第10話「ダンジョン(2)」
「やあやあ、どうもどうも皆さん、お元気そうで、はい」
唐突にそう話掛けて来る一人の青年らしき人物。
不審としか思えないその存在は突然にも後ろから声を掛けて来る形でケンジ達の目の前に姿を現す。
これに驚いて咄嗟、佩刀の柄を握り相手に身構えるメリッサ。グレアムも同様、瞬時に背に背負った弓に手を掛けてそのまま射ぬく動作に移る。
「何者だ、貴様!」
威嚇するように相手に叫ぶメリッサ。それに対して男が反応を見せる。
「いやいや、申し訳ないです、はい。申し遅れましたが、私レナードと申します、はい。この度ダンジョン出現に伴いまして、ギルドから派遣されました。職業は魔術師を生業にしております、はい」
そう名乗る男。
セミロングのおかっぱ頭にバスクベレーを目深に被り、細身な体躯と吊り上げ気味な細目が印象的なその男は、薄ら笑いを浮かべては自己紹介を口にする。
「ギルドから派遣? 何処のギルドだ」
「【トゥール】からの派遣です、はい」
「一人で来たのか?」
「いえいえ、まさか。お二人共、こちらへ」
男が言って直ぐ、岩影から男女二人が顔を出して近づいて来る。
「うん? あんた達、何処かで見たような‥‥‥‥、!?」
グレアムが何か見覚えが有るかのように二人をじっと見つめるが、直ぐ様ハッとして声を上げる。
「‥‥まさか、ルイス・オーブルにオリアナ・ヴェイクウェルか!。王国騎士団の隊長クラスが何故こんなところに!」
言われて後、女が口を開く。
「いかにも。先述通り自己紹介も不要かとは思うが、我々二人は王国から派遣されて来た王国騎士だ。そして、久しいな、ケンジ」
優しい笑みでケンジに向かって言葉を投げ掛けるオリアナ。
「あ、どうも。その節は大変お世話になりました」
ケンジの方も頭に手など乗せニコッとしては軽く挨拶する。どうやらお互い面識が有るようで、先程の警戒から少しばかり状況が変わる。
「あれから元気にしていたか?」
「ええ、特に変わったことも無く過ごしてましたよ」
「そうか、それは何よりだ。それとエレノアも変わらず元気そうだな」
オリアナが続いてエレノアにも声を掛けるが、エレノアに至っては少しばかり怪訝そうな感じでオリアナを見やっては一言、
「普通ね」
と、言葉を返すだけである。
そこに続いて、ルイスからも挨拶がてらに言葉が交わされる。
「二人共元気そうッスね。どうスか、あれから騎士団に入団する気にはなったッスか?」
「いや、それについては丁重にお断りしたはずです」
「ふむ、まだ覚悟が決まっていないみたいッスね」
「いやいや、覚悟とかそんなの初めから持っていませんから」
「え~、つれないッスねえ。君らが入団すると言うなら直ぐにでも副隊長の席を用意するッスよ」
「むっ、抜け駆けは許さんぞルイス」
「有望な人材獲得の為には抜け駆けなんてとは言ってられないッスよ」
顔を合わせては直後、何故か唐突に騎士団入団についての話に流れが持っていかれいるが、嘆息など突いてはケンジから否定の弁と質問が飛ぶ。
「入団へのお誘いはどうでもいいとして、何故こんなところにお二人が来てらっしゃるんですか?」
「どうでもいいとは酷いなぁ‥‥、まあ、ここに来た理由は一重に君に会いに来たいと思ったが為だよ」
「はあ‥‥」
生返事で只一言そう述べるだけのケンジではあるが、そんなオリアナからの一言に瞬間、凡そ二名程が直ぐ様反応を見せる。
一人は、メリッサが一瞬焦った様子で視線をオリアナに向ける。そしてもう一人、エレノアに至っては平静を装いつつ殺意めいた鋭い目付きで相手を睨むが如く、静かにも凝視している。
そんな少し空気の変わる中、変わらずオリアナが話を続ける。
「先程の一戦、一部始終拝見させて貰ったよ。やはりと言うか、流石だな!。今回強引にでもここに来ることが出来て本当に良かった!」
目を輝かせては何故だか暑く語りだすオリアナ。合わせて、ルイスもここぞとばかりに口を開く。
「今回はレナードさんも含めて僕ら三人でこのダンジョンまで足を運んで来た訳ッスけど、中々ここまで来るのに苦労したもんス」
「ここに来るまでに何か危険な事でも有ったんですか?」
「いや、道中の話じゃ無くて、騎士団内での内輪揉めのことッス」
「内輪揉め?」
「各隊長級同士が今回のダンジョン探索に名乗りを上げる者が多くてな。権利獲得の為に一悶着有ったと言う訳だ」
「またなんでそんなことに?」
「君に会う為ッス」
「は?」
「だから言っているだろう、我々は二人共君に会いたいが為にここまで足を運んで来たのだ。そして、その理由は君と共にダンジョン探索をしたいと思ったからだ」
詰まるところ共闘の申し入れで有ろう。
只、いきなりにも一緒にダンジョン探索をしようと言う向こう側の提案、それも王国騎士団側からの提案に多少困惑するケンジ。聞けば、ここまでのメンバー選出にも一悶着有ったとのこと。合わせて、どういう訳か、耳の早いこと。自身の与り知らぬところで何をやらかしているのかと考えると、少しばかり気が重くなる本人である。
「それにしても少数編成ながら凄い面子だな」
そう言ってケンジから他へとオリアナが視線を移して先ず真っ先に見やったのがドルフである。
「まさか貴公が同行するとは、昨日報せを受けた時は耳を疑ったぞ」
「はっはっ! 全く耳の早いことだ。しかし、耳を疑われることをしているつもりは無いのだがな」
「単騎を心情としていると聞いていたのだがな、よもやこうしてまた顔を合わせるとは」
「一人の方が自由が利くし、何より柵に捕らわれ無くて済むからな。このスタイルの方が基本気楽で良い」
「なるほど、それはまた意外な事実を知った。つい何かしらの矜持を抱えているものとばかり思っていたよ」
「勝手に単独でクエストに繰り出した挙げ句、一人犬死にしては同情の余地も無かろう」
「ふむ、自身が決めた道で有れば納得の死に方ではあるな」
「そう言うことだ。必要で有れば協力を仰ぐし、助けも乞う。それに矜持と言うなら真に果たさねばならぬ目的は他に有る」
「ふむ、なるほど。それはまた興味深い事実を知ることが出来た」
ちょっとした問答のやりとりながら、何を納得したのかオリアナからはそれ以上をドルフに問うことは無く、代わりに今度はメリッサやグレアムへと興味が移る。
「【気高き鷹】の副団長グレアム・バーフォートに、新鋭メリッサ・リードハート。噂は兼々聞いているよ。またダンジョン攻略とは中々諦めが悪いねえ、君達も」
二人に向けて少しの笑みを浮かべてはそう言い放つオリアナ。何処か蔑んでいるようにも見えるが、それに対してグレアムが正面からこれに答える。
「王国騎士団第5番隊隊長オリアナ・ヴェイクウェル氏に名を知って頂き誠に光栄だ。合わせて、その件についてだが、今回のダンジョンの再度挑戦は
「まあ、確かに戦力としては破格だろう。『魔刃』に『刀姫』、そして『鬼狩り』まで。戦力の選定としてはこれ以上無い程と言える」
「まあ、我がクランから挑むのはたった二人、それも彼らが請け負った今回の依頼に我々が懇願して便乗しただけなのだが‥‥」
「それを言うのなら俺もだ」
ドルフが話に割って入る。
「鬼狩りと俺達を同列にするのは流石に無理がある」
「良いではないか。彼の前では結局は似たようなもの。ここで何を言っても始まるまい」
「‥‥それもそうか」
そうドルフとグレアムが二人して納得する中、オリアナやルイスからも口を挟んでは会話が続けられる。
「待て待て、我々を仲間外れにされては困るな諸君」
「そうスよ、彼を除いては皆一緒みたいなもんスよ」
そうして直ぐ、皆々の視線は他でも無いケンジへと注がれることに。
「何何? 皆どうしたの!? 俺、何か不味いことでも言った?」
当の本人からすればいきなり何!?と言った具合に困った様子でエレノアに説明を求めるケンジ。
「皆、あなたに興味津々なのよ」
何故かニヤリとしてそう言ってのけるエレノアはどこか勝ち誇ったような感じでご満悦な様子である。
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