第296話 劣等能力者の受難11


「そうだ。いいか、考えてみろ。この大祭は四天寺さんの婿探しの催しだ。つまり、曲がりなりにもお前は婿候補に立候補した人間になる。そんなお前が合コンに彼女探しに行くのを同時進行させていたら相手はどう思う?」


「そんな! だって、そもそも僕たちは大祭を潰すのが目的だったじゃない!」


 一悟は分かっているから、まあ聞け、という様子で祐人を制止する。


「さらにだ」


「う、うん」


「今回の騒動で日程が変わって最終日が今日になった。だけどな、こんなイレギュラーがなかったら、元の最終日はまさに合コンと同じ日。しかも、お前が決勝戦に残っていたと仮定した場合、始まってすぐに負けないと間に合わない時間と場所だ! これは失礼極まりない、と周りは思う」


「……!? でも! 合コンの日程はこちらの都合じゃなくて、相手側の……」


「うん、俺たちのせいではない。だがな、これは危険な情報でもあるんだ。俺が絶対にバレではダメだと言ったのはもう一つの意味もあったんだ」


「何が? 一悟はそんなこと一言も言ってなかったよね」


 祐人は首を傾げるが、一悟はしたり顔で話を進める。


「何故ならな、このお前の行動が周囲にバレたら四天寺家の顔に泥を塗ったと思われるかもしれないんだ。何も知らない他の参加者たちに、四天寺さんの婿になろうって奴が合コンを優先してわざと負けました、って伝わったら……四天寺さんの価値がダダ下がりだろう。能力者としても女としても!」


「ええ! そんな話なの!? 僕は四天寺の警護を頼まれていたんだから、四天寺の顔に泥とかないでしょう!」


「馬鹿だな、お前は。四天寺がそれを言えるわけがないだろう。四天寺はこの大祭が襲われるのを知っていた、と伝わったら暴動が起きるぞ。それは決して口外はできない。お前は大祭にはあくまで個人的に参加してきたにすぎない、ということにしなくて駄目だ」


「むむう……そうだった。でも、それであんなに怒っているのか。僕たちが軽率な行動をとったということで」


「あれは違うけどな」


「え? 違うの?」


「とにかくだ。大事なのは、お前が大祭に参加しているにも関わらず合コンに行くことを知った人間がどう思うかだ。四天寺家は大祭まで開いておいて恥をかくことを想定していない。だから合コンはバレてはいけなかった……」


(そんなに重いのか……合コンって)


「でもそれとは違うって……瑞穂さんたちの怒りはなんなの?」


「あれは、お前が合コンに行くと聞いて、こう想像したんだ」


〝その日はぁ、超大事な合コンがあるからぁ~、こんなしょうもない大祭なんか適当にちょちょいと負けて、早く可愛くておっとりした女の子に会いたいわぁ。僕の周りは頭に血がのぼりやすくて、優しくもない女の子しかいないから嫌なんだよねぇ。法月さん、実は結構、胸ありそうだから楽しみだぁ〟


「ってな!」


「随分と具体的だね。そこまで想像できるかな?」


「うん? うむ……まあ、想像力逞しい女性たちだな」


「しかも法月さんが来るって僕自身が初めて知ったんだけど」


「そう……だったかな?」


「一悟……お前、つらつらとそれらしいことを言っているけど僕に何か隠してないよね?」


「隠してないぞ! 隠してはいない! 聞かれたことにはすべて答えているぞ、俺は」


「聞かれたこと、ね。ああ、じゃあ聞いていくよ。まず、どうしてバレたの?」


「水戸さんに感づかれた」


「で、何であんなに怒ってるの?」


「昨夜、水戸さんたちに女子部屋に拉致られて、合コンの詳細を教えて欲しいと言われたんだわ。もちろん断ったぞ! それにあなたたちには関係ないってな!」


「うん……うん、よく言えたね。僕だったらそこまで言えないよ。すごいね、一悟は。男らしい!」


 祐人が正直な感想を漏らすと一悟は称賛と受け取り「そうだろう!」と勢いがつく。そして、話を続けた。


「当たり前だ! それでな、それでもしつこいから、俺も正直、頭にきてな。ちょっとだけきつ~く言ってやったんだよ」


「言ってやった?」


「ああ、祐人はな、優しくて、お淑やかで、おっとりした女性を探しに合コンに行くんだ。それは楽しみにしてたぞ! ってな。さらには自分の周りにはそういう女性がいないからドキドキするよ! とも言っていたとな!」


「言ってないよ!! 何してくれてんの! ……少しだけ考えたことはあるけど(ボソ)……そんな嫌味っぽいこと言ったらそりゃ怒るよ!」


「大体、あなたたちがボヤボヤしてるから、祐人が他の女を求めてしまうんだ。すべて君たちの不甲斐なさが原因だ! 祐人の行動が気になるなら女を磨きやがれ! ってな」


「ど、どういうこと? 何の話をなの、それは! それに、そんな言い方したら余計に怒ってるんじゃないの? 必要以上に」


「いいんだ! あれぐらいガツンと言ってやった方が! あと、祐人は胸が大きい女性が好みだとも言ってくれたわ! マリオンさん以外は悔しそうにしておったわ!」


「馬鹿なのぉぉぉぉぉ!! 武人風に言っても駄目だからぁぁ!!」


「それで命からがらお前のところに来たんだ。薄皮一枚だったぜ」


「お前のせいで僕の命も薄皮一枚だよ! お前が怒らせただけぇぇ!」


「だから言ったろう、お前の味方は俺だけだって」


「このアホォォォォ! 一悟が全員を敵にしただけだぁぁ!」


 多量の涙で頬がずぶ濡れの祐人。


「もうダメだよ! 合コンは中止しよう!」


「……は? ふざけんなよ? 合コンだけは死んでも開く」


 一悟の目が光る。


「何でだよ! 本当に死んじゃうよ!」


「合コンを中止するというのは俺の人生に汚点を残す! いいか! どんなことがあっても合コンはやる! お前も死んでも参加してもらう、いいな」


(なんか……一悟の目がヤバイ)


 ものすごい一悟の覚悟に息を飲む祐人は、背後にいる怒れる女性たちに振り返る。


「ひぃぃ!! あっちの目もヤバイ!!」


「祐人、いいか! 作戦はな『無事に負けてこい!』だ!」

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