第24話「ダンジョン(16)」
「これは! ‥‥どうやらまだ下に通じる道が有るようだな」
「そのようだ。しかし、気の所為か? 悪寒がしてならん」
「私も‥‥」
「俺もッス」
「皆勘違いでは無さそうだな」
風穴の向こう、そこに進入してみれば直ぐ様下へ下へと通じる階段らしき道が在るのが分かる。
しかしながら皆が進もうかと言うその手前、皆が皆一様に身体への違和感を悪寒の表現で訴え出す。
「多分、魔力濃度が相当濃くなってるんだと思う‥‥ 【
「待て!
「この感じだと、多分‥‥」
「何故分かる?」
「うーん、匂いとしか‥‥」
「そうか、信じよう‥‥」
「? 何かコアに思入れでも有るんですか?」
「いや‥‥」
「コアって金になるんスよ」
「!?」
コアと言う言葉を耳にするなり、表情を一変させ意味深にケンジに何かと聞き返すなどしたかと思えばそれ以上を口籠るグレアムだが、その理由を察してはルイスから話が飛び出す。
「へえ」
これに少しばかり関心した様子で反応するケンジ。
「まあ生涯で一度お目に掛かれるかどうかってレベルの超希少資源にはなるんスけどね」
「そうなんですね! と言うか、凄く詳しいですね!」
「家柄も有ってちょいとばかし知識が有るだけッス。それよりケンジ氏が知らなかったのが意外ッス」
「いや〜、そう言った知識はまだ持っていないもので」
「意外ッスね。‥‥ただ、コアに関してはこんな格言も有るッス」
「格言?」
「『呪いの供物に触れるべからず』」
「呪いの供物に触れるべからず?」
「『呪いの供物』って言うのはコアの事を指して言ってるんだと思うんすけど、要は関わるなって事ッスね。だいたいコアに纏る話で良い話を聞いた事はないッス」
「へえ、と言うと?」
「有名なものだと【アヴァドン事件】スかね」
「【アヴァドン事件】?」
「聞いた事が有る! 街一つがダンジョン化したって言う例の!」
「もう30年以上も前の話で、俺もオリアナ隊長も生まれてもいないから見聞でしか詳細は知らないんスけど‥‥」
そう言って神妙な顔付きでルイスが事件の詳細を語りだす。
「簡単にも説明すると、とある冒険者がコアを持ち帰ったらそのコアが暴走、街一つを飲み込んでダンジョンが誕生したって言う恐ろしい事件ッス」
「ひっ‥‥」
事件の内容を知ってメリッサが身体を震わす。
「当時は目茶苦茶騒がれたらしくて色んな国の調査隊や有名クランが調べに出たり、【勇者】が派遣される事態にもなったって言う経緯が有るとんでもない事件なんスけど」
「【勇者】!? は〜、で、結局どうなったんですか?」
「結局のところ【魔王】の手に依って事は収められたッス」
「【魔王】!?」
「色々と反応が新鮮で面白いッスよ。‥‥そう、魔王にして、かの有名な吸血姫‥‥否、
「クローディア=カテリーナ=ド=アリギエーリ‥‥」
「【聖典の赤き死神】、【唯一無二のアリギエーリ】、【永久の体現者】、‥‥色々な異名・忌み名でも知られてるッス。まあ、この名を聞いて知らない者は勿論いないはずなんスけどね?」
「【六魔王】の一人とは聞いています」
「流石に知ってるッスか」
「でも、魔王なのに助けてくれるなんて優しいですね」
「ちゃんとした優しさとかじゃ無くて、何かしらの打算は孕んでたとは思うんスよね。‥‥一説には【勇者】と密約を交わしたなんて言う噂も有るぐらいッスから」
「オーブル少佐、口が軽いぞ」
「あっ、すいません!」
【勇者】と言う言葉が出た途端、凄んだ表情のオリアナからルイスが窘められる。
「世界の救世主たる【勇者】に対して要らぬ誤解を与えるべきではない」
「‥‥はい」
「以後気をつけるように」
「了解ッス!」
そう窘められて直立不動のまま素直にオリアナの言うことに応じるルイス。ただ、質問は続くようで
「因みに、ダンジョン化した街はどうなったんですか?」
「当然良い結果とは為らなかったらしくて、街事態はダンジョン化したまま今も残ってるッス」
「今も在るんですか!?」
「魔王はダンジョンの侵攻を食い止めてはくれたんスけど、街事態はダンジョンへと変貌したまま「還らぬ街」へと成った訳ッス」
「「還らぬ街」とか言い得て妙ね」
「二度と元には戻らないのも全く持って辛いところでは有るな」
「で、この件が切っ掛けとなってダンジョン・コアの売買は世界を通じて基本、全面禁止になった訳ッス」
「イビルや鏡のバケモノの次はコアか‥‥全く、今回だけで一体どれだけの災難に出会さなければならないのか‥‥」
図らずしてコアに対しての知識を得るや、少なからず動揺且つ不安の声と共にその場の空気が沈みそうになる。ただ、
「心配無いですよ」
余程の自信か、はたまた当てが有るのか、表情も穏やかにあっけらかんとした様子で一言そう言って見せるケンジ。
「事件については初耳でしたけど、コアについては事件の詳細を聞く限りあくまで特殊なケースのようですし、まず持ってそう言った暴走にはならないはずです。まあ、なったらなったで対処するんで」
「強者は言うことが違うな」
安堵する一向。
「そんな事無いです。でも、それ以上に事態は深刻な物になるかも知れない可能性が有る事も頭に入れておいて下さい」
「「「!?」」」
そう安堵したのも束の間、表情も穏やかに前触れも無くケンジが重大且つ殊更に不安を煽るような発言をするものであるから、当然周りの者は耳を疑う事に。
「ケ、ケンジよ、それは一体どういう事が説明して貰えないか‥‥」
表情も引き攣り気味にグレアムが尋ねるが、
「ここではあれなんで下まで降りますか」
何を知っているのか、或いは知ったのか、勿体つけては進行を促すケンジの表情は今持って穏やかで有る。
没落王女の剣術指南役 GIVE @GIVE
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