第22話「ダンジョン(14)」
「ほら、どうしたの? 来なさい」
「‥‥‥‥」
シュン
「フン!!」
ガキ−ン
「馬鹿の一つ覚えみたいに同じ事ばかりして、あなた本当に私のコピーなのかしら?」
互いの剣がぶつかり合っては軋み合う中、剣越しにエレノアが敵に対して煽りを入れる。
「‥‥」
「ハッ!!」
そのまま押し切っては相手を後方へと後退させる。
「ふう‥‥(やっぱり、最初より瞬走のキレが明らかに悪くなってる。コピーでも際限無く出来る訳では無さそうね。なら、やりようは有りそうね!‥‥)」
息継ぎの最中、敵の変化を見逃す事無く次なる一手を模索仕始めるエレノア。力の入らない利き手を気にしながらもどうやら活路を見出すに到ったか。
されど、ここでも影の攻勢がエレノアを襲う。
キン!!
「くっ!(ここで仕留める気ね‥‥、でも、こっちもまだまだ行ける!!)」
双方互いに引く事無く激しくぶつかり合う。
「ハァァァ!!」
「‥‥」
互いの剣の応酬は止まる事無く、その一振り一振りが致命傷を孕みながらも寸での際でこれを往なし、捌き、斬る等、両者が攻防一体を繰り広げる。
そうした一瞬一瞬の判断が生死を分かつで有ろう場面にて途端、局面が動く。
「(捉えた!!)」
攻防の間隙を縫い、エレノアの斬撃が影の頭蓋目掛けて一直線に落ちる。
刹那、流水の如き流れでそんな全力の一刀を紙一重にて躱す影。
直後にてエレノアの五感全てに押し迫る極大の危機感。
と、同時に自身に走馬灯のように駆け巡る何時かの記憶。
___
「要するに自分を『置き去りにする』事がこの技の肝なんだ」
「置き去り?」
「そっ。【瞬走】は、言ってしまえばどれだけ早く駆け抜けられるかを問う技なんだけど、これはその先、『どれだけ自分を置き去りに出来るか』を試される技なんだ」
「‥‥あまりピンと来なくて悪いのだけど、この技のコツって有るのかしら?」
「そうだねえ‥‥、俺なんかは師匠に殺されそうになった時に身に着けたから、案外死ぬような目に会ったりすれば、直ぐに覚えるかも知れないね」
「私に死ねと?」
「正攻法でも無いし、そんな博打みたいな事絶対出来ないよ」
「当たり前よ」
「焦らず徐々に覚えて行けば良いよ」
___
「___秘技、【瞬影】」
傍観していたメリッサとグレアムは自身の目を疑う事になる。
エレノアを斬り裂いたはずの影が今まさに背後よりエレノアに斬り裂かれたのだ。
斬られたエレノアの残像は消え、同時に真っ二つに斬り裂かれた影はそのまま塵となって消えていく。
「ふう‥‥(初めて成功出来た‥‥)」
記憶の先から目醒めて、次に起きた事象は自身を新たな境地へと繋げる会心の新手だった。
ただ、斬り終えて直後、膝を着き項垂れるように座り込むエレノアの表情は苦悶が先を行くようで、
「(‥‥剣が、重い‥‥ 流石に今回ばかりは堪えたわ‥‥もう一振りも振れそうにない。それと、結局アドバイス通りになったわね)」
全力での攻防を終えてのまさに辛勝。疲労の度合いは言わずもがな、立つ事すらままならない状態。
そんな状況に勿論メリッサとグレアムが急いで駆けつける訳だが、
「エレノア殿、これを!」
差し出したのはポーションらしき小さな小瓶。それを渡されるなり覚束ない手つきで口元へとそれを運ぶエレノア。
「はぁ‥‥」
飲み干すと同時、多少の傷も癒えて安堵が自然と口から漏れる。
「それで、敵はあとどれくらい!?」
それでも未だ晴れぬ緊張の中、直ぐ様状況の把握に視線や意識を戻すが、
「オオオォォォォォー!!!」
「イヤァァァァァァー!!!」
「オリャァァァァァー!!!」
(((ガキーン)))
鈍い金属音が反響する方向、そちらに目を向ければ、ドルフ、オリアナ、ルイスの三者が未だ激戦を強いられているのが見て取れる。
「(手を貸したいところだけど、‥‥いえ、そもそもおかしいわ、《何故彼の姿が見えないの》!?)」
とある気付きを切っ掛けにエレノアが今現在の状況に関して確かな違和感を確信して周囲に気を張る。
「『連なりの陽炎、束縛の怨嗟、地より突き抜けい出て亡者に巻き付け。その一切を絡めて不変の牢獄へと誘おう。___
そんな中、突如姿を現したレナードが詠唱と共に呪文を展開、地面から幾重にもなる黒く光る鎖らしきそれが影らを縛り上げる。
「一刀! 【斬・巖・剣】!!!」
縛られ動きを封じられた影等に魔力を込めた大剣が大きく振られる。
そうしてドルフにより大上段より振り下ろされた一撃が影等を纏めて撃破するに到る。
「よっしゃー!!!、決まったッス!!」
「我ながら、あまりに手強かった‥‥」
「ふぅ‥‥、しかし、まさか隠れていたとわな、今まで気付かなかったぞ」
「申し訳ないです、はい」
「いや、問題無い。鏡の影響が無いのを見るに、素性は知っていたとみる。最終的にフォローも完璧だった」
「いえいえ、タイミングを見つけるのに時間が掛かってしまい申し訳ないです、はい」
「しかし、これで残るは総大将であるケンジのみになったが‥‥」
ズドー−−ン‼
「!!」
突然の轟音に自然とそちらに目が向く一同であるが、見れば衝撃で破壊された壁に背中を預けては倒れ込んでいるケンジの姿が写る。
「ケンジ!!」
エレノアがケンジの名を叫んでは心配の声を上げる。
「いててて‥‥、自分を相手にするって本当にやり辛いな‥‥、よっと!」
ただ、そうした状況の中でも平然として直ぐに起き上がるなり、態勢を整えようとするケンジだが、
「うん?、お!、エレノア!、さっきの【瞬影】滅茶苦茶良かったよ!」
「!?」
遠くよりエレノアを視線に入れては敵を目前にサムズアップなどして声も大きく先程の一件について褒めるケンジ。
「(い、今はそんな事言ってる場合じゃないでしょ!。て言うか見てたの!?)」
「ハハッ、まだ弟子の一挙一動を見る余裕が有るか」
皆が呆気に取られる中、改めて敵に居直るケンジ
「さて、次は何をして来るか‥‥、!?」
そう少しの間を挟んで矢先、敵のある挙動・動作を見て形相も険しくケンジが瞬走にて一気に間合いを潰しに掛かる。
ぶつかり合う互いの両剣。
「流石に《その技》は危ないな」
「‥‥」
ガキーン
せめぎ合いの末、互いに距離を取る為後ろへと離れる両者。
「‥‥」
「‥‥ふぅ‥‥見切った」
一息入れたその後、意味深な一言を呟いて、瞬間、一瞬にして敵の懐へと潜り込むと、目にも止まらぬ剣速にて敵の斬首を試みる。
「おっ!?」
されど、影もこれに対し反応、剣の切っ先が寸でのところで首を掠めるも回避に繋げたかと思えば、逆に今度は影側が攻勢に転じケンジに剣を振るい出す。
(まだ駄目か、じゃあもう少しギアを上げようか!!)
そこからは目まぐるしくも熾烈な交戦が幾重にも続く。
(((((キィーン)))))
度重なる両者の剣戟での衝撃が辺り一面を大きく揺らす。
「‥‥なんて戦いだ、立っているのがやっとだぞ」
「‥‥‥‥ケンジは、大丈夫だろうか?‥‥」
「馬鹿なことを言うのは止めてもらえるかしら?」
「す、すまない」
「気持ちは分かるッスよ。これで負けちゃったら全滅確定ッスからね」
「彼に全ての命運が託されていると言うことか」
「なに、存外心配する事も無い。我々が思っている以上にあの男は強かだ」
「当然よ。私達に出来て彼に出来ないなんてことは無いわ。見てなさい、もう少しで決着が着くから」
ケンジと影が一進一退、縦横無尽に繰り広げる激烈極まる剣戟。その行方を固唾を呑んで見守るメンバー一同であるが、各々が抱く思いに多少の違いはあれど、この戦いの勝利を願って止まない事は
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