第333話 堂杜祐人と襲撃者⑫
ニイナは雨花や琴音と他愛のない会話をしながらも意識は秋華とSPIRITの二人に向かっている。
(必ずどこかで祐人さんを巻き込んでの話になるはず)
そのニイナの横では食事をもりもり食べてご満悦の祐人がいた。
(もう……この人は何で自分のことになると一般人以下の現状把握能力になるのでしょう。これから堂杜さんを中心にややこしい話になることは言ってあるのに)
祐人はそんなニイナの気苦労を知ってか知らずか自分に割り当てられた料理を綺麗にすると大量に盛り付けられている大皿から料理をとった。
(それにしても堂杜さんて結構、食べるんですね。今までは遠慮していたのかしら。あ、違いますね……生活費によって食べる量を調整してるのね)
そう考えるとニイナは今度、祐人にいっぱい食事を作ってあげたいという欲求が湧いてくる。
これはニイナの性格か経験なのかは分からないが、気になる男子が食事を我慢しているのはとても悲しく思えてしまうようであった。
それでニイナは自分の料理のお皿をそっと祐人に移動させた。
「堂杜さん、私のこれも食べてください。私には食べきれませんから」
「え、いいの⁉ これすごく美味しかったんだよね! でも……ニイナさんは」
「クス……いいから食べてください。私は自分で調節しないとデザートにまで余力が残らないんです」
「うわぁ、ありがとう! ニイナさん!」
いつも友人の機微をよく見ている祐人には珍しく、ニイナの嘘に気づかずに大喜びでお皿をもらう。この辺は想像以上に祐人がニイナに気を許している証拠なのだが、二人はまだそのことにまでは気づいていない。
他人の料理をもらう、もらえるというのは結構、親密の証でもあるのだが。
これを見ていた斜め正面の琴音もすぐに立ち上がる。
「堂杜さん、私のも食べてください! どうぞ!」
「え? え? いいの? でもちょっと悪いよ」
「あらあら、祐人君、その料理が気に入ったの? それならもう一度作ってもらいましょうか?」
食事会に入ってから祐人君と呼ぶようになった雨花が目尻を下げる。
「あ、そこまでして貰わなくても大丈夫です! す、すみません」
「ったく、これだから貧乏人は……痛!」
雨花に腰をつねられて英雄は背筋を伸ばす。
「英雄、客人に何てこと言うの。英雄こそ、お客もろくにもてなせないようでは、それこそ恥さらしよ。それに聞けば祐人君はあなたの同期じゃないの。もっと仲良くしなさい」
とはいえ、自分だけあさましい姿を見せている気がして急に恥ずかしくなった祐人は琴音の申し出を受けて料理をもらうことにした。
「雨花さん、これで満足ですので大丈夫です。琴音ちゃん、ごめんね、ありがとう」
「いいえ」
自分のお皿を受け取ってもらって嬉しい琴音はニッコリと笑う。
この様子を見て秋華が感心したように割って入ってきた。
「お兄ちゃんは瑞穂さんが堂杜のお兄さんと仲が良いのが気に入らないのよねぇ。男の嫉妬は見苦しいよ、お兄ちゃん」
「なっ! 違っ……そんなのとは関係ない! 俺は友人も自分の目で確かめなければ付き合わないだけだ!」
「はいはい……でも堂杜のお兄さんって結構、食べるよね。四天寺家の大祭で出された食事もこれでもかってくらい食べてたし」
「え⁉ 秋華さん、それは!」
「……え? ああ、大丈夫よ。ここにいる人たちは全員、四天寺の大祭のことは知っているから。秘事とか言っても、ちっとも隠してなかったしね。それにうちはお兄ちゃんも参加してるんだから。ね! お兄ちゃん」
「ぐぐぐ……」
秋華にそう言われると英雄は黙ることしかできないらしく、何故か祐人を睨んできた。
(うわ、久しぶりにきた逆恨みだぁ……あはは)
「でも、あれでお兄さんが有名になっちゃった部分もあるんだよねぇ」
「……え? 僕が?」
秋華がニヤニヤしながら祐人に頷くとニイナが顔を引き締めた。
(来ましたね)
「あはは、そういうところ、お兄さんは鈍感すぎだよ。だってSPIRITのこの人たちはお兄さんを勧誘しにわざわざ上海まで来たんだから。ねぇ、イーサン・クラークさん」
「ええ⁉ それはさっき言っていた冗談でしょう」
突然、振られたイーサンだったが、別に驚く風でもなく笑って見せると驚く祐人に顔を向けた。
「いや、ミスター堂杜、ミズ黄秋華が言っていることは本当です。私たちは君をスカウトしに来たんだ」
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