第8話「探索に向けて」
翌朝、まだ朝日も顔を覗かせない少し暗がりとした中、身支度を終えて家を出る男女が二人。
「昨日は良く眠れた?」
「ええ、問題無いわ」
「そっか、それじゃあ出発と行きますか!」
そう言って、出発を促してその一歩を前へと出してダンジョン攻略へと向かうケンジとエレノア。気負いは微塵も無い様子である。
そうして歩くこと20分程、二人は国の中央都市でも有る『ストラスブール』、その正門前までやって来たのだが、そこには昨日居合わせた三名が既に二人を待ち構えていた様子で待機していた。
「おう! 二人共来たな」
開口一番、ドルフが二人へと挨拶代わりに声を掛ける。
「やあ、三人共、今朝は早いね」
「当然だろう。こんな機会、滅多に訪れるものではないからなあ、気合いの入り用も違うと言うものだ」
ドルフがやる気も十分と言った具合に声高に語る。
「ああ、ドルフ殿の言う通りだ。ダンジョン攻略と言う大事を担うのだ。気が昂るのも当然だろう」
メリッサからも相槌を打って言葉が飛ぶ。
「じゃあ、全員準備も良しと言うことで出発と行きますか」
そう音頭を取って出発を促すケンジ、他の皆からも異論は無く一様に頷く。
「あっ、そうそう、移動手段なんですけど、今回は
「まさか、騎竜での移動か?」
「はい、その通りです」
そう告げて直ぐのこと、馬程に大きな身の丈を有する獣脚類だろうか、爬虫類らしき生物が数体、人員も合わせて隊列を成し現れる。
「どうも、皆様。この度はギルド本部の依頼により参りました、『王国軍騎竜輸送隊』で有ります!」
巨大な爬虫類の背に跨がったまま男の一人が挨拶を交わす。
「初めまして、今日はよろしくお願いします!」
「おお! あなたがシンドウ様ですね。お噂は予々。輸送隊班長のベルマンと言います。本日はよろしくお願い致します!」
「ほう、国が動くとはな」
畏まった様子で低頭に挨拶をするベルマンの後にそう言葉を漏らすドルフ。
王国軍騎竜輸送隊。それは軍直轄の部隊で有り、人員輸送を生業・優先とした輸送部隊である。主な任務としては、騎竜を使っての人員の移送の他、物品の輸送等々。
「この度はダンジョン出現と言う事態にギルド本部から要請を受けて馳せ参じた次第です!」
今回の輸送隊班長でもあるベルマンが簡単にも経緯等を説明する。
「それじゃあ、今からこれに乗ってダンジョンまで前進しようか!」
そう言ってケンジの指示の下、他4人が騎竜の荷物と一緒に騎手の直ぐ後ろの座席へと跨がる。只、そんな中一人だけ荷物だけを任せて、何やら膝屈伸などしては一向に乗る気配が無い男が一人。
「何をしているのだ、ケンジ殿?」
「うん?、ああ、準備運動だよ」
「準備運動?」
「ああ、俺はこのまま走って行くつもりだから」
「は、走ってだと!?」
殊更にメリッサが動揺を顕に驚く。横にいるグレアムもメリッサ同様、驚きを隠せない様子であるが、
「ほっときなさい。いつものことよ」
エレノアからは毎度のこととばかりに気にする素振りも見せること無く、そう告げられる。
「ここから大まかに見積もっても五里は有るぞ?」
「ダンジョン探索までのウォームアップってところだよ」
メリッサの心配を他所に平然とした態度で答えるケンジ。
「そ、そうか‥‥」
「ワッハッハッハ、騎竜と張り合うとは全く大した男だ!」
「お噂に違わぬ精強ぶりですなあ」
ドルフからは大きく笑い声が飛び、騎竜輸送隊班長ベルマンを始めとした班員の面々からは関心が寄せられるなど、いやが上にも注目が集まる。只、本人としては別段、特別なことでは無く言葉そのままにウォームアップと言うだけのことなので、まるで気にする様子を見せない。
「さあ、それじゃあ出発しますか!」
そうしてケンジの出発の合図と共に一向はダンジョンへと向けて前進を開始する。
○●○
出発してから程なくして、一向は目的地であるダンジョン前へと辿り着く。
「あれが例のダンジョンか」
騎竜に跨がったまま数百mばかり離れた丘からダンジョンを見下ろす一向。
「寒気と言うかなんと言うか、異様な空気だな」
「恐らくだけど、既に多数の魔物が増殖して蠢いているんだと思う。魔力の量が通常とは異なるからね。‥‥やっぱり【侵食型】は厄介だね、増加の速度が通常の比じゃない。この分だと、階層事態もかなりの数増えてるはずだ」
「ふむ、なるほど。それは早くことを急ぐべきだな!」
そうダンジョンについて詳しく語るケンジだが、周りの目は何処か覚束無い様子である。只一人を覗いては。
「それにしても流石と言うべきか。騎竜もかなりの速度だったはずだが、最後までそれに並走してまるで息の上がった様子が見られないとは」
「全くですなぁ、これでは我々輸送隊も形無しですぞ」
「正にその通りだ」
「いやいや、こっちは殆ど手ぶらだったから移動仕安かっただけで、今後も輸送隊の方達にはお世話になるつもりです」
慌てた様子で弁明に努めるケンジだが、皆々はケンジに大いに関心な様子である。勿論、羨望に似た眼差しなだけのことでは有るが、どうにも浮いた存在になりがちなケンジ。只、そんな中で一人だけ目線の違う意見を言う女性が一人、エレノアである。
「全く、いい加減にして貰えるかしら? これが彼の当たり前よ。そして彼にとっての普通。それ以上でもそれ以下でもない。だからいちいち一喜一憂されても迷惑だし、さっさと馴れてくれないと困るわ」
エレノアがぶっきらぼうにもそう語ってみせる。
周りからは特に反論も無く沈黙が生まれるが、ケンジに関しては、そう言われてポリポリと頬など掻いて苦笑などしてみせる。
「ふむ、確かにその通りだ。ケンジはケンジ、我々は我々だ!」
途端、ドルフがそう大きく声に出して言ってみせる。
「そうよ、それにあなたがいちいち反応を見せなくても良いのよ。同じ化け物なんだから」
ズルッ
そんなエレノアの一言に転けそうになるケンジ。
「ちょっと、ちょっと! ドルフさんにも失礼だけどそれじゃあ、まるで俺が化け物みたいじゃないか!」
「力的には既に化け物よ」
「俺はれっきとした人間です!」
「人間の化け物ね」
「言い方!」
そんな二人の押し問答に堪えられなくなったのか、ドルフから大きく笑いが飛ぶ。
「ワッハッハッハ!、良いではないかケンジよ! エレノア嬢からの褒め言葉として共に頑張ろう!」
「はぁ‥‥、ホント、フォローしてんのか、貶してんのか、わかんないよ。‥‥まあ、いいや。それじゃあ皆さん、本格的に探索に乗り出しますか!」
ケンジからは少しの嘆息が漏れるものの、気持ちを新たにダンジョンへと探索を開始する。
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