はまだ継続している。

「なんてこと・・・マトラー中尉、防壁はどのくらい持つ?」

「はい司令官、現在魔力71%。全力で攻撃されれば10分と持ちません・・・!」

「やむを得ない・・・全軍撤退して体制を立て直すしかない。」

「しかし・・・我々は既に包囲されている可能性が高い。防壁から出た途端に蜂の巣になるリスクが。」

「くッ、せめて戦場盤が復旧すれば・・・!」


「ちょっと、いいですか。」

「トウジ!何か手はあるの!?」

パールが俺の腕を掴む。

「ルビィさん、大至急、魔法技師エンジニアを集めてください。今から言うことが可能か聞きたい。」



###################



ロバスタン帝国 国土回復軍 統合作戦本部

カーネル・パイソン は大きな窓が付いているにも関わらず薄暗く、重い空気の漂う部屋に一人座っていた。


––––––パイソン、勝てそうか。


女性の声が響く。


––––––貴様・・・レイか。


いや、一人ではない。

いつの間にかもう一人、おそらく力のある魔法使いが現れていた。


––––––帝国は勝てそうか、と聞いている。

––––––当然だ、あんな撹乱をされては、バルネラに勝ち目はあるまい。

––––––ふん、"あの方"のおかげだな。


魔法使いはコツコツと音を立ててパイソンに歩み寄る。

黒いローブから覗いたその肌は病的なほど白く・・・それにローブの内側の布は極端に少ない。つまり露出度が高いようだ。

––––––不満か?

レイと呼ばれた女性が挑発するように問いかける。

––––––こんな小汚い真似をしなくとも勝てる。

––––––軍人という奴は不思議な生き物だ。現実主義リアリストであると同時に騎士道主義ロマンティスト


パイソンは歯がゆい思いを奥歯で噛み潰す。

––––––見ろ、レイ。もうすぐ我が軍の竜騎兵が敵の先鋒を飲み込むぞ。

––––––あっけないな。

––––––無限の道化師ブルートフォースアタック・・・残忍な攻撃だ。どんな魔法よりも。


ぴくり、と黒いローブの女性が反応する。

––––––妙だな、今一瞬・・・敵の広域通信が止まった。

––––––今頃通信網への攻撃に気が付いたか?もう遅い。


ppp...

部屋に突如、魔法通信が接続された。


––––––カーネル・パイソン!

––––––どうした、バルネラの攻撃拠点は制圧したか。

––––––いいえ、あいつら急に・・・組織的な反攻を始めて・・・

––––––なに!?


パイソンは胸騒ぎを感じ、戦場盤オペラハウスを起動する。

––––––これは!?

––––––どうした、パイソン。

––––––おかしい、完璧に連携を取り戻している。


––––––奴らは攻撃を・・・脆弱性を克服しただと・・・!?


# 次回、Roll Back

exit

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る