第387話 魔神と少女

 

「え?」


 祐人は脱兎のごとく逃げ去っていったガストンを見送る。

 続けて【赤い魔女】と名乗った強烈な魔力のオーラを放っていた女性がそのガストンを逃さんとばかりに追いかけて行く姿が目に入った。


(ど、どういうこと?)


 それはどうやらここにいる能力者、全員の疑問でもあった。

 マトヴェイにしてみれば応援戦力の半分が来てすぐに消えてしまった。だが同時に最も自分を苦しめたガストンという強者もいなくなったために複雑な心境である。

 祐人も応援を確認した際、すぐに考えたのはガストンには強敵たちの一角を担ってもらう、ということだった。

 ここに現れた敵は簡単ではない。

 ガストンレベルでなければどうにもならず、言い換えればガストンに無理ならこの戦いを支えきれなくなる。

 しかし、ある意味担ってもらっている、いやすでに担ってもらったので問題ないともいえるため、状況把握に戸惑った。


(あ、そういえば、ガストンの奴、変なことを言ってたな)


 それは祐人がガストンと合流する際にしばらく音信がなかったことを尋ねた時のことだった。


「ああ……いや、ちょっと四天寺の襲撃者を探った際に中々の方々と戦闘になりましてね。そのうちの一人がとても癖のある方で……。はあ~。本当に大変な目に合いまして、というより合っている最中とでもいいましょうか。それで表には出ないようにしていたんです」


「え⁉ それは大丈夫なの? そんな大変なことになっているなら何で僕に言ってくれなかったんだよ。すぐに助けにいく……」


「あ、違うんです。戦いは終わっているんです。といいますか、はあ~。違う意味で追われ始めまして。どこをどうするとあのような理解になるのか、私には皆目分からないんです。はあ~。今は旦那と契約したことで体質までが似るのかと真剣に悩んでいるんです」


「うん? あれ? ごめん、何の話???」


 ガストンは祐人の問には答えず、ふう~、と息を吐くと突然、ハッ! と目を見開き腕を組んだ。


「いや、あり得るのかもしれません。【歩く女難】を主人兼友人にしたんです。しかもここまで深刻なものは珍しいというレベルのものです。本来は人が羨むほどの幸せ、幸運にも関わず、旦那に限ってはすべて【女難】に変換されるんです。これはもう秘術の類か前世の業がよほど深いか、はたまた堂杜の固有スキルという可能性も捨てきれません。ああ、だとすると私は、よりによって何て人と契約したんですか」


 その内にブツブツと呪文のように独り言を言い、途中から涙ぐんでいるのでこの件に触れるのを祐人は止めた。よく分からないが妙にため息が多いことからもガストンの苦悩が伝わってはくる。


「途中までは戦っていたんです。かなりのシビアな戦いでした。私も旦那以来の本気を出しましたし……ああ、それがどうしてああなるのですか。真の愛? 無償の愛? 愛をずっと与え続けることができる? 私には彼女が何を言っているかまるで分かりません」




(あの時の話に関係しているのかな?)


 祐人がそう考えたところで唯一、これらの環境変化を意に介していないアシュタロスが天井の大穴を見上げるとニッと笑う。

 そして軽く地面をタップする。するとミサイルのように飛び上がった。

 顔色を変えた祐人と英雄はその姿を目で追う。


「まずい、英雄君!」


「チッ、追いかけるぞ! 楽際も来い!」


 祐人たちは空は飛べない。

 そのため、すぐさま階段へ移動を試みる。


「おっと、そうはさせねーな。魔女は行っちまったが俺たちは元々、魔神の好きにさせる、という目的があんだよ」


 赤い魔女と同行していたシャフリヤールと名乗った者が祐人たちの前をふさいだ。



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