第295話 劣等能力者の受難⑩


〝そそそ、それではルールを説明いたします! よろしいです……か?〟


 瑞穂たちは無言にして無表情。

 というより、瞬きもしている様子がない。

 MCはそのただならぬ雰囲気を感じとり、困っている様子だ。だが、進行はリズム良く、が大事なため、そのまま進める。


〝話は非常に単純です。大祭に自らの意思で! 瑞穂様の伴侶に! 四天寺の婿に! どうしてもなりたいと望んだ参加者が、はい、この場合、堂杜祐人様ですが、瑞穂様に実力を示して、瑞穂様本人が認めればいいのです!〟


(なんか強調している部分がおかしい気がするんですけど……)


 祐人は笑顔のMCの説明に違和感を覚えるが、もちろん茶々などいれることはできない。

 そんなことよりも、本来、共謀者であるはずの少女たちから殺気を感じるのだろうか。


(あとは事前に話し合ったように僕があっという間に負けて降参すればいいはず……だよね?)


〝つまり、最も分かりやすく言えば瑞穂様と堂杜様で戦ってもらい、堂杜様が勝てば無条件で四天寺に迎えられることになるでしょう! また、もし勝てなくとも瑞穂様が認める実力を示せば、やはり四天寺に迎えられます!〟


 この時、祐人は背中に走る悪寒が止まらずに瑞穂たちを確認した。

 おかしい……表情が見えない。


〝さあ、どのような結果になるのか! それはこれから始まる戦いが……〟


 この間にも場を盛り上げるアナウンスが続いているが、祐人は現状がよく分からず頭に入って来ない。

 この時、同じ試合場に上がっている瑞穂、その背後の試合場の下からマリオン、茉莉、ニイナの視線と交差した。



「のひょー!!」


(ちょちょちょ……何であんなに怒っているの!?)


「おい、祐人! 作戦を言う! こっちに来い!」


「ハッ!」


 一悟の声で我に返った祐人は一悟に近づいてしゃがんだ。


「ちょっと、一悟、何あれ! すっごい怖いんですけど。尋常じゃないよ!? あの人たち」


「いいから、よく聞け! それも含めて説明するから。いいか、まずはこの試合での目的を確認する」


「う、うん」


一悟もどこかいつもと違う。ひょっとしたら、何か問題が起こり、作戦が変更になったのかと話を聞くことにした。


「一悟、当初の作戦は僕が瑞穂さんにササッと負ければいいだけだったよね」


「そうだ、負ければいいんだ」


「あれ? じゃあ、なにも変わってないじゃない」


「馬鹿者! そんな覚悟ではお前……死ぬぞ!」


「死ぬの!?」


 意味が分からない祐人。


「四天寺さんはな、お前に勝つ気でいる」


「うん、それはそうだろうね、元々、そういう話だったし」


「圧勝するつもりだ」


「うんうん、そうだね。その方が周囲にも僕が認められなかった説明が……」


「完膚なきまでに倒すつもりだ」


「うんうん、まあ、そういう風にみえるようにしないと」


「お前を数週間、再起不能にしようとしている」


「うんうん、それぐらいの方が……は?」


「残りの夏休みは病院で大人しくさせるつもりだ」


「ええ――――!! ちょっと、どういうことだよ! 何でそんなことに!?」


 祐人は反射的に一悟の肩を揺らす。


「簡単に言うとだ……」


 一悟は目を瞑りフッと笑う。




「……合コンがバレた」




「……!?」


 一悟の意外な祐人が呆気にとられる。


「い、いや、待ってよ。そんなことで、あんなになるの?」


「お前に言ったよな。絶対にバレてはならない、と。その時にも言ったが女の子というのはな、たとえそこまで気になっていない男子でも合コンによく行っていると聞くと評価を下げたりするんだ」


「そんな……でもあの感じは評価を下げるってレベルじゃないよ!」


 そう言うと祐人と一悟は少女たちに目を向ける。


「……」

「……」


 祐人と一悟はずっとは見ていられずに顔をそむける。


「祐人、今回の合コンは状況とタイミングも悪かった。まあ、俺たちのせいではないんだが」


「タイミング?」


 祐人は首を傾げた。


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