第331話 堂杜祐人と襲撃者⑩


「皆さん、待たせてしまって申し訳ありませんね。それではさっそく食事を始めましょう。今日は秋華の友だちの歓迎会がメインです。琴音さん、堂杜君、ニイナさん、仲良くしてくださいね。では乾杯!」


 雨花が音頭をとるとそれぞれがシャンパングラスを掲げる。

 祐人や琴音たちはアルコールを飲む気はないので形だけ付き合った。


「あ、ごめんなさいね、ちょっと良いことがあったので段取りができていなかったわ。秋華、参加してくださった方たちの紹介をしてちょうだい」


 会が始まってすぐに雨花がうっかりしたという風におどけると秋華に話しかけた。


「もう、ママだってちゃんとしてないじゃない。でも、分かったわ。じゃあ、まず初めての人たちもいるので家族から紹介するわ」


 秋華はいつもの元気な様子で大威、雨花、英雄を紹介する。


「よろしくお願いしまーす。あ、お兄ちゃん、私の友だちに失礼な態度とったら二度と口をきいてあげないからね」


「お、おい! 俺だけそんな紹介か!」


「あはは、冗談だよ。こんなお兄ちゃんだけど一応、優秀なんだよ。新人試験ではランクAの取得だもんね! さすがお兄ちゃん」


「う……うむ、まあ大したことじゃないがな」


 英雄はまんざらでもない態度で胸を逸らす。明らかに秋華にいいようにされている感が丸見えなのだが、本人は気づいていないようだ。

 祐人やニイナ、琴音もつい笑ってしまう。


(秋華さんが相手じゃ……直情径行の英雄君では分が悪すぎだね)


 祐人はニイナの言う英雄が策を巡らして演技をするのは不可能だな、と再認識する。

 となると、さっき黄夫妻が言っていたように今日の襲撃は秋華と黄夫妻で自分を試したということなのだろう。


(まあ、僕は取り込まれないけどね)


 次に秋華は琴音に顔を向けて肩に抱き着く。


「こちらは私の親友の三千院琴音ちゃんです。今日はありがとうね、琴音ちゃん」


 琴音は笑みを浮かべて頭を下げる。


「三千院琴音です。今日はありがとうございます」


 同級生の友人を紹介するように親し気に紹介するが、ここでSPIRITのイーサンとナタリーが目を合わせる。

 二人は声を上げはしないが驚いたのだ。

 何故、ここに日本の二大精霊使いの家系の者が来ているのか、と。


(三千院琴音といえば、たしか直系の娘だったはず。黄家と三千院家が繋がっているとは聞いたことがないが……)


 イーサンは見聞きした情報を素早く脳内で整理していく。能力者の家系の繋がりや関係というのはこの世界では重要なものだ。

 ましてや名家同士の同盟関係、敵対関係などは絶対に頭に入れておかなければ能力者部隊のリーダーなど勤まらない。

 王俊豪と共に来ている亮も「へー」と目を細める。


「次に、こちらはニイナさん! ニイナさんはね、能力者ではないですけどミレマー元首の一人娘なの。今回は堂杜さんの付き添いで来たのよね。私の友人でもあるのよ」


「え……⁉」


 ニイナは一瞬、自分の出自を発表された挙句、祐人の付き添いと紹介されて顔を引き攣らす。だが、そこはさすがに訓練された淑女のニイナはすぐに外向けの顔をつくる。


「はい、よろしくお願いします」


(出自はいいです。どうせ、ここの人たちにはおそらくすぐにばれるでしょうから。でも付き添いですって……? 付き添いですけど! 何か蚊帳の外に置こうとしているのを感じます)


 この時、ずっと興味なさそうにお酒を飲み続けていた俊豪がピクッと反応する。

 それは「ミレマー」という言葉に反応したのだ。


「おい、あんた、ミレマー元首の娘っていうのはマットウ首相の娘ってことかい」


 突然、テーブルの端から失礼な物言いで話しかけられてニイナは眉を顰めるが、すぐに笑顔で答える。


「はい、そうです。父を知っているのですか」


「いや、知らん。ただ、ちょっとミレマーには因縁があってな」


「……因縁ですか」


 横で亮が「俊豪、失礼だよ!」と言っているが、俊豪は無視して話を続ける。


「ああ、ミレマーで大変なことが起きただろ。あの時、俺もミレマーに行ったんだよ。その大変なことを治めにな」


「え……⁉」


「まあ、空振りしたんだがな。チッ、嫌なこと思い出しちまった」


 ニイナが驚いている横で祐人も驚いている。

 しかし俊豪はこちらを意に介さずシャンパンを飲み干して、給仕の人に新たにお酒を要求した。もうこちらへの興味はなくなったようだ。


(ミレマーに来ていた? 誰なんだ、この人は)


「はいはい、では次に今日の主役かな! 堂杜のお兄さんです!」


「え――⁉ 主役⁉ 別に僕はただの……何だろう?」


(この場で護衛で呼ばれたとか言っちゃまずいよね……)


「うん? 堂杜……?」


 新しいお酒に口をつけた俊豪が眉根を寄せる。隣で亮もまるで聞いたことがある名のように俊豪に頷いてみせた。


「何を言っているの、お兄さん。堂杜のお兄さんはね、すごいんだよ! とっても強いの。今はランクDだけど、私の見立てではいつかはランクSかSSになるほどの逸材だと思ってるのよ―!」


「い――⁉ ちょっと、秋華さん! 言いすぎ! 評価が高すぎでおかしいよ!」


 明らかに冗談と受け取られるか、鼻で笑われるかという秋華の評価に祐人は恥ずかしくて慌てる。

 すると案の定、英雄が大笑いをする。


「アーハッハー! 秋華、それはさすがに持ち上げすぎだぞ! 逆に失礼だ。冗談が過ぎて恥をかいているじゃないか!」


 愉快そうにする英雄に祐人も顔を赤くする。

 それに合わせたように皆、笑みを見せた。

 だが、ニイナは見ていた。

 一部の人間たちの雰囲気がおかしい。

 特に黄家夫妻、SPIRITであるイーサンとナタリーの目は場に似つかわしくない光を放っている。

 俊豪と従者の亮は何を考えているのか分からないが、笑っている感じではない。


(これは……良くないです。堂杜さんを見る目がまずいですね。これはしたくなかったですが後で瑞穂さんたちにも連絡して四天寺の応援を頼む必要があるかもしれません)


 そして、ニイナは三千院家の琴音に目を移す。

 琴音だけはちょっと別の次元の目でジッと見つめているのを見て……こけた。

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