第358話 修行の再開②


「はい、休憩ね。五分後に再開だから。でも領域はそのままだよ。最小の領域を維持して」


「五分だけ⁉ しかも領域展開していたら休めないよ!」


「うん、元気だね。良かった、良かった」


「鬼ぃぃ!」


 秋華の文句を祐人はサラッと流す。


「大丈夫? 秋華ちゃん」


「もうギリギリよ。大体、次の修行がいきなり体術の実戦ってどこの熱血バトル漫画よ! 琴音ちゃんは大丈夫なの?」


「正直厳しいです。足が疲労で震えてしまって」


 秋華と琴音が座り込んで息を整えていると祐人がにこやかに近づいてきた。


「じゃあ、二人とも休みながら聞いて。さっきの領域の修行で二人は術発動の基盤が強化された。そうだね、修行の目指しているもののちょっと手前ぐらいにまではきた。本当に凄いことだよ。僕よりも二人は才能があるんじゃないかな」


 祐人は頷きながらとにかく嬉しそうだ。


「目指しているもの? それは今回の修行の目的?」


「僕の師匠の言葉を借りると『不惑』の領域を手に入れる」


「『不惑』ですか」


「そう。これは仙道使いにおける能力を使う際の心を表している。段階として『守己』(自分の分をわきまえる)、『知敵』(敵の強さを知る)、『知己』(おのれを知る。※この場合、己の未熟さを理解すること)、『克己』(おのれに勝つ)、『不惑』(惑わされず)、そして『明鏡止水』に至り、最後は『中庸』の悟りを得る」


※作品中で申し訳ないです。これは私が考えたもので体系化された学問、道とは違います。この世界の仙道の修行という意味です。仙人への修行はもう分かりづらいし難しいのでこうしています。失礼しました。


「うーん、なんか難しいわね」


「最初の方はそこまで意識しなくていいよ。覚える必要もないしね。段階って言っているけど人によって身につける順番が異なることもあるから。ただ『克己(こっき)』からはどうしてもこの順序かなと思うんだけど、これも僕の思い込みと師匠に怒られたことがあるからいきなり『中庸』にたどり着くこともあるかもしれない」


「ああ、もう余計、分かりづらいわ」


「あはは、まあとにかく二人には一瞬でもいいから『不惑』の領域に足を踏み入れてもらうことが目標だよ。聞きたいことがあれば修行中にでも聞いてくること」


「お兄さんと戦っている最中にそんな余裕ないよ!」


「不惑の心境であれば殴られているその最中でも考えていられるから。考えるといっても頭の中で言葉を弄るものではないでしょう。文章にすれば百行くらいの考えも一瞬で浮かぶ。さあ、休憩は終わりだよ。領域を全開にして」


「ええ!」


「分かりました」


「ただ戦うのもつまらないからこうしよう。僕に一発でも攻撃が成功したらそこで修行は終了してあげる。まあ、今のままじゃ僕に触れることもできないけどね」


「うわ、いかにも熱血バトル漫画だ。お兄さん、そういうの好きなんだ」


「う! も、もう始めるよ! 逃げるのか、戦うのか、協力するのか、戦いの中から見出してみるんだ。はっきりいって二人は固有スキルが無ければ能力者として平凡そのもの。口ばっかり達者になっても相手は手加減してくれない」


「頭にきた! 琴音ちゃんいくよ!」


「はい!」


(秋華ちゃん、そう言いながらも一番乗せられてますよね)


 秋華と琴音が領域を全開にして左右から祐人に襲い掛かった。

 しかし、当たらない。避けられる。弾かれる。

 領域は全開だが祐人の領域に押し込まれて、体から数センチのところまでを覆うのがやっとだ。


「話にならない! 思考を同時に複数動かせ! 僕の動きを研究しろ! 修行の意味を考えろ! 課題と解決策をだせ! これはすべて一つのことなんだ!」


 祐人は秋華を吹き飛ばし、琴音の足を払った。



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