第332話 堂杜祐人と襲撃者⑪
「はい、あとは急遽、参加して頂きました方たちの紹介でーす。こちらは孟家の方たちで楽際(ルーキ)さんと……えっと浩然(ハオラン)さんね。孟家の人たちは黄家との付き合いがとっても古いのよ。数百年以上の付き合いになるわ、もう親戚よりも濃い付き合いよね」
秋華の紹介を受け高齢の楽際(らくさい)と若い浩然(こうぜん)が座ったままお辞儀をする。
(※混乱されるかもしれませんので注釈です。今後出てくる中華風の人物の名前ですが、この作品のルールとして最初だけ中華風の読みを出し、その後は日本語読みとします。ご意見くださった皆様、ありがとうございました。感謝です。ですので、家系読みも黄家(こうけ)、孟家(もうけ)、王家(おうけ)、名前は黄英雄(こうひでお)、王俊豪(おうしゅんごう)、王亮(おうりょう)等々でいきます。俊豪と亮は既出ですので日本語読みに統一しますね。たまにリアリティを出すために中華風にするときがあるかもしれませんが、気になさらないでください)
ニイナはそれぞれの顔と名前を頭に叩き込んでいく。ニイナは能力者の世界には疎いので孟家がどういう家系で黄家とどういう繋がりなのかは知らない。
だが後の情報収集のためにもすべて覚えておきたい。
「次に何と王家から凄い人が参加してくれました! さっき、私に失礼をしました方が俊豪さんで横にいるのが俊豪さんのブレーキ役の亮君です!」
「お、おい、根に持ってるな、あいつ」
「俊豪のせいだからね」
この時、王家の俊豪と聞いて誰よりも驚いたのは琴音だった。
「王家の⁉ まさか……」
この反応を祐人とニイナは見て目を合わせる。
琴音のまるで超大物のスターに会った一般人のような反応に首を傾げた。
「あれれ? お兄さんたち反応が薄いね。ひょっとしてお兄さんたちは知らないの? ちょっとぉ、この世界にいて俊豪さんを知らないって無防備すぎるよ」
「チッ、どおりで俺に生意気な目をしやがったわけだ」
「ふふふ、俊豪、ちょっと落ち込んだ?」
「そんなわけあるか。この世界で無知は命とりだ。まったく……」
秋華はニンマリ笑うと改めて俊豪の紹介を続ける。
「まあ、堂杜のお兄さんらしいね~。あのね、こちらの俊豪さんは機関の定める最高ランクの能力者! ランクSSの王俊豪さんだよ。まったく敵に一瞬の反撃も許さない戦いぶりからついた二つ名は【天衣無縫】。とんでもない大物なんだよ」
「……SS⁉」
ここまで聞いてさすがに祐人は驚き目を見開いた。
(ランクSSって……あの毅成さんやアルフレッドさんと同格ってことか)
祐人の視線を受けるも俊豪はつまらなそうにしている。
だが、俊豪は確かな口調で小さく呟いた。
「ふん、だが俺もこのガキを知らねぇ。その意味では無知はお互い様だ。俺が無名の時、散々、俺を舐めた連中が地に這いつくばったのを見てきた。だから俺はこいつを同格として扱う。舐めて負ければどんな名も一瞬で失う。それが能力者ってもんだ。それと比べてこいつは俺にふざけた目を向けてきたが、ガキ特有の自信過剰さで俺を過小評価しなかった。それどころか全力を出す準備をした。その点は認めてやるか」
この呟きを隣の亮は聞き取り、苦笑いする。
「僕はいつも思うんだけど……俊豪って意外と先生が向いていると思うんだよね。誰も信じてくれないと思うけど。弟子とか募集してみたら?」
「んな、面倒くさいことするか」
祐人が驚いたことに満足気な秋華がさらに続ける。
「ふふん、俊豪さんはねぇ、実は他にも二つ名があるんだよ。それはなんと! 【守銭奴】でーす! 二つ名なのに何個の呼び方があるなんて不思議だよね! 報酬額が高すぎて依頼することもままならないランクSS! 機関も懐が深いって思うなぁ」
「おい、てっめえ、秋華! それを次言ったら許さねえって言っただろうが!」
「あはは、ごめんなさい、俊豪さん。でも有名な話だからいいじゃない」
祐人はランクSSに対してこの態度ができる秋華の方がよっぽどすごいのではと思ってしまう。ちなみに英雄は俊豪を尊敬の眼差しで見ている。
ニイナは黄家のこの兄妹を観察して俊豪に顔を向けた。
(口は悪いし、粗暴な振る舞いをしていますが、この人は年下に優しいのかもしれません)
実際、俊豪は言い返すがそれ以上、激高するということはない。ひょっとしたら壊滅的に不器用な人間なのかもしれない。
「こら、秋華。俊豪さんに失礼がすぎるわ。王家と黄家が良好な関係を保っているのは俊豪さんのお陰なんだから、あんまり俊豪さんの優しさに甘えるんじゃないの」
「……はーい」
雨花が諫めると秋華は肩を竦めた。
「それでは最後ですね。アメリカの超優秀な能力者部隊SPIRITの方たちです! 今回、私が無理を言って来てもらったの! 本当に来てもらえるとは思わなかったわ、招待に応じてくれてありがとうございます。えっとお名前は……?」
「イーサン・クラークです」
「私はナタリー・ミラーよ、皆さん、よろしくお願いします」
二人だけはスーツ姿でどちらかというと一流企業の社員かのように見え、物腰も礼儀正しい。
イーサンは秋華に目を向けると秋華はニッコリと笑顔で返す。
イーサンも微笑を返すが内心は喰えない人物だと秋華を評価した。
(この少女か……本部に連絡をいれたのは。まさか、この堂杜祐人という少年だけじゃなく、天衣無縫や孟家のいるところに招いてくるとは。本国も参加して来いと指示してくるわけだ)
そもそも黄家という名門能力者家系の屋敷に国家お抱えの能力者部隊の人間が招かれることなど聞いたことはない。
というのも能力者部隊を抱える国家はどこもそうだが、世界能力者機関と仲は良くない。
表立っての対立はないが、互いにけん制し合っているのが実情だ。
機関の理念である公機関への悲願はパワーゲームを水面下でしている国家たちにとって、あまり歓迎できるものではないのだ。
互いの能力者に対する考え方が違いすぎる。
機関は能力者を普通に存在する社会の構成員に。
国家お抱えの能力者たちは異能力を活かした裏舞台でのパワーゲームでの駒として。
方向性として真逆である。
「本日はお招きいただきありがとうございます。これを機会に黄家の方々やご参加されている方々とは良い関係でありたいと本国は希望しています」
イーサンはまず大威(だいい)と雨花(あめはな)に会釈をして、皆にも目を向ける。
そして、最後に祐人に顔を向けると祐人は反射的に会釈をした。
「堂杜さんも初めまして。見たところ堂杜さんは国家お抱えの能力者は初めてですか?」
「え? あ、いえ、そうですね……」
実際は違う。
それどころか祐人は国家お抱えの能力者部隊を壊滅させている。
だがそれをここで言う必要も言うわけにもいかないので曖昧に答える。
「そんなに難しく考えないでください。私たちは言うなれば公務員です。ただ、能力者部隊なんて言い方をされるので殺伐としたイメージが先行してしまうかもしれませんが」
「あ、なるほど」
言われてみれば国家お抱えとは、考えればそうかもしれないとも思う。
イーサンが自然な感じで祐人に話を振り、いかにも大人の雰囲気で話し出すとすぐに秋華が間に入る。
「はいはいー、駄目ですよ、早速、お兄さんを勧誘しないでくださいね」
「へ? 勧誘?」
祐人が思わぬ言葉に驚くがニイナは横で「なるほどね……」とこぼした。
「これは失礼しました。そういうつもりではなかったんですが、私たちはどうにも色眼鏡で見られがちなので、いつも先にこういう説明をしているんです」
「ふふふ、いいんですよ。では食事を始めましょう! 皆さん、楽しんでくださいね」
秋華は笑顔で応対し、食事会らしくそれぞれに会話を交わすようになった。
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