第160話 出立前④
祐人を除く一同は全員固まっている。
涙を流している一悟を除いて。
そこに笑みを零し、流し目で白たちを見ながら嬌子が前に出てきた。
「祐人、呼んだのはさっきの話のこと? 二人っきりでベッドの上にいる祐人と話した……」
「えぇ!? 何それ!?」
「聞いてないですー」
「……その話、聞き捨てならない」
「ちょっと、嬌子さん!? 表現がおかしいよ!」
「ふふん……事実でしょう? ああ、二人きりの時間! 充実してたわ~」
嬌子の勝ち誇った表情に白たちの顔が強張り、祐人に体を寄せて抗議してくる。
「祐人! 何で私を呼ばなかったの? 嬌子だけなんてずるい!」
「(コクコク)……平等じゃない」
「私だって充実したいですー、ベッドの上で」
「わわわ、ちょっと、みんな落ち着いて! ただ用事があって嬌子さんを呼んだだけだから! 何にもないから!」
「そうよ~、祐人は用事があったの……わ・た・し、だけに……ポッ」
「もう止めて! 嬌子さん! 言い方がおかしい! 態度もおかしい!」
白たちに取り囲まれながら涙目で嬌子に手を伸ばす祐人。
そこに……、
「ハッ!」
祐人の背後から、気配だけで圧死してしまうのではないかというプレッシャーが来る。
祐人は顔色を変えた。
(殺気!? 敵か!? いや、そんな生易しいものじゃない! でも、こんなにも禍々しい波動は!?)
祐人は無意識に臨戦態勢と整える。今までの敵とは格が違うと思えるほどの怖気、圧迫、そして、命を賭さなければ生き残れないという強敵と出会ったときと同じ緊迫感。
ここには大事な友人たちがいる。今の祐人にとって最も失いたくない人たちだ。
祐人は感じる。ここは危ない。
早く全員の退避を指示しなければと……背後に振り返り、友人たちに顔を向けると……、
「……」茉莉
「……」瑞穂
「……」マリオン
「……」ニイナ
4人の少女と目が合った。
「………………魔王?」
祐人の額から一筋の汗。
4人の少女の様子がおかしい。瞬きをしていない。瞳孔が開いている。でも口が笑っている。そして……こきざみに震えている。
「あの……僕の仲間の紹介を……」
と、祐人が言った途端……、
4人の少女の背後に仁王の映像が吹き上がった。
「はひょ!?」
祐人の膝がピンッと伸びる。
(何を怒ってるの? 味方じゃないの? この殺気、味方からなの? 魔王ごっこ?)
すると、瑞穂が人差し指でチョイチョイと近くに来るように指示……命令してきた。
祐人は今、心からこの4人に近づきたくはない。歴戦の勘がそう伝えてくるのだ。
だが、瑞穂の命令に逆らうことが出来ず、ゆっくりと笑う膝で歩き、瑞穂の前に立つと……、
右手をマリオンが掴んだ。左手をニイナが掴む。そして、頭を茉莉が鷲掴みにした。
「祐人さん……」
マリオンの笑顔、でも目に光がない。
「詳しく、厳密に……」
目そのものが陰で見えないニイナ。
「説明を!」
こんなに身長あったっけ? という角度から見下ろす茉莉。
「して……もらいましょうか」
……闇オーラのスモークの中から光る眼を際立たせ、腕組みをしている瑞穂。
「イ……イエス、マム!!!!」
この祐人の姿をキョトンとした表情で見つめる白たちの横で面白そうにしている嬌子。
そして……静香の小さな背中に隠れ、嬌子たちをガクガク震えながら見つめている一悟がいるのだった。
「フ~、情けない男たち……」
その花蓮のつぶやきはこの少年二人に、まったくもって届くはずもなかったりする。
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