第5話「依頼 その1」
「何卒よろしくお願い致します!」
「取り敢えずどう言った内容の依頼なのか教えて頂いても大丈夫ですか?」
「あ、はい! こちらになります」
そう言って、有る一枚の依頼書で有ろう紙をケンジに見せる。
するとその紙面を見た途端、ケンジはしかめっ面で表情を歪ませる。
そんな彼と局長の騒がしくも何らかの問答に不穏な何かを感じて直ぐ様駆け寄るエレノア。
「一体何事?」
そう問い質しながらエレノアがケンジの手に持っていた書類に目をやる。
「‥‥ダンジョン攻略ですって!‥‥」
内容の確認と同時にやはりこちらも険しい表情へと顔が変わるが、それ以上に周囲の冒険者達が顕著に色めき立つ。
「ダンジョンが出現したのか!」「ここにもとうとうダンジョンが現れたか!」「おい、俺達にも内容の確認をさせてくれ!」「ダンジョンが現れるなんて実に稀なこと。ここで一気に名を上げるチャンスだわ!」
ダンジョンと言うフレーズが耳に入るなり、一気に周囲はダンジョンに関して燃え上がりを見せようとしている。そんな中でもギルドの局長であるハリスはケンジに向けて話を続ける。
「是非ともお引き受けして頂ければと思います。勿論、我々ギルドからの特別報酬もご用意させて頂きます」
「困ったなぁ‥‥」
あまり気乗りのしないケンジ。何か理由でも有るのか、ふとケンジから局長へと質問が飛ぶ。
「因みにこれ、種類は何ですか?」
そう言ったケンジの台詞に対して、「あっ」と声を詰まらせて、直後身体を震わせる局長。口をへの字にして、額からも何やら汗のようなものが流れるのが見える。そうして少し躊躇する素振りなどして見せた後、重たい口を開いて見せる。
「‥‥このダンジョンは【侵食型】ダンジョンです」
途端、そう局長の口から出た一言にあれだけ騒いでいた周囲の喧騒が一斉に静寂へと様相を変える。
「全く信じられない話ね‥‥」
エレノアが憎々し気にそう言葉を溢す。
「はぁ‥‥」
答えを聞き出して少し呆れた様子で嘆息しながらも依頼される側であるケンジが語り出す。
「必要事項はきちんと記載していただかないといけないですね。一般のダンジョンも勿論そうですが、【侵食型】なんて言う特異種に事前の情報や準備も無しに挑むのは普通は自殺行為です。僕でも少し躊躇うし、人並み程度のクランや冒険者じゃ骨に成って帰って来るのが関の山です」
「はい、申し訳ありません。完全に失念しておりました」
自らの失態にかなり緊張した様子で謝るギルド局長。やってしまった感がありありと見て取れる。しかしながら、そんなケンジの続いての返答はと言えば、
「まあ、それはそれとして、分かりました。この依頼、お引き受けします」
「本当ですか!」
何を思っての決断か、依頼を請け負うことを了承する。これにエレノアが反応、耳元で小さくケンジに質問する。
「(いいの?)」
「(まあ、見て見ぬ振りも出来ないしね)」
「(そっ)」
小さくケンジがそう返答すると、エレノアからは特に反論も無く、それ以上を返すことは無かった。そして、その後ケンジから局長へ簡単にもダンジョンへの対策が示される。
「ところでですが、【侵食型】ダンジョンは場所にもよりますが、頬って置けば被害は甚大になる恐れが有りますから早急に対処するのが望ましいですね。合わせて、ダンジョン近辺の町などに厳戒令を敷くなどして守備を堅めて下さい」
「ど、どうしてでしょうか?」
「ダンジョンから漏れ出た魔物が近隣の町や人々を襲う可能性が有るからです」
「そ、そうですか、分かりました! 直ぐに対応させて頂きます!」
ケンジに言われて、直ぐ様ハリスが部下の職員に指示を出す。
「ダンジョン近くに点在する町に急いで報告を!。各ギルドにも応援要請を掛けられるよう準備を急げ!」
「「「了解!」」」
ハリスの指示により部下のギルド職員達が一斉に対応に当たるよう行動を開始、局長であるハリスも行動に移ろうとケンジから踵を返そうとするが、直後、
「ちょっと」
「何でしょうか?」
エレノアが不意にハリスを呼び止め疑問を投げ掛ける。
「ところでだけれど、確かダンジョンの攻略って、
「はい、そうですが」
「だったら生憎だけれど、彼も私も
「え?」
ハリスへとそうエレノアが告げると、ハリスが一瞬疑問符を浮かべた後、右手を左右に振り否定の態度を取る。
「いやいや、まさか、そんな。冗談にしてももう少しユーモアをですね‥‥」
少し嘲笑気味にそう言ってくる局長にお互い示し合わすかのように二人共スッと自身の等級を示すタグプレートを差し出す。
そして、ハリスがそれをまじまじと確認するやいなや、数瞬の後これでもかとギョッと驚いた様子で直ぐ様二人のタグプレートを取り上げる。それに対し、
「あっ」
と言った調子で声を出すケンジだったが、局長に関してはニマッと笑みを浮かべて直ぐ、脱兎の如く後方の職員用事務室へと消えていく。
ポカンとした様子で立ち尽くすケンジとは対照的にフンと呆れた調子で腰に手を当て溜め息をつくエレノア。
「持っていかれちゃったね」
「いいのよ、持っていかせれば」
「そうなの?」
「ええ、少ししたら戻ってくるから大丈夫よ」
そうエレノアが言って直ぐ、確かに局長であるハリスが急いだ様子でこちらに戻ってくる。
「ハァハァ、‥‥嫌、申し訳ない。どうぞこれがお二人の新しい等級証明になります」
そうして息も切らせながら戻って来たハリスの手から出されたものは、以前に持っていたタグとは異なり、真新しく銀色に光るプレートで、そこにはそれぞれのネームや等級が記載されているのが分かる。
「これって‥‥」
「はい、今よりお二人には
「「「お~!」」」
局長の一言と共に、周りからどよめきが起こる。
只、この突然の対応にケンジから疑問が投げ掛けられる。
「良いんですか? いきなり3つもクラスを飛ばして」
「構いません。前回の功績や、今までの実績を考慮すれば、当然の昇級です。逆に今まで私を含めギルドは何をして来ていたのかと、私としては大変憤っている始末です」
「当然ね。むしろ処分物よ」
「‥‥」
「エレノア(苦笑)」
エレノアの処分と言う文言に対して何も言えず押し黙るハリス。それに対して苦笑いでこれを諌めるケンジ。ただし、そうであるとケンジも思っているのか、否定の弁を口にはしない。
「まあ、いいわ。昇級としては及第点と言ったところで、早速だけど場所を教えて貰えるかしら」
「あ、はい! でしたらこれを」
そうエレノアが言うと同時、ハリスが地図を取り出し、二人の目の前で広げてみせる。
「トゥールとのちょうど間ぐらいね」
「はい、ここから歩いても数刻程の距離になります」
「なるほど、分かりました。じゃあ、準備も含めて明日の明朝から開始しようと思います。それでよろしいですか?」
「はい!、是非その旨でよろしくお願い致します」
「それじゃあ、受理されたってことで行こうか、エレノア」
「ええ、そうね」
そう言ってギルドを後にしようかと言ったその直後、不意に横からの声に二人共足を止めることになる。
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