第165話 すれ違い③


「わあ、綺麗なお姉ちゃん! 一緒に遊ぼ!」

「ダメ! わたしと遊ぶの!」

「お客さま! お客さまだってー」

「ちょっと、みんな~、お皿の片づけ手伝ってよ!」


 祐人たちは志平に促されて部屋の中に入り、非常に広いリビングに足を踏み入れると、大勢の子供たちからの歓待を受けて戸惑う。

 特に瑞穂とマリオンには子供たちが集まり、手を引っ張ったり、抱き着いたりで瑞穂たちもオロオロしていた。

 見てみれば志平以外の子供たちの年齢は低く、10歳を超えないような年齢層であるように感じられ、中には幼稚園ぐらいの子も数人いる。

 部屋の中は先進的なデザインをしており、また非常に広く、目算で150平米はあるのではないかと見られた。実際、この闇夜之豹が用意したこの世帯部屋は6LDKの築年数の浅いハイグレードマンションであった。それでも20人近い子供たちが生活するには手狭ではあるが、子供たちにそれを気にしている様子もない。

 子供たちのやりとりを見ても、大人数での共同生活に手慣れたように和気あいあいとした空気だった。


「こら、みんな! これから兄ちゃんはこの人たちと大事なお話があるから、みんなは片づけと……念のため自分の荷物をまとめてて、小玉(シャオユウ)、悪いけどみんなのを手伝ってあげて」


 子供たちの中でも年長者の部類に入る落ち着いた面持ちの小玉と呼ばれた女の子に志平は声をかけると、女の子は頷く。


「分かった。志平兄ちゃん」


「えー、何で荷物をまとめるの?」


「ほら、みんな行くよ。衣服と大事なものだけ持てばいいから」


「「「「はーい」」」」


 それぞれに散っていった子供たちの姿を祐人は見届けつつ、心苦しい気持ちになる。この子たちは、何も知らないまま、親に捨てられ、知らない大人に連れ去られ、ここに来たのだ。そして今も、大人たちの勝手に巻き込まれ続けている。


(僕のやっていることも、ひょっとしたら闇夜之豹と同じなのかもしれない……。どんな理由があったとしても、この子たちにとっては何も関係ないことを、こちらの都合で連れ出そうとしているのだから)


 瑞穂とマリオンも祐人と同じ感覚を覚えているのか、複雑そうな表情を僅かに見せていた。


「こっちで話そう」


 そう言った志平の後ろについていき、廊下の途中にあった6畳ほどの部屋に通され、テーブルはなく殺風景な部屋に椅子だけ用意されるとそれぞれに腰を下ろす。

 そして志平は祐人たちに顔を向け、口を開いた。


「色々と話は聞いたよ。俺は止水が中国政府の連中のために働いているっていうのは知ってた。でも、その闇夜之豹っていう軍部の怪しげな組織に雇われているってことは、本当なんだね? しかもその理由が僕たちを人質にして、止水を従わせているっていうのも」


 祐人たちが頷くと、志平は舌打ちをして顔を歪めさせる。


「止水は何も、俺に話さなかった! そうであれば、俺だって!」


「……志平さん、僕はその止水さんと戦った者です」


「! あんたが!? よく止水と戦って生きていられて……」


「はい……強敵でした。僕も全力で立ち向かわなければ、すぐにやられていたでしょう。それで聞いてください。止水さんは意に反して闇夜之豹に従っていると思います。それはあなたたちを守ろうとして……。闇夜之豹は危険な組織です。止水さんが今後もあの組織に従って僕たち……世界能力者機関と戦って勝ったとしても恐らく解放されることはないと思います。それはもちろん、志平さんたちも……」


「……」


「だから、志平さんたちを私たちに保護させてください。そうすれば、止水さんの闇夜之豹に従う理由はなくなります。それに闇夜之豹よりもその規模もその実力も上回ると思われる世界能力者機関は全力で闇夜之豹に報復することを決めました。これが成功すれば、後の闇夜之豹による嫌がらせ等の心配もなくなるでしょう。もちろん、今回巻き込まれた子供たちの今後のことも機関が悪いようにはしません」


「……」


 志平は無言で祐人の話を聞き、その真剣な祐人の顔をジッと見つめた。


「それは……まだ承諾できないね」


「え!? 何故ですか!? 志平さん。ここにいれば」


 思わぬ返答に祐人たちも目を大きくする。


「それであんたたち……世界能力者機関ってやつが信用できると誰が言えるんだ。それにあんたたちは止水と戦って手ごわいと感じたから、ここに来たんだろう? 要は止水と戦わないために策を弄している、ってことだ」


「!」


「あなた何を言ってるの!? それは闇夜之豹が先に仕掛けてきたのよ! 私たちだって好きでこんなことをしているわけではないわ! それにあなただって人質にされたままでいいの!? 機関で保護されれば、こんなことから解放されるわ! 闇夜之豹に捕らわれた生活に比べれば幾万倍もマシよ!」


 瑞穂が黙っていられずに、反論してしまう。


「……あんたたちも結局、同じだな、中国政府の連中と」


「何が!?」


「確かに聞いてみれば、仕掛けてきたのは闇夜之豹って奴らなんだろうよ? それで頭にきてあんたたちは報復を決めた。でも、そのためには止水が強すぎる。で、俺たちの救出っていうことなんだろう? でもそれは救出と言えば心地いいだろうが、実質、俺たちの人質の立場はほとんど変わらない。今度はあんたちの人質になるってことだろう? 人質という言葉を保護という言葉に変えて。理由は止水を戦わせるか、戦わせないかの違いだけだ」


「……ッ!」


「もうたくさんなんだよ! もう俺たちに関わるな! 俺たちはただ静かに暮らしていたいだけなんだ! いきなり現れて、止水を戦いに巻き込んで、俺たちが人質だ、保護だの何なんだよ、お前たちは! 真っ平ごめんなんだよ! さっきこの説明に来た奴の時はあんたらに従った方がいいとも思った。でも結局、壊されたものは、奪われたものは何一つ戻ってこないじゃねーか! 止水だって……もう俺たちのところには……」


 瑞穂は声をあげようとするが志平の辛そうな顔を見て黙る。


「もういい……今後のことは俺たちで決める。俺たちはこのまま、ここを出る。そうすればあんたたちの目的も叶うんだから、問題ないだろう?」


「え!? 無茶です! 志平さんたちだけでどこに行くんですか! ここは日本なんですよ!? それに必ず、闇夜之豹や中国政府は追ってきます。逃げ切るなんてできないですよ!」


 この志平の決心を聞いてマリオンが驚いてしまう。


「俺だって戦う。俺だって止水に武術は学んできたんだ。金ならあるし、都市部を避けて静かに暮らせる場所を探す。それであんたたちが闇夜之豹を倒してくれれば、問題もなくなるんだろう?」


「そんな……」


 マリオンは志平の覚悟に口を噤むが、マリオンの言うことが正しいだろう。志平のような若い、ましてや日本人でもないこの少年が異国の地で渡っていくのは至難の業だ。そして、20人近い子供たちを抱えては移動するだけでも困難が伴う。

 祐人はこの志平のやるせない気持ちと、子供たちとの生活を守ろうとする意志を肌で感じて臍を噛んだ。

 これは決して志平たちの責任ではないのだ。

 そのような決心をせざるを得ない状況に、他人が自分の利益のために追い込んだ。その意味では瑞穂が依頼してきた法月秋子にかかった呪詛も同様だ。

 どこかに自分の目的のためには他人の生活も状況も、その心も何とも思わない人間がこれらのことに関わっている。もしかすれば、それは一個人のものではないかもしれない。大所帯を抱える組織が組織の利益のために良識を失うことはあることだ。人間を数字化して、少数の犠牲に心をとめることもない。

 祐人は「この程度の犠牲で良かった」という言葉を、魔界での激闘の中、組織上層部の人間たちからよく聞いたセリフだった。

 そのセリフを聞くたびに祐人は、頭で理解できても心に湧き上がるやるせなさに悩まされた。常に最前線に身を置いていた祐人には……仲間の犠牲を目の前で見てきた祐人にしてみればそれは当然であったかもしれない。

 そして……志平たちの置かれている状況も、ある意味、最前線と言っていい。志平たちは大きな組織を前に、ただ数値化された“物”でしかないのだから。しかも、意図せず巻き込まれた“物”だ。その中には当然、止水も含まれる。


「志平さん言うことは……分かる。これでは志平さんたちは2つの組織の道具にされていると思っても仕方がない……」


 祐人のその言葉にそれぞれの表情で全員が集中した。


「……。それが分かったらもう帰ってくれ。そして止水に会ったら伝えてほしい。志平たちはもう誰の人質でもないと……止水は自由だって。そうすれば止水はあんたたちと戦わないだろう。あんたたちも死なないで済む。止水もしたくもない戦いを避けられる。これでお互いの利害は一致するはずだ」


「いや、志平さん……やはり、それでも僕たちと来てほしい」


「は!? 何を言ってるんだ! そんなに止水が怖いのかよ! あんたらは知らないだろうが止水は道士なんだ! 俺たちのような縛りつけるものがなければ、絶対に戦わない」


「そうじゃないよ。言いたいのは志平さんの言う通り、ここで志平さんたちが機関に保護されたとしても、それは……普通じゃない」


「だから! さっきそう言って!」


「でも、マリオンさんの言うことも事実だよ。今後の志平さんたちをどう甘く見積もっても、志平さんの言うようなことになるのは難しいと思う。志平さんだって分かってるはずだよ。小さな子供を大人数連れて、異国の地で安住の地を探すことがどういうことか。実際、今からここを出れば移動するだけですぐに警察に通報される可能性の方が高い。だから、志平さんだって、当初は僕たちについて行こうとしたんでしょう?」


「……!」


「だから……約束する」


 祐人は顔を上げて志平に真剣な目を志平に向けた。


「止水さんを説得して、一度だけでも志平さんのところに連れてくる。その後は志平さんたちで決めればいい。それと事が済んだら僕が志平さんたちの住める場所も見つけて、機関に志平さんたちの保護もやめてもらう」


「……はーん? 何を言うかと思えば……。ふざけんな! そんなことお前に約束できるわけがないだろうが! 止水が断ったらそこで終わりだろう。それに機関は俺たちを保護している方が美味しいんだろう? そうすれば止水を強制的に仲間にできるんだからな!」


「そんなこと機関はしないわよ! 今回だって……」


 思わず瑞穂は立ち上がるが、マリオンに宥められる。


「じゃあ、聞かせてもらおうか? お前はどうやってそれを成すんだよ。もし、止水も機関もお前の提案を断ったら、お前はどうするんだ?」


「力ずくで……やる。もしこの提案が通らなければ、止水さんも機関も力ずくで言うことを聞かせる」


「!」


「祐人!」


「ば、馬鹿な事言ってんな! 機関は知らないが、止水がお前なんかに手に負えるわけがないだろう! それにお前たちは止水と戦わないためにここに来たんだろう? それじゃあ本末転倒だろ!」


「もし、機関が志平さんたちを利用して止水さんを……なんてことを考えるのなら、僕も機関に所属するつもりはないよ。まあ、威勢のいいことを言ったけど、正直、機関の方は心配してないけどね。支部長が話せる人だから。でも止水さんはどう出るかは分からないね」


「じゃあ、どちらにせよ、お前の馬鹿げた約束は果たされないな。止水を力づくなんて……あり得ない」


「志平さん……あなたは少し仙道を学んでるでしょ? さっきから僅かに仙氣を感じるんだよね」


「な! 何でお前にそんなことが……」


「志平さんは止水さんの本気の仙氣を見たことがあるかい?」


「!」


 実はある。志平は一度、止水に頼み込んで修行のさなかに見せてもらったのだ。家の近くの山林の中で止水は静かに仙氣を解放する。

 すると……止水の体を中心に周囲の草木が揺れ動きだしたのは見間違いではないだろう、と思った途端に志平は後ろに吹き飛んだ。その時の志平は、止水から来る圧迫感に立つこともままならず、地面に生えている草木を掴んでしまっていた。


「だから、何を言って……」


「僕の本気の仙氣を見せるよ。それで止水さんと比べればいい。仙氣だけで勝敗が決まるわけではないよ? でも仙氣とは積み重ね、気づき、乗り越えなんだ。それは……守り、破り、離れる。これを繰り返し、それらすべての根本が同じだと知ることで仙氣は大きくなる。この行程を必要ともせずに……新羅万象を知るに至る者もいたらしいけど、僕は大袈裟ではなく、死ぬほど努力をした。じゃあ、見てて……」


「「「え?」」」


 この直後、志平と祐人たちのいた部屋のドアが吹き飛び、子供たちもひっくり返って驚き大騒ぎになった。



「あんた馬鹿なの!? ねー、馬鹿なの!?」


「本当です! 吃驚しました、こんなところで全力を出すなんて」


「あ、いや、志平さんに信じてもらえるようにって、つい……あ、痛! ごめんなさい!」


 その部屋の中で瑞穂とマリオンがクシャクシャになった髪の毛もそのままに祐人を説教している。

 志平は壁際に張り付くように体を預けて尻餅をついている。


「あ、あんた……まさか、あんたも道士なのか? しかも……この仙氣の厚み」


「うん……で、止水さんと比べてどうかな?」


 正直、志平は比べることなんてできなかった。あるのは驚きと理解不能の領域にこの少年がいるということだけだった。

 だが……まだ修行して間もない志平ではあったが、祐人の仙氣から感じるものがあった。

 それは……まっすぐさと温かみ。そして……言葉にするには難しかったが、止水の時には感じることがなかった、受け入れられているというような、または互いが互いに同じものであると訴えられたような感覚を覚えた。

 みんな一緒だと……。

 例えるなら、人の愛も不安も、得るも失うも、人の持つ光と影にも境目などなく、それら相反するものと思っていたものが、実は同じものだと言われているようなものだった。

 あるのは皆、幸せを求めているだけ。みんなそれだけだと。


「あんたは……一体……。それに仙氣というのは……」


「仙氣は人それぞれ……だよ。何故なら、それぞれに間違いがないから。仙道とはそれを知るための修行でもあるんだよ。で、志平さんは僕を信じる?」


「……」


 志平にこれで祐人が止水を力づくで目の前に連れて来られるのかは分からない。確かに信じられない力を感じたのは事実だが、それは止水の時も一緒だ。

 だが、信じてもいいのかもしれないと思ってしまう。この少年は約束を全力で果たそうとするだろうと思うのだ。そして何故か……その勝敗も今はどちらでもいいと思う。

 あるのは……また止水と、止水と一緒に子供たちと暮らしていきたいということだけがあった。いつか別れは来るだろうとは思う。


(でも、こんな別れ方は嫌だ。これではない別れ方がいい。もし、この人が止水を連れて来られなくても、もう一度だけ止水の本心を知りたい。そして止水の好きにさせたい)



 志平は一度だけ、たった一度だけ……止水が見せた笑みを思い出した。それは本当に僅かな変化であった。もしかしたら見間違いだったかもしれない。

 それは思思が街に買い出しに行き、大雨で足止めをくらって帰って来られなかった日のことだった。食べるものがなく……全員でお腹を空かしていた大雨の日の夜。

 誰かが「水を飲んで忘れる!」と言い出した。すると子供たちは我先にと水を汲んできて飲んだ。


「何かお腹がふくれた気がする!」

「本当だ!」

「え!? じゃあわたしも飲むー!」


 そんなわけはなかった。本当は空腹で寝ることが出来なかっただけだった。

 だが、こうすることで全員に明るさが灯された……。

 そこに止水が現れて、いつも通りの無表情で言った。


「待ってろ。今から野兎でも捕まえてこよう……」


 そう言い体を翻して大雨の山の中に出ようと準備した止水に、子供たちが言い寄った。


「大丈夫だよ!」

「止水―、危ないよ」

「水飲んだから平気、平気!」


 子供たちにしてみれば、こんな日に大人がいなくなるのは不安ということもある。お腹は空いているが、それよりも止水に家にいて欲しかったのだろう。

 止水は子供たちが迫るように出かけさせまいとするのをただ無言で見渡した。

 すると……まるで測ったように同じタイミングで……。


 グウ~


 と、子供たちがお腹を鳴らした。

 止水は一瞬だけ硬直したようになる。


「先日、近くで野兎の巣を見つけている。待ってろ、そんなに時間はかからない」


 そう言って急いで止水は大雨の中を飛び出していった。

 志平はその時……見たのだ。止水が体を翻したときに、その唇の端が僅かに上がっていたことを……。


 志平は今、こちらの評価を待つように見つめている祐人と目を合わせた。

 そして、決める。


「分かった……。あんたを信じよう」


 祐人を信じる、と言った志平は同時に、あの時の止水はきっと幸せを感じていたと信じることにした。そして止水もきっと……俺たちと一緒だと。相手の幸せを見て自分も幸せに感じる間柄だったと志平は信じた。




 志平と子供たちは祐人たちと共にマンションの下まで降り、四天寺家が用意した新たに用意したワゴンタイプの車3台にそれぞれが乗り込んでいく。


「じゃあよろしく頼む……堂杜」


「祐人でいいですよ、志平さん」


「分かった……祐人」


 志平は祐人に手を軽く上げると笑みを見せながら、最後尾のワゴン車に向かおうとした。


「志平さん」


「うん? 何だい?」


 マリオンに声をかけられて志平は足を止め、優し気な顔の金髪の少女に顔を向ける。


「実は止水さんを雇った連中……闇夜之豹の目的は私なんです。理由は分かりませんが、私を連れ去ろうとしているんです」


「……は? それは!? さっきはそんなことを言ってなかったじゃないか」


「はい、祐人さんはこのことを言うのを忘れたのかもしれません」


「それは……」


 ニコッとマリオンは笑って見せると、今度は深刻そうな表情になった。


「それと瑞穂さんと私のクラスメイトが闇夜之豹に呪いをかけられて、今は集中治療を受けているんです」


「!」


 志平は思わぬことを聞かされて驚愕する。


「それじゃあ、あんたたちは……」


「私たちは機関とか、関係なく闇夜之豹と戦うつもりでした。実際、今朝、私たちはその闇夜之豹と戦っています。そして祐人さんは止水さんと正面からぶつかり合いました。私の見た限り、二人は本気で戦っていたと思います」


「本気の止水とあいつが!? じゃあ、あいつは……祐人は、何故、俺たちに接触してきたんだ……」


 志平には分からない。その話が本当であれば、祐人は止水と同等の力を有していることになる。となれば、別に止水の人質である自分たちなど関係はないはずだ。

 自分たちと自分たちの仲間が襲われている状況で、且つそれだけの実力があるのであれば、止水ごと闇夜之豹を叩きのめせばいい。聞けば非常に力のある四天寺家という者たちがバックアップもしている。

 祐人たちにしてみれば、突然、襲ってきたのは止水を擁する闇夜之豹なのだ。正当性は祐人たちにある。


「祐人さんは……志平さんたちの情報を得て、ただ、単純に嫌だったんだと思います。それで闇夜之豹に協力することを選んだ止水さんと戦うことも、人質にされた志平さんを放っておくことも……」


「そ、それは……力を持つ者の考え方じゃない! それにそれでお前たちが戦い、万が一、止水を殺したとしても、お前たちは何も悪くはない。いや、それは当然じゃないか!」


「そうかもしれませんね」


 志平にしてみれば、祐人が止水との戦闘をしないために自分たちを救いに来ただけの方が納得がいく。祐人が、今、マリオンが言った状況を伝えるだけで祐人は先ほどの仙氣を志平に見せる必要もない。


「ただ、祐人さんは言っていました。理不尽を見て見ぬふりをするために強くなったんじゃない、って……」


「……」


「でも、だからこそ……そんな祐人さんだからこそ、今、志平さんもここにいるんじゃないんですか? 私はそう思います」


 マリオンは再び笑顔を見せると志平の横を抜けて、祐人たちがいる車の方に歩きだした。

 志平はたった今、車に乗り込もうとしている祐人に目を移す。


「……堂杜祐人、変な奴……だな」


 そう漏らすと志平は最後尾のワゴン車に乗り込んだ。



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