第6話「依頼 その2」


「ケンジ殿、少し待って貰えないだろうか?」


 見れば、メリッサが畏まった様子でケンジに対面、呼び止める。因みに横には他に如何にも戦士然とした体格の良い男がメリッサに付き添っているのが伺える。


「どうしたの、メリッサ」


 メリッサのそんな様子に自然にも声を掛けるケンジ。そしてメリッサがおもむろに重たくも口を開く。


「こんなことを頼めた義理で無い事は私とて十分に理解している。だが、それを分かった上でお願いしたい。‥‥私達も一緒に同行させては貰えないだろうか?」


「ちょっとあなた!‥‥」


 これに透かさず反応を見せるエレノアであるが、ここでケンジがエレノアを静止。


「まあまあ、話だけでも聞いてみようよ」


「本当に甘過ぎるのよ、あなたは!」


「まあまあ」


 怒れる子供をあやすかのようにケンジがエレノアを宥める。それと同時、ケンジ側からも質問が飛ぶ。


「俺達とダンジョンに行きたいって言うのはどうして?。理由を聞かせて貰っても良いかな?」


「それは俺が話そう。お初にお目に掛かる、メリッサとクランを共にしているクラン【気高き鷹】副団長のグレアムと言うものだ」


 当然の質問では有るが、これに対しメリッサの代わりに横にいた戦士風のグレアムと名乗る男が申し訳無さそうにも回答を述べる。


「あんた達も認識しているとは思うが俺達のクラン、【気高き鷹】はこの国でも有数のクランとして其れなりにも名が通っている。黒等級ブラッククラス以上も多数在籍している。そんな有望揃いのクランでは有るが唯一、これまでダンジョンの攻略だけは足を動かした事が無い。‥‥いや、少し語弊が有るな。正しくは、ダンジョンに出向こうとした直前で全滅の危機に瀕したと言うのが正解だ」


「何それ‥‥?」


「なるほど、ダンジョンから溢れ出た魔物に襲撃を受けたと言うことだね」


「ああ‥‥、その通りだ」


「そう言うことね」


「それが、2年前だったか、当時としては被害も甚大で、クランを立て直すのに相当苦労した。そう言った経緯も有り、以降俺達のクランはダンジョンへの挑戦に足踏みしているのが現状だった。只、今回なんの因果か、直ぐ近くにダンジョンが顔を出した。これを好機と見るか、災いと見るかは各々の自由とは思うが、この事態に俺達は今一度再起を掛けて挑戦したいと考えている。だから‥‥、俺からもお願いしたい。是非ともあんた達と一緒にダンジョンに同行させて欲しい」


 深々と頭を下げる男、それに続くようにメリッサもまた同じように頭を下げる。


 そんな二人の様子にケンジからは直ぐに答えが示される。


「良いんじゃないかなぁ。来たいって言うならこっちとしては断る理由も無いし」


「本当か!?」


「とは言うものの、あまり多人数でのダンジョン攻略は困るかな。挑戦するにしても全部入れて5人ぐらいがベストだね」


「そんなに少なくて大丈夫なのか!?‥‥いや、言う相手を間違えた。あんたがそう言うのならそれに従おう」


 最初こそケンジの提案に反発仕掛けるも直ぐ様提案側のこれまでの実績を頭で加味、訂正の旨を口にする。


「となれば、あと一人だけど」


「その話、俺も載せては貰えないか」


 メンバーの選定に少し思案するも、不意にケンジへと志願を持ちかける大柄の男が一人。


「ドルフさん」


 長身の背丈に短く刈り上げられた黒髪、巨大とも言える大剣を背中に担ぎ、布地越しからも隆起した筋肉が男の強さを表しているかのような体格の持ち主ではあるが、この男の登場に途端周囲がざわつく。


「「「(『鬼狩りドルフ』!!!)」」」


 その場に居合わせた殆どの人間が彼の一挙手一投足に注目を集める。


「珍しいですね、こんな所で。て言うか、まさかダンジョンに付いてきてくれるんですか?」


「付いてきてくれるもなにも、こちらがお願いしているんだ。是非よろしく頼む」


「「「(あのドルフがお願いだと!)」」」


 驚愕するは周囲の皆々。一様に有り得んと言った顔でドルフ本人に視線が集中する。


「『鬼狩りドルフ』。対オーガ戦に置いて無類の強さを誇ると言われる一騎当千の怪物。依頼処理の際は必ず単騎を心情としていたはずのあの男が、他人と手を組んで事にのぞむとは、いよいよシンドウと言う男の底が知れん」


「噂では既にお互いに協力し合ってダンジョンを攻略したとも聞いているぞ」


「国家随一の冒険者と謳われるあのドルフをして協力を勝ち得たとは、信じられん話だ‥‥」


 周囲では本人達を直ぐ目の前にして会話が飛び交う。

 只、そんなことはお構い無しにメンバー間ではあれやこれやと話が進む。


「何? 『鬼狩りドルフ』とも有ろう者がおこぼれに預かろうとしている訳?」


「ちょいちょいちょい!?」


 ここでも憎まれ口を叩くエレノアに感髪を入れずに慌ててケンジが静止を図る。


「もうドルフさんにまでそう言うことを言っちゃ駄目だよ」


「ハッハッ。構わん、構わん! エレノア嬢の言う通りだ。まあ、乞食では無いにしても、金魚の糞位に思って貰えれば有難い」


「どっちにしても使えないじゃない」


「ワッハッハ! 返す言葉も無い!」


 エレノアの皮肉に形無しなところでは有るが、碌に気にした様子も無く馬鹿笑いで返すドルフ。それでも慌ててケンジが注意に入る。


「だから、そう言う憎まれ口は叩かないの! そんなこと言ってると誰も助けてくれないよ?」


「あなたさえいれば十分だわ‥‥」


「勿論、エレノアに何か有った時は絶対に守ってみせるけど、俺がいない時万が一のことを考えたら‥‥」


「そう言う意味じゃないわ‥‥」


「うん?‥‥、どういう意味?」


「もういいわ、忘れなさい」


「ほう~‥‥」


 二人の噛み合わぬやり取りに顎に手など付けてみては、察したかのようにニヤリとほくそ笑むドルフ。中々に面白い光景とばかりに男女の事情を傍観する。


「し、心配は要らぬ。エレノア殿の危機に際してはこの私が必ず馳せ参じ、力になってみせる!」


 そんな二人のやり取りに割って入るメリッサ。


「は?」


 それに対して荒涼とした表情で何言ってるの? と半ば切れ気味にブロンド美女を睨み付けては短くも吐き捨てるように台詞を吐く元王女様。


「む、むぅ‥‥」


 それに対して冷や汗など垂らしては後退るブロンド美女。

 気負いが半端無い。只、ケンジ側からはメリッサからの協力の呼び掛けにお礼などが告げられる。


「いやいや、助かるよ、メリッサ。その時はよろしく頼むね」


「あ、ああ、任せてくれ!」


 ケンジからの反応に途端、元気良く返事を返すメリッサ。自分が口走った手前、エレノアからは睨まれるも、彼からは快く要望されたことに士気も上々、ダンジョンへの意気込みも高まると言うものである。しかしながら、ここで当然エレノアが噛み付く。


「いいわ、今から一対一サシで勝負しましょ。そして、もし仮に私に勝ったのなら好きなようにしていいわ」


 そう敵対心を露に喧嘩を吹っ掛けるエレノアでは有るが、ここでもケンジがそうした行為を諌めようと話に割って入る。が、


「女の子が一対一サシで勝負とかそんな物騒なこと言わないの」


「あなたは黙ってなさい!!」


「はひ!?」


 怒髪天を突くが如く、荒れた様子で声を荒げる。

 そんな怒れる彼女の怒声に途端ケンジの背筋がピンと張る。師弟関係もクソも無い。


「ハッハッハ、落ち着け、落ち着け。一時では有れど今から共に共闘する身だ、皆仲良く行こうではないか!」


 ケンジとエレノアの肩を軽く叩きながら割って入りドルフが場を納める。


「ふん‥‥」


 そう諭されてエレノアがドルフを睨み付けるも、小さく鼻を鳴らしてそっぽを向いてそれ以上は静かになる。


「すみません、ドルフさん」


「構わん、構わん」


 畏まっては謝罪するケンジ。勿論ドルフとしては何も問題は無いと気にした様子も見せないが、出だしからギスギスした感の否めないメンバー内のムードに多少の危機感を覚えつつ、明日に向けての対策を講じようと思うケンジで有った。

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