第11話「ダンジョン(3)」

「さて、長話もこの辺にするとして、あんた達3人も俺達に同行すると言う話だが、ケンジよ、どうするべきだと思う?」


 ドルフにそう言われて少し思案するも直ぐに答えは示される。


「参加人数は定員一杯ってところですけど、皆さん自分の身ぐらい守れる方達ばかりなのでこのまま同行されても問題無いと思います」


「助かるよケンジ」


 ケンジからの許可も降りたことで少し安心したように直ぐ様握手を求めるオリアナ。


 それに答えてケンジからも差し出されてはガシッと交わされる握手。


「短い間ではあるがよろしく頼むよ」


「無事終えられるよう頑張りましょう」


 お互い決意も新たに事に挑む気は十分である。


 そうして、目的のクエストを眼前に最終的には8名体制で編成を完結、いよいよの出陣である。


「‥‥しかし、暗いな‥‥」


 ドルフが支柱入口奥を改めて見てはそう口にする。


「どうやら広く下へと階段が続いてるみたいだな。只、こう暗くては灯りが必要だ」


「僭越ながら、それについては心配ございません、はい」


 ドルフが悩みを口にするも直後、レナードから提案が示される。


 レナードが軽く親指と中指をスナップさせると、光の球体が出現、一瞬にして辺り一面が照らされる。


「ほう、これは凄いな」


「これだけ確りと視界を確保出来るのはかなりの強みッスね」


「有難うございます、はい」


 視界が照らされたことで支障となったはずの問題が即座に解決されたことは探索を進める上でこの上無いアドバンテージである。一同内心での安堵も大きいものでは無かろうか。


「それじゃあ、このまま進むッスよ」


 そしてルイスが音頭を取ってそのまま先人に立つ‥‥、と言う訳ではなく、何故だかちょいちょいと手招きしてはケンジを先頭に立たせて列を作る。


「さあ、レッツ・ダンジョン!ス」


「王国騎士団隊長とも有ろう者が露骨に味方を盾代わりにするつもりかしら?」


「そのつもりッス」


 エレノアからの皮肉な物言いに対し事も無げに真顔でそう言ってみせるルイス。無粋極まりない発言だが実に潔い発言でもある。


 只、勿論それを聞いて直ぐ様エレノアからは卑下しては言葉が続く。


「呆れてものも言えないわ」


「まあまあ」


 宥めるケンジ。


「別に問題無いですよ。当初からその予定でしたから。前衛は任せてくれれば大丈夫です」


「申し訳ないッス。盾代わりって言うのは冗談スけど、ここは正直に恥も外聞も捨ててお願いしたいッス」


「任せて下さい」


 隊列を組んで一行は長く地下深くへと続く階段を降りて行く。


 先程の魔物の襲来を受けては、道中は常に警戒を意識しながらも、先程とは打って変わって特段魔物らしき存在との遭遇もそう言った気配も無く、いよいよ階段を下り終わろうとしていたその矢先、


「皆さん、見えますか?」


「ああ、確り見えるぞ」


 地下を降り立とうとして眼前、そこには途轍も無く巨大な門扉が目の前へと顔を晒す。


 先程まで歩んで来た階段の広さもさることながら、装飾的刳形で施された巨大な門の大きさにほぼ一同目を疑うばかりなのは勿論、明らかに作為的工作であるのが見て取れる造形物には我々に対する断固とした拒絶の意思を孕んでいるかのようなそんな意図さえ有るのではと勘繰ってしまわせる程。一体全体どうしてこのようなものが存在するのか、どのような背景をして誰が何の為に生み出したのか、長くより感じていたダンジョンに纏わる違和感は未だ拭えぬところではあるが、そんな中降り立った門の目の前、先にオリアナから口が開く。


「やはりこうして来るとダンジョンと言うのはその異質さが際立つな‥‥。『聖霊の住み処』、『異界宮殿』、『神の箱庭』‥‥、数多くの忌み名、逸話に彩られながら、数多の有象無象もとい、冒険者達を喰らってきた文字通りの正に魔境。聞けば、上古の時より存在せしめて今に至るとも。先程の魔物の軍勢もここより生い出でて現れたので有れば、これより先、門の向こう側がどのような場所であるかは想像に難くないことではあるが、格言う私もご覧の通り手汗が凄い」


 門前で淡々とそう説明しているものの極度の緊張からか或いは恐怖からか、自らの手を見せては自身の状況を口にする。


「しかも、それが【侵食型】と来れば事態はより深刻なものッス」


「今更ながら当然ではあると思う」


 皆、今一度状況を振り返る。そして、幾らか萎縮し始めるものも。


 只、そんな中にあっても、たいして気にも留めない者もちらほら。


「大丈夫ですよ、どうなるかは分かりませんけど、本当に危ない時は何とかしてみせますから。ねっ、ドルフさん」


「ハッハッ、簡単に言ってくれるな。まあ、お前や姫さんもいることだ。期待に答えられるよう頑張ろう」


 二人のあっけらかんな、それでいて頼もしい会話にはどのような自信が隠されているのか、これまでのバックボーンは何なのか、この場ではまだまだ量りかねるばかりであるが、それでも回りとしても希望を持たずにはいられないのでは無かろうか。


 只、そこはダンジョン、希望的観測を謳うには些か尚早でもあろう。


 ギギィ、ギギィィィィィ‥‥‥‥‥‥


「ヴオォォォォォォォォォ」


 全員が振り向いた先、巨大門向こうより蠢くそれは大きく軋み開く扉より顔を覗かせる。


「ヒッ‥‥!」


 漏れ出る恐怖。メリッサが目の前の魔物に対して抱いた、多分に忌憚も無く偽りも無い所思で有ろう。


 トロル。門の開放と同時、突如現れた身の丈10mは有ろうかと言った巨駆の怪物。それも3体。その眼差しは明らかにケンジ達一行を捉えたもので有り、敵意を向けているのは明白、なれば最早戦闘は必然。


「(むっ)」


 ケンジが柄に右手を掛けたその時、


「ケンジよ、すまないがここは俺にやらせて貰えないか?」


 思い掛けずドルフからの提案。それに対してケンジからは少しの思考の後、


「了解です。じゃあ、お願いします」


「うむ、任せて貰おう!」


 そう任されて、背中に掛けていた大剣を抜いては正面のトロルへと向ける。


「悪いがここからは俺の領分だ!」


 そう言って直後、自身の肉体が肥大化、腕だけでも当初より倍の筋力を有する程に膨れ上がる。


「はあぁぁぁぁぁ!」


 気合いの掛け声と共に地面を踏み抜いて一直線、真っ向からトロルに向かい猛進、そのまま横凪ぎに振るわれる大剣の一閃は1体目のトロルをあっさりと両断。続けて間髪を入れずに2体目、3体目と猛追しこれを撃破。


 ものの数では無いと言わんばかりに圧巻とも言える圧勝劇である。


「す、凄い‥‥」


 驚嘆を口にするメリッサ。


「トロルと言えば最低でもA級討伐指定に分類される強力な魔物、それをこうも容易く仕留めるとは。流石は大陸に10人といない白金等級プラチナクラス。ケンジばかりが目立っていた格好だが彼も十分化生の者のそれだな」


 メリッサの横で冷静にドルフの強さを推し量るオリアナではあるが、彼女も同じく驚嘆の色を隠せない様子である。


「お二人共悠長に感心してる場合じゃないわよ。見なさい」


 エレノアに窘められて、二人共正面の門を見やる。

 そこには門より漏れ出る光の差す方、数限り無い程に群がる魔物が門奥から無数に抜け出ようとしているのが分かる。


「まずい、このままでは!」


 嫌が上にも危機感が身を襲うそんな緊迫した状況の中で未だ自身がどうすべきを決められず攻め倦ねた状態にいるメリッサ。


「(こんな数の魔物、一体どうすれば‥‥)」


「皆の衆、後方へ下がれ! オォォーーーーー!」


 そんな思考の只中に於いても勿論この状況が終わる訳でも、況してや待ってくれる訳でもない。

 ドルフが彼女の心境を他所に自身の大剣に魔力を込め始める。


「むん!!」


 込め終えて直後、上下一直線に振り下ろされた斬撃の一閃はそのまま魔物の大群へと放たれる。

 次に起こるは轟音と共に一瞬にして消えいく魔物の群れ。この時点での勝負は最早決したかに見えた。

 だが次の瞬間、開いた門より巨大な火球が逆に正面ドルフ側へと襲い掛かる。


「むぅ!」


 これを寸でのところで交わすドルフ。


 しかし、悲劇は正にその後方で起きようとする。



「メリッサ! 避けろー!!」

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