第205話 参加者たち
祐人が四天寺家の従者に案内された大きな屋敷には、すでに数多くの今回の入家の大祭にエントリーしたと思われる人間たちで溢れていた。
この屋敷は洋風の建築様式となっている。
大きな玄関を通り、そのまま連れていかれた先は一階にある盛大なダンスパーティーの開催も可能なスペースを持つ会場で、その会場の前に広がる芝生で覆われた中庭が解放されていた。
どうやら、ここを参加者の待合としているらしく、飲み物や軽食が用意されている。
(……もう、驚かないけどね)
四天寺家の派手さに若干引き気味の祐人は案内人にこの場所でしばらくお待ちください、と言われると、一人、この待合会場の端の方に移動した。
(見たところ……参加者の従者たちも含めて優に二百人以上はいるな。この中から怪しい奴を探すとなると……大変だ。やっぱりある程度、入家の大祭で勝ち上がってからじゃないと、こっちで目星をつけるのはきついな。ガストンの連絡を待ってからでも遅くはないし……)
会場にいる人物たちを見渡し、祐人はため息をついた。
(しっかし……参加者は100人程度かあ、これだけの人数をどうやって絞っていくんだろう? ……うん? あ! きたよ……)
会場がざわつき、たった今、入場してきた一団に祐人は視線を移すと新人試験でも会い、見たことのある少年がいる。やはり意気揚々と態度がでかくしているためか、目立つ。
「黄家が参加とは……しかも、嫡男自らの参加らしいぞ?」
「ああ、少年とはいえ大変な実力の持ちだそうだ。何でも今年の新人試験で起きた吸血鬼乱入事件を知っているか? その乱入した吸血鬼を撃退したと聞いている」
「は!? それほどの実力を!? クッ……とんでもないな。初戦では当たりたくないな、手の内を見せてもらわないと対策も立てられん」
「その通りだな。問題は……この大祭の選定の仕方による。この人数を数日で一人に絞り込むんだからな、ただのトーナメント方式ではないだろう」
「むむ……」
祐人は周りの参加者の様子を伺いながらも、顔には苦手意識が前面に出ている。
(黄英雄……絶対に目を合わせないでおこうっと。向こうはこっちのこと覚えてはいないだろうけど、関われば面倒くさいし)
祐人はそう決心すると同時に、英雄は周りの自分への反応に満足そうにニヤッと笑う。
「ふふふ、英雄お兄ちゃん、大分、警戒されてるね!」
「……秋華、何でお前まで来るんだ」
「だって面白そうなんだもん!」
「あのな……俺は遊びで来てるんじゃないんだ。こんなくだらない祭りから瑞穂さんを……」
「いいじゃない、別に、邪魔はしないし。それに今回、お兄ちゃんの背中を私が押さなかったら参加もしてないかもしれないでしょ?」
「……クッ」
「うわ~、これは結構な人数だねぇ。それにしても一人の女の子にこんなに男が群がるなんて、すごいなぁ。私の結婚相手もこうやって決めようかな?」
「なな! お前、それは駄目だぞ! お前の相手は兄である俺が認めた……」
英雄が秋華の物言いに声を荒げるが、秋華はスルーするように好奇心旺盛な目で周囲を見渡している。
「年齢層もバラバラだね、いい歳したおじさんもいるし……うん? あ! あそこにお兄ちゃんぐらいの年齢っぽい人もいるよ!」
秋華は会場の端の方で一人たたずむようにいる少年を指さした。
「あん? ふん……大した実力もないのに、馬鹿な夢を見ている低能力者だろう。どうせ、そういう雑魚はすぐに消える……相手にする価値もない」
「私、話しかけてくるね!」
「あ、こら! 秋華!」
秋華は英雄の制止にも気にとめず、行ってしまう。
(ふーむ、見た限り、従者も連れずにいるのは半数ぐらいかな。どうだろう……もし、騒ぎを起こすなら従者や付き添いという形で複数人で乗り込んでくると考えた方が自然か。いや……四天寺相手に仕掛けてくるなら、相当な実力者か、変則的な能力者かもしれない。あまり決めつけない方がいいな)
祐人は、そう考えながらも、屋敷周辺も確認しておくかと考える。
「ねえ、あなた! この大祭の参加者?」
「……え?」
祐人は突然話しかけられて、声の主に振り返る。
そこにはこちらを興味深そうに見ているチャイナ服を着た女の子がいた。見た目からは中学生くらいに見える。
「あ、うん、そうだけど……君は?」
「へー、やっぱり参加者なんだ! 一人で参加? すごいね! そんなに四天寺に婿入りしたいんだぁ。あなたは機関所属? ランクは何? 名前は? うちのお兄ちゃんは知ってるかな?」
祐人の質問を完全に無視して、自分の聞きたいことだけをマシンガンのようにぶつけてくる少女に祐人は狼狽える。
「ちょ……ちょっと」
(何なの……この子は? うん? うーん? チャイナ服……ま、まさか……)
祐人は嫌な予感がして、英雄の方に目をやると英雄がこちらを睨みつけながら、近づいて来るのが見えた。
「……! ききき、君はまさか黄家の関係者か、何か?」
「そうだよー、今回、参加する黄英雄の妹だよ。ねえ、ねえ、それで教えてよ、名前とランクは? それとも内緒なの?」
「いいー!! 妹ぉぉ!? ご、ごめん! ちょっと用事を思い出したから!」
「ああ! 待ってよ!」
祐人が慌てて、逃げ出そうとすると秋華は祐人の腕を掴んだ。
「何よ、逃げることないじゃない!」
「うわ! ちょっと君! お願い放して! 来ちゃうから! 面倒くさいの来ちゃうから!」
「君じゃないよ、秋華だよ! そっちも名前ぐらい教えてよ、ねえー!」
「分かったから! 僕は堂杜祐人! じゃあ、ここで! って、うおい! 放してってば!」
秋華は嫌がる祐人に構わずに今度は両手で祐人の腕を抱きかかえる。この妹の行動を見た英雄は両目を大きく開けた。
「ランクはぁ?」
「D! ランクはDだから! もう勘弁して! 秋華さん! さっきよりあなたのお兄さんの面倒オーラが増してるの!」
「ふーん……Dかぁ、普通だね。それでよく参加する気になったよねぇ、で、いつとったの?」
祐人の視界に英雄がもう間近まで来ているのが見える。しかも、その顔は完全に怒っている。今、英雄に関わればこの上なく面倒なことになるのが嫌でも分かる。
「今年の新人試験!」
「え? じゃあ、お兄ちゃんと一緒じゃない」
「そう! 同期だから! これでいいでしょ? ね!」
英雄の同期と聞いて、秋華は驚くと祐人はこの隙に腕を抜いた。
「あ!」
秋華が声を上げると同時に、英雄の怒声が聞こえてくる。
「おい、貴様ぁ! 俺の妹に何をしている!」
一瞬、祐人の脳裏に、この状況を見て妹の方が何かをされている、と考える思考回路に英雄らしさを感じるが、ここは全力で離脱が大事。祐人は即座にその場から一目散に逃げた。
祐人の逃げた方向を秋華は感心するように見つめる。
「行っちゃった……。ふーん……私の手から逃げるなんて、意外とやるじゃない。お兄ちゃんだったら絶対に抜けられないのに……」
「秋華! 大丈夫か! あいつ……今度、会ったら」
「お兄ちゃん、さっきの人、知らないの? お兄ちゃんと同期って言ってたよ?」
「は? 何だと……」
「うん、今年の新人試験でランクDを取得したって」
「……はん、知らん。そんなランクD程度の劣等能力者なんか、覚える必要もないしな。現に俺はあんな不愉快な面をしている奴なんぞ記憶にない。それに確か、ランクDといったら俺の代での最低ランクだったな」
「へー、そうなんだ。ということは、瑞穂さんとも同期だね」
「まあ……そうだな」
「ああ、ということはあれだ。あの人も瑞穂さんに惚れてるんだよ。うんうん、だから、参加したんだね、ランクDでも勇気を振り絞ったんだよ、きっと」
「!」
秋華の言葉に不愉快そうに英雄は顔を歪ませた。
「うん? それともあれかな? 四天寺に迎えられたいのかな? 堂杜なんて家、聞いたことないもんね」
「……堂杜と言っていたのか? やはり聞いたことはないな、そんな家も名前も。おそらく四天寺の名に引き寄せられて身の程をわきまえない夢でも見てるんだろう、下賤な奴の考えそうなことだ」
「まあねぇ、それにランクDじゃねぇ。それじゃあ、さすがに参加するだけ無駄じゃないかな、あの人。確かに、ちょっとお馬鹿さんすぎるね」
そう言うと秋華はクスッと笑った。
「でも、お兄ちゃん、あの人はお兄ちゃんのことをよく知っていたみたいよ?」
「……うん? フッ、それはそうだろう。この黄英雄を一度見た奴が忘れられるわけがないからな」
「うん、お兄ちゃんのこと面倒くさい人間だって言ってた。よく知っているみたいだねぇ!」
「……は?」
ピクッと英雄は固まると、今度は徐々に震えだす。
「あ……あの低能力者ぁ、次に会ったら……ぶち殺してやる!」
「ぷぷぷ……おもしろーい。お兄ちゃんと同期かぁ、すぐに消えないといいけどね、ちょっとチェックしておこうっと! 体術は凄そうだし……でも勝ち抜くのは無理かな?」
「英雄様、もうすぐ大祭の概要の説明がされるようです」
そう声をかけるが、怒る英雄と瞳を爛々と輝かせる秋華の背後で二人に嘆息する黄家の従者たちがいたのだった。
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