第20話「ダンジョン(12)」

 未だ鳴り止む事無く響き続ける轟音と共に文字通り激しく鎬を削るケンジと影の両者。


「くっ」


 一進一退、まるで拮抗した戦況ながら、危うさと同時にもどかしさを覚えずにはいられないケンジ。

 何処で勝機を掴めるか、その一瞬の攻防の中から見出そうとするが、


 キィーン


「やっぱり駄目か」


 互いの剣がまたしても交錯すれど、ここでもそれ以上を踏み込む事が出来ないケンジ。

 後、敵への視線は外さず勢い良くも大きく跳躍、後方へと下がる。


「スゴいや、まるで隙が無い。こんなヤツ、師匠以来だよ。‥‥て言うか、あれ俺か!? ‥‥いや〜、俺ってあんなに強いんだなぁ」


 敵として相手としているのは、模造の代物ながら自らを模した自分自身。

 その動作・挙動・実力の一つ一つを取ってみても寸分違わぬ造りに、本音で有ろうか、素直な感想を述べてみるケンジ。


 ただ、同時に直ぐ様遠くに視線をやっては不安気な様子で仲間の状況を確認する。


「(皆戦ってるな‥‥、大丈夫だと良いけど‥、結界石使うタイミング間違えたなぁ‥‥)」


 仲間の死闘を目にするや、その身を案じては多少なり頭を抱えそうになるケンジ。

 こうした戦況に陥った現状に幾らかの自責が絡むらしく、ふと意識が戦いから逸れる。


「ぐっ!」


 そんな隙を突かれる格好で影がケンジへと襲い掛かる。


 ギリギリ


「はっ!!」


 何とか敵の斬撃を払っては再度距離を取るが、詰める影の猛追がそれを許さない。


 防戦一方。


 捌くのがやっとと言える迄に押し込まれたまま、敵の斬撃に身体ごとその身が吹き飛ぶ。


「ぐわっ!?」


 衝撃は凄まじく、そのまま後方の壁面へと激突、噴煙が立ち込める。


「(ケンジ!?)」


 ブシュッ!!


「ぐっ」


「今は余所見は無しッス!! そんなんじゃの良い餌食ッスよ!!」


 ケンジの行方に目線が行ってしまったドルフ。その隙を突かれルイスを模した影がドルフの左肩目掛けて鋭利に切り裂き襲うも、ルイスがその現状を嗜める。


「【襲撃巧者】とは良く言ったものだ! ちょこまかと、実に相性が悪い!」


「褒め言葉として受け取っとくッスよ ‥‥て、オワーッ!!」


 一方でルイスの相手とするはその肥大した巨躯で持って大剣を振り回すドルフを模した影であるが、その怪力が対峙するルイスを一層追い詰めて止まない。


「まったく、一体どうやったらそんなバカデカい剣をそんな安々と振り回せるんスか!」


「下がれ、ルイス!!‥‥、『雄大にして偉大なる聖霊の御名において、汝の名の下に従い纏おう、汝の赴くまま、汝の示すまま、今渾身にて集束せよ!』」


 攻撃を躱すのがやっとと言った具合で攻めあぐねるルイスに、横槍の形でオリアナがドルフの影に向かって何やら詠唱を唱えながら猛然と剣を振り抜く。


 ブシュッ!!


 影の隙を突き、オリアナがその脇腹に魔力を帯びた光り輝く斬撃を繰り出しては損傷を与えてみせる。


 見れば、斬り付けた影の脇腹の部分から黒煙らしきものが噴き出しているのが分かる。


「光の魔力付与エンチャントとは、見事!」


「【閃華】の二つ名は伊達じゃないッスよ!」


「まだだ! 致命傷には程遠い!」


 オリアナの剣技に感嘆の声が飛ぶも当の本人は油断無く次に備え直ぐ様体勢を整える。が、背後から狙っていたかのように一人の影がオリアナに襲い掛かる。


「!!」


 されど、影の凶刃が振り降りされようとする直前、そこに割って入っては敵の剣撃を未然に防ぐエレノアの姿が。


「ふぅ‥‥、はっ!!」


 相手の剣を跳ね返し逆に攻勢に出るエレノア。

 そのまま、体勢を低くくしつつ一足飛びに相手へと距離を詰め一撃を見舞う。


 それ対して大きく後退する影。


「すまない、助かった!」


「そっちはそっちで頑張ってちょうだい。こっちはこっちで好きにさせて貰うわ」


 そう言って敵対する影に向かって猛攻を仕掛けては剣を振るいに走る。


「よろしく頼んだ!! ‥‥こちらも手が離せそうに無い故!!」


 ドルフがエレノアに向かってそう返事を返す。


 切実にして切迫した現環境に於いては各人手を借せる状況では無い為致し方無い事この上ないところか。


「わ、わ!‥‥くっ!」


 一方で同じく影と交戦する者が一人、メリッサである。


「こ、このー!!」


 ガキーン


 鈍い金属音を響かせながら死闘を演じるメリッサと影の両者。


「はぁ‥‥はぁ‥‥」


 疲れが出たのか、肩で息を切るメリッサ。

 戦いの最中では体力の消耗は必然的に起きるのは勿論の事では有るが、一方で無機物かのように表情一つ読み取れない影が不気味にメリッサに対して視線を合わせる。


「(た、体格的にもこいつは私のコピーで間違いない。な、ならば偽物に負けて良い道理は無し!!)‥‥はぁ‥‥、とりゃーー!!」


 柄の部分を顔まで上げ、そのまま剣先を敵に向けたと思いきや、気合いの掛け声と共に両手に持った剣を思いっ切りに相手に目掛け横一閃に全力で振り抜く。


 決まれば影とて無傷では済まないであろう渾身の一刀。


 ただ、そんな動きを見抜いてか、瞬時に一足分後ろに下がっては寸でのところで剣を躱す影。


「な!!」


 直後、頭上より敵の剣が真っ直ぐにメリッサ目掛けて振り下ろされる。


 ザシュッ


 影の剣がメリッサの肩部目掛けて鋭利に斬り裂く。


(う‥‥、あ‥‥)


 そのまま後方へと尻餅気味に力無く倒れ込むメリッサ。


 深く斬り裂かれた腕からは赤黒とした流血が止めどなく流れ落ちる。


 戦闘だけで言えば致命傷は必死で有り、最早勝敗はほぼ決したかに見える状況。


 迫る死の匂い。


 膏汗と共に苦悶に顔を歪め悲壮な面を見せたままのメリッサにとどめを刺さんとゆっくりと死が歩み寄る。

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