第23話「ダンジョン(15)」

 熾烈且つ激烈に争う両者。


 どれだけ続いたか、軽く見たただけでもケンジの身体にはあちらこちらに無数の切り傷が見て取れる。

 方や、影に至っては黒い瘴気のような煙地味たものが身体中のそこかしこに出来た罅の部分から漏れ出ているのが分かる。


 そうして、お互いに最後の局面になろうかと言うそんな様相を呈して、突如踵を返すように影がケンジを見守るメンバー一同に矛先を向け出す。


「「「!?」」」


 ガキーン!!


「‥‥誰がそんな卑怯な真似しろって言った? ‥‥俺のコピーなら最後まで正々堂々正面切ってぶつかってこいよ!!」


 影の奇襲は直前に食い止められて、その後ケンジの反撃にて後方へと吹き飛ばされる。

 自身が不利と見ての愚行かは知れずとも影の取った不意の急襲に憤りを覚えての事か、珍しくも怒りを見せるケンジ。

 されど、当の影は何一つ表情無く無機質にある動作に入る。

 未然にケンジが防いだと見られる構え。それを再度ケンジに向けて見せたのだ。


「分かった、終わりにしようか」


 影の取った一挙一動を見て後、一言そういうと、これまで使用していた自身の愛刀を後ろにしまい、徐ろに何処から羨なくとある一振りの剣を抜き出す。



「‥‥【ダーインスレイヴ】ドワーフの怨念


 ケンジの抜き出した禍々しくも黒く輝くその剣を見るや、瞳孔も大きく生来つり気味に細い目がこれでもかと見開き、心中で激しく動揺しながらレナードが一人そう呟く。


「(間違い無い。でも、何故彼か‥‥)」


 疑問を抱えるレナード。しかしながら、そんな疑問を他所に既に構えを取った体勢のケンジ。


「壱の太刀・秘剣___【龍撃】りゅうげき


 両者構えの後に放ったその一撃は、双方ほぼ同時ながら、圧倒的火力差を持ってケンジの一撃が影の一撃を飲み込む形で影諸共一掃、ケンジに軍配が上がる。


「‥‥何と言う破壊力だ。圧勝にも程があるぞ」


「見ろ、今ので壁にも大穴が空いたぞ」


「ここを抜けられそうッスか!?」


「分からんが、行ってみる価値は有りそうだ」


 ケンジの強大な一撃にて空いた巨大な風穴。その先に新たな空間が見つかったと有ってか、ケンジの圧倒的実力に感嘆していたのも束の間、皆がそう言って一様に一歩目を踏み出そうかと言う正にその時、


 シュッ


 唐突にして不意の出現、皆の背後より再度現れた鏡の怪物の存在を大半の者は失念という形で忘れていたのかも知れない。

 そんな急転の状況下で鏡が取る行動は当然一つ、再び複製コピーを生成し、目に写る敵を今一度強襲する事で有ろう。


 鏡が再び放った光線はケンジ側に放たれてはその他全員を射程内に収める。


 ただ、それと同時、そんな窮地もとある剣の一幕にて終わりを迎える。


「お見事」


 一瞬の踏込みの後、エレノアの剣閃が鏡を両断。

 そのまま砂塵の如く塵に成って消える鏡。


「悪いけど、再戦だけはごめん被るわ」


 そう言い終えて凛として静かに愛刀を鞘に納めるエレノア。


「ガッハッハッハ!! やはり最後まで頼りになるな、全く!! ‥‥ともあれ、果たして、勝鬨だーーー!!!」


「「「「「おーーー!!!」」」」」


 直後、真っ先にドルフがそう言うや、それぞれがそれぞれに勝利の証明をと剣や拳を高らかに突き上げては歓喜の声を上げる。


「ふう‥‥(取り敢えず山場は越えたかな‥‥、後は‥‥)」


 先程までの激闘を終え、そんな皆の歓声と笑顔を見るなり少しの安堵と共に息を整えて、次への懸念に対して直ぐ様思考を切り替えようとするケンジ。

 ここに至っても抜かり無く気を張ろうする姿勢には賞嘆の思いを拭えないが、そんな彼の気を他所に皆が彼の元へと勢いも良く押し寄せる。


「うわっ、ぷ!」


「ガッハッハッハ、最早言葉はいらん! 英雄よ! 本当に、よくやってくれた!!」


 その大柄な巨体でケンジに抱きついては称賛を惜しまないドルフ。


「ずるいッスよ、ドルフ氏だけ!。俺達も混ぜてくれッス!」


「王国騎士団の隊長ともあろう者が混ぜてくれとは何事!‥‥、今回は許す!!」


「私も混ぜて欲しい!」


「じゃ、じゃあ俺も!」


「いやはや」


 対して、そんなドルフの惜しみない労いに周りも当てられてかケンジに詰め寄ろうと動く。


「全く、暑苦しいわね。ケンジに対して凄く迷惑だから全員離れなさい」


「「「「「!」」」」」


 ただ、咎められるようにそう言われて一度は躊躇う一同で有るが、


「いやいや、これは失礼をした。さきの武功は勿論、最後に【鏡】を討ち取った戦果を思えばケンジにも劣らぬ殊勲である事は自明。であれば、皆の者、胴上げだーーー!!!」


「「「「おーーー!!!」」」」


「ちょ、ちょっと!!」


 ワーショイ! ワーショイ! ワーショイ!


「や、やめなさーい!!!」


「ははっ(‥‥敵の気配も無さそうだし取り敢えず一件落着かな。後はこのまま最深部まで行けば今回の核心に辿り着けると思うけど)」


 一連の賑やかなやりとりを見て軽く笑っては笑みなど零すケンジであるが、自身の読みに凖えれば残すダンジョン探索もいよいよ大詰めを迎える頃か、一人核心への真相に対し誰よりも先に歩を向けようとするケンジである。






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