第9話「ダンジョン(1)」
「それじゃあ、また後程と言うことで、よろしくお願いします。迎えについてはこちらから連絡用の宝珠で連絡させて頂きますので」
「その旨、了解です。それではご武運を祈っておりますので、どうかお気を付けて!」
「はい、有難うございます」
そうケンジとベルマンが言葉を交わした後、ベルマン率いる騎竜輸送隊の面々がその場を後にする。
「それじゃあ、行こうか」
騎竜輸送隊の面々を見送って後、ケンジがそう言って、一向はいよいよ直ぐそこに在るダンジョンへと足を踏み入れようとする。
○●○
「入り口まではあと少しだけど、今から俺が様子を見に行って来るから、皆は一旦ここで待機してて下さい」
ダンジョン入り口に差し掛かった手前でケンジから提案が示される。
「俺は付いて行かなくても良いか?」
「はい、大丈夫です。何か有った時、戦力は成るべく残して置きたいので、ドルフさんも取り敢えずは待機でお願いします」
「あい、分かった」
二人が話し終えた後、そのままケンジがダンジョン入り口へと近づいて行く。
大きく顕在したそれは、巨大な
そして直ぐ正面の入り口に至っては、
深く、何処までも暗いその入り口奥が一体どうなっているかは、やはり実際に動いて目で見て確かめねば分からないであろう。
そして一人、ケンジが入り口目の前へと歩み寄ろうとするが、
直後、けたたましい轟音と共に何かが入り口奥からケンジ目掛けて襲い掛かって来る。
「「「「「ギギャアァーーーーーーー!」」」」」
それは、喧しく響かせる鳴き声と共に現れた魔物の群れ。
その群れが一斉にケンジに向かって押し寄せる。
「むっ!?」
その群れはあっという間にケンジを飲み込み、ダンジョン外へと溢れ出す。
「ケ、ケンジ殿ーー!!」
その光景を目の当たりとしたメリッサが声も大きく叫び出す。
本人曰く、間違いなく魔物の群れに殺られてしまったのだと慌てふためく。
だが、その光景は何処か様子がおかしかった。
ダンジョン入り口から溢れ出る魔物は、陸地を駆けるものから空中を飛行するものまで、数多に存在しているが、その悉くが後方へ血飛沫を上げながら肉塊へと変貌して行く。
異様な光景。
「‥‥な、なんだあれは?‥‥」
「剣で切り刻んでいるのよ」
「なんだと!?」
隣に立つエレノアがその光景を簡単にも説明してみせるが、瞳孔も大きくメリッサが驚き叫ぶ。
それは、双剣から成る荒業。
魔物の一斉襲来を確認したその数瞬、何処からともなく凡そ二尺程の2本の短剣を両の手に携えて、瞬間、両短剣の切っ先が消えると同時に魔物の群れが次々と悲鳴、苦鳴を上げながらバラバラに切断されて行く。
見ている側からはケンジの姿は確認出来ないが、無数の魔物の肉塊が飛散していることだけは肉眼でも十分確認出来た。
「信じられん‥‥、本当にケンジ殿が剣を振るっているのか?」
あまりの異様な光景に只々唖然として傍観するメリッサ。まだまだケンジへの心配や不安が先を行っているが、勿論彼女だけで無く、グレアムもそうした思いは同じである。
「信じられん数の群れだが、彼は本当に大丈夫なのか!?」
「見てなさい。もうすぐ終わるわ」
そうして、どれくらいが経ったか、最後とみられる魔物が切り刻まれて後、後に残ったのは死骸の山。
屍山血河のその惨状に、クラン【気高き鷹】の二人は呆然としたまま言葉を無くす。
「ワッハッハッ! 途轍もないな、貴様! 本当に人間か!!」
大笑いで血染めに濡れたケンジに颯爽と詰め寄り、ドルフがそう皮肉混じりか、ものを言う。只、何処か嬉しそうに語ってもみせる。
「さっきも言いましたけど、俺はれっきとした人間です。それに、今出て来たやつの殆どは下級モンスターなんで、そんなに苦労は無かったですよ」
剣に付着した魔物の血をはらいながらドルフの問いに直ぐ様否定の弁を述べるケンジだが、仮にもし他に多くの冒険者や一般人でも構わない、この惨状を目撃した者がいたならば、誰で有ってもケンジの弁明など信じるはずも無く、疑念を容易く抱くのではなかろうか。
そしてまた後に追従して来たグレアムからもこんな質問が飛ぶ。
「やはり君があの『魔刃』だと言う噂は本当だったのか?」
そんな急な問いに対して少し苦笑気味になりながらもケンジが答える。
「いやいや、あれは皆さんも知ってる通り『師匠』の通り名なんで、自分では無いです。それに師匠は女性です。性別的にも矛盾します」
「そ、そうなのか?、てっきり『魔刃』は男性とばかり思っていたのだが‥‥、だがしかし、言い換えれば君の師匠はあの『魔刃』と言うことになり、君は【ダークエルフ】に手を貸していることに成るのでは‥‥」
「構いませんよ、俺としては特にそう言ったことは気にしていないので。何が正しい歴史かは今の俺には分かりませんが、師匠曰く、『向こうがやって来たからこっちもやってやっただけ』とのことらしいので」
ニッと笑みを浮かべてそう言い切るケンジではあるが、そんな彼の話に薄々危険な匂いを感じずにはいられないメリッサとグレアム。ケンジが何気に語る話の内容は、その後ろに見え隠れする巨大な勢力に繋がることを示唆し、それを思えばこの二人にとって余りにも危険を孕むものであることは言うまでも無いことでは無かろうか。であるからして、生唾を呑み込んでは背筋を強ばらせる二人の姿には中々に同情するものがある。
「取り敢えず、一つ目の危機は去ったってことでエレノア、悪いけど水の宝珠を貰えないかな」
「ええ、いいわ」
言われて直ぐにエレノアが水の宝珠を腰に下げている布袋から取り出してケンジに渡す。そして、手にそれを握り徐に何かを念じると水の宝珠から水が溢れ出る。
それを使い出来るだけ汚れた部分をケンジが洗い落とす。
「水の宝珠とはまた高価な物を持っているな」
「魔物の血の匂いってほっとくと臭くなって落ちないんですよね。だからこういう時にも重宝させて貰ってます」
少しして、洗い終わったのか、エレノアに有難うと一言言って宝珠を返納する。
「それじゃあ皆、待たせてしまって申し訳無かったけど、早速ダンジョンに入りますか」
そうケンジが促して、いよいよダンジョン内へと進もうとする一向。
だが、それもある存在の登場により足を止められる。
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