# Runtime

馬(と騎兵達は呼ぶ浮遊ビークル)に跨ったジャヴァが、俺の方にぽんと手を置く。

「名残惜しいがここまでだな。我々剣先エンドポイントは忙しいんだ。」


「エンドポイント!?今そう言ったか?」

暗闇、女の声。よく覚えていないが、



この言葉が頭の中にリフレインする。俺はジャヴァの腕を掴んで答えを求めた。

「おい、何だよいきなり・・・。コードネームだよ、第5小隊だから5番目のEエンドポイント。」

「・・・頼む。やっぱり俺も連れて行ってくれないか。何でも手伝うからさ!」

俺はこの世界で行く宛てはない。それにという言葉が心にひっかかる。誰かは知らんが乗ったぞ、とことん追ってやろうじゃないか!


ジャヴァが露骨に嫌な顔(モンゴリアンデスワームを噛み潰したような)をしたが、彼の代わりにパールが答えた。

「いいよー。」

軽い!

「あたしの後ろに乗りなよ。」

「な、何ィイイイイ!?」

ジャヴァ達が驚きと絶望の声を上げ、慌てて抗議する。

「姫さまァ!なんだってそんな奴に肩入れするんです!せめて邪魔にならないよう俺たちの馬に乗せますから!」

「あのねジャヴァ。二人乗りタンデムってすっごく難しいの知ってるよね。」

「そりゃまぁ。」

「この中で一番騎乗の訓練時間が長いのは?」

「・・・姫さまです。」

「一番成績が良いのは?」

「・・・・・・ぐぬぬ、姫さま」

「じゃあ決まりだね。おいで、トウジ!」


ぎろり。騎兵たちの視線が痛い、というより目で語りかけてくる。

「邪魔すんじゃねぇぞ」

「ふざけんな」

「変なことしたら殺す」

「羨ましいぞクソが!」

「後で感想聞かせて!」

冷や汗をかきながらパールの乗る馬(?)の後ろに跨った。


馬は二人分の体重で少しだけ沈み込んだが、サスペンションのように、すぐ元の高さに戻る。

ィイイイイイイン・・・

僅かに小刻みな振動が伝わってくる。手と足をどこに置くか迷っていると、

「あたしに掴まりなって。結構スピード出るから、落ちるよ?」

言われて俺は、(遠慮気味に)パールの細い腰に手を添えた。

ふわりと甘い香りが鼻腔をくすぐる。


「姫さまを先頭に、縦列陣形、目立たないよう10シード間隔で続け!GOGO!」

ジャヴァの声と同時に、パールが馬を急発進させる。

「うおお!?」

結構スピード出る、ってレベルではない。いきなり時速60キロは出ている!

それで木の生い茂る道なき道を走るんだから、正気とは思えない!

右、左、左・・・パールは簡単に木々を避けていく。どんな反射神経してるんだ!

ボッ、ボッ、と左右の耳には木を掠って駆ける音がリズミカルに聞こえる。


「ちょ、ちょっと早すぎるのでは!?」

「ええ!?これでもを乗せてるから控えめにしてんだけど?」

・・・俺は「サービス価格」なのに予算の3倍を提示されたクライアントの気持ちになった。スピードはさらに速まっている。

「いやー暇だし世間話でもする?トウジってどこの生まれ?バルネラ・・・じゃないよね。」

無駄口を叩きながらも、パールはF1レーサーのように正確に馬を操る。

「に、日本。・・・って言っても分かんないか。」

「ニホン?はは、全っぜんわかんないや。ごめんね、あたし地理苦手だから。

でもトウジ、喋る言葉はあたし達と同じだよね。少し訛ってるけど。」


・・・!


言われてみればその通りだ。今俺は、彼らに英語で喋っていた。

でも本当に異世界ならば、言語体系が共通しているなんてあり得ないのではないか?


・・・ここはなのだろうか・・・?


思考の迷路に迷い込んでしまいそうだったので、俺は話題を変えることにした。


「なぁ、パール。」

「どしたのー?」

「さっきの司令官。」

「ルビィお姉のこと?かっこいいでしょー?」

「ああ、何というか・・・パールとだいぶ雰囲気が違うな、って。」

「むー、そりゃあたしはお姉みたいに頭よくないけどさぁ・・・。」

そう言って、パールが俺に重ねた手に力が入る。

「いや、そういうことじゃなくて・・・パールはすごい魔法使いだと思うよ。」

「えへへ、ありがと。」

この子は本当に褒められるのが好きなようだ。

「ルビィさんも魔法を?」

「ううん、お姉は・・・子供の頃に大きな病気して、それから魔法が使えなくなったんだ。でもね、すごい頑張って今は指揮官になった。あたしの自慢のお姉だよ!」

「そっか。二人は仲がいいんだな。」

ビット反転したような二人なのに。良い姉妹だ、と俺は掛け値なしにそう思った。



###################


しばらく馬を走らせると、砂地の先に淡く光るドーム状の物体が現れた。


「あれが王国軍の魔法防壁ファイアウォール?」

「さっすが!見えたんだ。・・・でもなんだか様子がおかしい。」

「姫さま!さっきから魔法通信のコールをしてるんですが、どうもあいつらポート封鎖してるようで・・・危ない!」


キュン、とドップラー効果を震わせて

大口径の魔法弾が俺たちの馬を掠めて後ろに飛び去った。


ドド...


後方で爆発音がする。


「今のは砲撃だ・・・ッ!」


# 次回、Fatal Error

exit

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