第359話 修行の再開③

「だ、駄目、全然当たらない」


「はい……力を出す前にいつのまにか弾かれたり投げ飛ばされます」


「よし、休憩。五分休憩後、もう一度、組手だ」


「ま、まだやるの」


 その場に秋華と琴音が腰から崩れ落ちる。


「何を言っているの。今日が終われば明日しかないよ。そんなことを言っている暇があったら考えろ。何故、僕に当たらないのか。隙だと思ったものが隙ではないのは何故か。あと、何のために領域の修行をしたんだ。二人とも領域を活用できてない」


「だって領域はお兄さんに押し込まれるんだもん! 広げようとすれば強度が落ちて一気に支配される可能性もあるし」


「そうなんです。私もそれで活用どころじゃないです」


「ふむ、ちょっと考えが横にそれているね。思い出して。領域は自分自身だ。普通の人間が自由に動かせるのは自身の肉体。領域はその肉体が、自分が自由にできる境界線が広がるのと同じだ。それと同時に領域は肉体と違うところがある。それは領域が他人の領域とも重なることだ」


「分かってるけど……うん?」


「あ……待ってください。そうです。領域は重なるんです。じゃあ何で堂杜さんの領域に押し込まれるんでしょうか」


 秋華と琴音が目を合わせる。


「ふう、お水をとってくるよ。帰って来るまではサービスタイムで休憩を延長するから。ああ、喉が渇いた」


 祐人は立ち上がるとそう伝え、黄家の屋敷の方へ出て行った。


(うん、根性があるね。もっと甘ったれているかと思ったけどそうじゃなかった。それに動きも予想以上。あ、駄目だ、笑みが零れちゃう。でもそれでも高位人外の強烈な自我に対抗するにはもう一段、超えてもらわなくちゃ駄目だ)


「ふん、分かりやすく時間なんか与えちゃって。お兄さんって本当、演技が下手だよね」


「ふふふ、はい。でも、さっきの話、考える必要があります。想像ですが堂杜さんはこの修行からこと細かに教えてくれますが領域の件については説明が少ないです。ここは自分で気づかなくては駄目だということじゃないでしょうか」


「うーん、そうかもしれないけど、痛たたた、全身痣だらけで考えが纏まらないわ」


「領域は重なるんです。でも押し込まれる。何故なんでしょう。そういえば最初の修行の時は重なっていました」


 その話を聞いて秋華もハッとする。


「うん、それであの最悪な経験をしたんだもんね」


 二人にしばしの沈黙が起きる。

 ふと琴音が顔を上げる。


「あ……領域は自分自身。ということは」


 秋華がこれに大きく頷いた。


「そうよ、それしか考えられない。押し込まれたんじゃない。私たちが引っ込めたのね。お兄さんの領域に無意識に怯えたのよ」


「はい」


「でもリスクな気がする。領域は広げると強度は下がるから、お兄さんの強烈な殺気に……ああ、なるほど!」


「なんでしょう」


「だから今朝、あんな修行をしたのよ! 敵意、悪意、殺意を受けても動じないために。本来は長い修行の果てに手に入れる自信やタフさ、あとお兄さんの言う魂の強さを短時間で手に入れさせようとしたんだ」


「ああ! じゃあ私たちは領域を数多くのスキルの一つと、以前の勘違い状態に戻ってしまっている」


「そう、怯えてね。領域は自分自身。お兄さんは我の塊りって何度も言ってた」


 秋華と琴音は互いを見つめて大きく頷いた。


「もういいわ。次は開き直っていくよ。どんな悪意も跳ね返すわよ、琴音ちゃん」


「はい! 次は領域を広げます! その中に堂杜さんを入れます!」


 二人はそう言うとどちらがというわけでもなく瞑想を始めた。



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