第62話 一悟の受難③

 




 一悟は、傲光に何故、祐人の姿をしてまで学校に来ることになったのか? という経緯の説明を求めた。


 傲光は生真面目な顔で頷くと、


「これには私たちの御館様に対する忠誠心が発端なのです」


「私たち? 他にも仲間がいるんですか?」


「はい。それもご説明します。実は、昨日、御館様が任務に出立された後のことです……」




 *************************




「祐人がいないとつまんない~」


 ここは祐人の自宅である。祐人は早朝に世界能力者機関の依頼とかで出かけてしまった。


 白は木遁(もくとん)の術が使える傲光に言って、綺麗にしてもらった畳の上でゴロゴロ転がっていた。Tシャツにホットパンツという恰好で元気な女子中学生といった姿である。


 何と柱も綺麗になっており、祐人が帰ってきたら驚くに違いないほどの出来だった。


 言い方を変えれば、依頼を必死に受けなくても良かったのではないか? とも言える。


「そうね~。祐人がいないと張り合いがないわ~」


 横でジーパンワイシャツ姿の嬌子が一升瓶を抱きかかえながら同意する。最近は着物姿をあまりせず、こういった服装をすることが多くなった。ワイシャツは嬌子の大きな胸を強調するように盛り上がっている。実は嬌子は女性雑誌を読み、色々と研究しているらしい。


 他の面々も各々に自由にしているが、どこか寂しげだ。


 サリーは本を読み、そして本から目を離すとため息をしていた。そのため息をした姿もおっとりとして柔和な顔をしている。スリットが膝の上まで入ったワンピースで横座りをし、見る人が見ればギリシャ彫刻の女神のようだ。


 因みにサリーの持つその本は嬌子から借りた【気づいた者勝ち! 女子力アップの思考 ~男性視点で見た女子力とは色気のこと~】であった。


 玄は庭で井戸の拡張工事をし、その頑強そうな体が土まみれになっている。そして、ウガロンはそれを手伝っていた。


 その横では、傲光が凄まじい気迫を放ちながら槍の修行に勤しんでおり、その姿は眉目秀麗と言われた名将、蘭陵王(らんりょうおう)を彷彿とさせる。


 そんな中、スーザンは縁側から何かを胸に大事そうに抱きしめて、白達のいる居間を通り抜けようとした。華奢で目の覚めるような赤髪を伸ばしたスーザンはいつも通りの無表情である。


 嬌子はそんなスーザンを見て、


「スーザン? 嬉しそうね。あなた……何を持ってるの?」


 嬌子に話し掛けられて、無表情のスーザンは少しだけ目を大きくし、何かを背中に隠して立ち止まる。


「……なんでもない」


「うん? 怪しいわね……。今、後ろに隠したのは何?」


「……なんでもない」


 無表情に、そしていつもの平坦な話し方で答えるスーザン。


「それにしては、顔が分かりやすいくらいにテンパっているわよ?」


「……なんでもない」


 相変わらず、無表情で平坦なトーンの返事。そこに本を読み終えたサリーも加わる。


「そうですねー。スーちゃん、声が上擦ってるー。確かに変ですー」


 スーザンは無表情でいる。そこにゴロゴロして暇そうにしてた白が上半身だけ起こし、スーザンを指さす。


「あ! スーザンが何か隠すときって、必ず眉毛を寄せるんだよ!」


 全く変化のない顔と平坦なトーンの話し方としか思えないが、皆にはスーザンの機微が手に取るように分かるらしい。


 嬌子がニヤッと嫌な笑みを見せて立ち上がると、スーザンは無表情にビクッとする。


「なーに? スーザン。泣きそうな顔をして……」


「スーちゃん。何を隠してるんですかー?」


 背後からにこやかなサリーが本を置いて、スーザンに迫り寄る。


「……なんでもない」


 相変わらず、無表情で平坦なトーンの声のスーザン。


「見せなよ、スーザン」


 いつの間にか、近くに寄ってきた白は、両手をにぎにぎしながらスーザンに迫る。


 三方向から嬌子、サリー、白に包囲されるスーザン。


「……なんでもない」


 スーザンは持っている物を胸に抱きしめながら顔を左右に振る。


 逃げ場を失ったスーザンを前に、嬌子は目だけで、白とサリーに合図を送る。


「やっておしまい!」


 嬌子がそう言った途端、スーザンを包囲していた三人は一斉に飛びかかる。


「……!」


 スーザンは無表情に必死の抵抗を試みるが、如何せん多勢に無勢。あっという間に抑えられ、嬌子はスーザンが隠し持っていたものを取り上げた。


「何これ?」


 嬌子はスーザンが大事そうに持っていたそれを広げてみる。スーザンは白とサリーに取り押さえられながらも、必死に手を伸ばしている。


「なになに?」


「何ですー?」


「こ、これは!?」


 嬌子は驚きの表情で、その布切れを見つめている。


「これは祐人の!」


「あ!」


「それは祐人さんの!」


「……!」


 それは……テントの中に祐人が無造作に脱ぎ捨てたTシャツであった。


 しかもそれは、建設現場のバイトで着ていたものなので、祐人の汗が大量にしみ込んでいる。洗濯しようと祐人はテントに置いていたのだが、ミレマーへの出発準備で忙しく、そのままにして行ってしまったのだ。


 嬌子は……無意識にその手に持ったTシャツに顔をうずめる。


「……祐人の匂いがするわ~」


 恍惚とした表情で嬌子が、Tシャツに頬ずりをすると、そのTシャツが忽然と消えた。


「ハッ!」


 嬌子が気付くとそのTシャツに白が顔をうずめて、畳の上でゴロゴロしている。


「本当だ! これは祐人の匂い!」


 白が嬉しそうに、まるで猫がじゃれるようにTシャツを抱きしめていると、それをヒョイとサリーが取り上げて、それは大事そうに頬ずりをする。


「ああ、落ち着きますー。私、これ欲しいですー」


「「「!」」」「……」


 それはサリーの何気ない言葉だった……。


 だが、これが4人の人外レディーたちのハートに火をつけてしまう。


 普段、姉妹のように仲の良い4人は、強敵に出会った騎士のように、無言のまま、それぞれの構えをする。


 必殺のオーラを放つ、4人の見た目、美女、美少女たち……。


 互いに隙のない構えと集中力。僅か数秒の時間が流れたが、4人には何万時間に感じられたか分からない。


 そこに、庭で井戸の拡張工事をしていた玄が、今まで以上の水源を見つけた。


「おお! これで祐人の親分も大喜びですぜ! ウガロン!」


「ウガ! ウガ!」


 玄は、その水源の上に広がっている分厚い岩盤を、その丸太のように太い腕を振りかぶり、一気に岩盤に拳を叩きつける。


 すると……岩盤は粉々に砕け、その間から綺麗な水が噴き出してきた。


「おおー、こいつは気持ちいいですな! ウガロン」


「ウガ!」


 その噴き出す水の勢いはどんどん強くなり、まるで間欠泉のように玄やウガロンを巻き込み地上に吹きだしてくる。


「あや? うわ! ヒャーーーー!」


「ウガー!」


 その玄とウガロンの悲鳴が聞こえてくると、世紀末覇者のようになっている4人の人外女性たちがカッと目を見開く。


 嬌子がサリーの持つ祐人のTシャツに鋭く手を伸ばすと、サリーはまるで重さのない羽のようにひらりと躱す。


「はああ! それを渡しなさい! サリー!」


「嫌ですー。これは後で私の下着に縫い付けますー。そしていつか、そっとハンカチにでもして戻しますー」


「な! 私と同じことを……このド変態おっとり娘が!」


 そこに低い体勢から、豹のように忍び寄ってきた白がサリーからTシャツを奪う。


「変態は二人ともだよ! そんな変態にこのTシャツは渡せないもんね!」


 白はTシャツを片手に掲げながら、縁側から離脱を試みる。そのしなやかな動きで、縁側から庭に向かいジャンプした。


 が、その白がジャンプしたところでスーザンが上空からTシャツを奪う。


「あ!」


「……これは渡さない」


 スーザンは見事な赤い翼を華奢な背中からはためかせ、無表情にTシャツを抱きしめる。そして、スーザンは無表情なまま、そのビスクドールのような顔に手をやると……


  あかんべいをした。


  それを見た嬌子、サリー、白。


「逃すかー!」「逃がしませんー」「か、返せー!」


 嬌子とサリーも庭に飛び出し、4人は改めて対峙した。お互いに目をやると、4人同時にニヤッと壮絶な笑みをこぼす。そして、嬌子たちの周囲は目に見えない闘気が溢れ、辺りが揺らぎだす。


  すると4人に変化が見られた。


 嬌子のジーパンの後部からモフっとしたちょっと太めの尻尾が出てくると、嬌子の唇から青い炎が漏れ出る。


 そして、サリーの背中からは美しく清楚な、眩しいほどの純白の翼が生えてきた。その上、その手にはサリーの身長を超える大きなデスサイスが握られている。


 また、白の頭からはピョコンと三角の白い耳が出てくると、白の周囲を強烈な風の渦が包み込んだ。


 それを無表情に見つめるスーザン。


 スーザンにここで退くという選択肢はない。


 スーザンの目が赤く染められていく。すると、徐々にスーザンの赤い翼が形状を変化させ……その翼は深紅の炎そのものになる。


「フフフ……」


 嬌子は不敵に笑う。


「見てちょうだい。祐人の霊力のおかげで、ここまで力を出すことが出来るようになったのよ? 皆、尻尾を巻いて逃げて、そのTシャツを私に献上することを勧めるわ」


「尻尾が生えてんの嬌子だけでしょうが! それに、それを言ったら、私たちも同じだもんね!」


「そうですー」


「……渡さない」


 4人は睨み合った。


 横では相変わらず、玄とウガロンが井戸から噴き出す水の上でコロコロ転がっている。



「行くわよ!」「行きますー」「くらえ!」「……」



「フー、全く、あなたたちは……、ハッ!」


 一触即発の4人の真ん中にスッと現れた傲光は、目にも止まらぬ動きで槍を突き出すと、スーザンが持つ祐人のTシャツをその槍の柄の部分に引っ掛けた。


「……!」「「「あ!」」」


 傲光は槍の柄から、ため息交じりに祐人のTシャツを取り上げる。


「ちょっと! 傲光、それをこちらに渡しなさい!」


「私に下さいー」


「傲光ってば、それをこっちに!」


「……それは私の」


 傲光は4人の争いの種になった祐人のTシャツをその手に広げると、嬌子たちに見せつけるように前に出して、悲しそうな目をする


「これを見なさい……」


「「「あ、Tシャツが!」」」「……!」


 祐人のTシャツは先ほどの4人の争いの中で、スーザンの手に渡った際に、スーザンの出す炎で焦げてしまっていた。また、お互いに取り合ったときのものであろう、そのTシャツは無残に伸びて、所々が解れてしまっている。


「これを御館様が見たら、どう思いますか? ましてや、皆で取り合って、争った結果だと知ったら……」


「「「「……」」」」


 傲光にそう言われると、冷静になった4人はシュンとした感じで……俯いてしまう。


 嬌子の尻尾は力なく垂れ下がり、白の耳も左右に横に倒れ、スーザンとサリーの翼も心なしか小さく縮こまっていた。


「ど、どうしよう~、祐人に怒られる~」


 白が全員の気持ちを代弁するように言うと、4人とも頭を抱えて、先ほどまでの自分たちの行動を後悔している。


 白は涙目になって長身の傲光を見上げた。


「傲光~、どうしよう~。祐人に何て言えば……」


 傲光は嘆息し、白たちを見渡した。


「嘘を吐いても仕方ない。ここは正直に御館様に言って、皆で謝りなさい。御館様は慈悲深い方だ。皆が誠心誠意、謝れば、そこまでは怒らないだろう」


「……う、うん」


 傲光に言われ、白がまだ不安そうに頷くと、他の三人も元の姿に戻り、そうするしかない……と俯いた。


 嬌子もさすがにマズイことをしたな、という態度で頭を掻き、サリーは潤んだ瞳で両手をお祈りするように握りしめている。


 分かりずらいが、スーザンも心なしか元気なくTシャツを見つめていた。


「「「「はあ~」」」」


 4人が同時に深いため息をする。


「あひゃーーーー!!」


「ウガーー!」


 そこに傲光と落ち込んでいる4人の横に、井戸から噴出した水の勢いが弱まったのか、玄とウガロンが空から降ってきた。


「あ痛! あ痛たたたー!」


「ウガガガガ!」


 受け身が取れずに背中から落ちてきた玄とウガロンは、ヨロッとしながら立ち上がると、そこにいる仲間たちの様子がおかしいことに気付いた。


「あら? どうしたんですかい? 皆して、しけた面して……」


「ウガ?」


  玄たちの方が、大変そうであるのに頑丈な玄たちは、自分たちよりも仲間の様子が気になったようだ。


「「「「「……」」」」」


 嬌子たちは各々に黙っている。


 よく状況の分からない玄とウガロンは首を傾げるが、その空気を読まず、聞いてくだせぇ! と言わんばかりに満面の笑みで、皆に報告した。


「皆、これを見て下せぇ! 井戸を拡張したんですぜ? しかも、良い水源にも新たにたどり着きやした。これだけ水が溢れてれば、お風呂も沸かすことが出来やす! いや~、これで親分も大喜び! あっしらのことを褒めてくれること間違いなしですわ! な、ウガロン」


「ウガ! ウガ!」


 落ち込む4人の前で大喜びする玄とウガロン。


 傲光は玄とウガロンの言う井戸の方に目を移して、感心する。


「ほう、これはすごいですね。これでお風呂も沸かせれば、御館様の銭湯にいく必要もなくなる。確かに御館様もお喜びになる……お手柄だったな、玄、ウガロン」


「そうでやしょう! そうでやしょう!」


「ウガ!」


「うむ、でしたら私は、木遁でお風呂も修繕しましょう。御館様の疲れが取れる立派なお風呂を作りますよ」


「おおお! 親分が帰って来るのが楽しみでさあ!」


「ウガ!」


  玄たちは、達成感と充実感で、生き生きとした表情で語り合っている。


  その横では生気のない顔を並べ、人外の美女、美少女たちは虚ろな目をしていた。


「「「「…………」」」」


 嬌子、サリー、白、スーザンは、玄とウガロン、そして、傲光の祐人に褒められる確定のお手柄を、死んだ魚のような目で見つめている。


 そこには、祐人が帰ってきた時に、祐人に怒られる確定組と褒められる組がくっきりと見えない線で分けられていた。


 見た目、美女、美少女の人外4人組は、玄たちの意気揚々とした表情を真っ白になったプロボクサーのように見つめるばかり……。


「「「「……………………」」」」


 そこに嬌子が、突然、閃いたように顔を上げた。


「そうよ! 私たちも何かするのよ!」


 嬌子の大きな声に驚いた白、サリー、スーザンは嬌子に顔を向けた。


「ど、どうしたの? 嬌子?」


「吃驚しましたー」


「……」


「だからー、私たちも祐人に何か喜んで貰えることをするのよ!」


「「「……!」」」


 嬌子の提案に三人とも目を広げた。


「な、なるほど! 嬌子、天才!」


「とても、いい考えですー」


「……(コクコク)」


「ふふふ、そうすれば、このTシャツの件も帳消しになって、上手くいけば、私たちも祐人に褒めて貰えるかもよ?」


「「「……!?」」」


 その嬌子の言葉に嬌子も含め、4人の夢が広がる。


 白とスーザンは、祐人にありがとうと言われ、頭を撫でてもらえる映像を浮かべた。そして、祐人に抱きつき、もっと頭を撫でてもらう。


 嬌子とサリーは、熱い眼差しをした祐人が自分に近づいて来る映像を浮かべた。祐人はご褒美だよと言い、そっと自分の肩に手を置き、もう片方の手は腰に回してくる。そして、祐人は力強く、引き寄せ……。


「あれ? ど、どうしたんですかい? 皆さん……」


「ウガ?」


 玄とウガロンは頬を染めながら、モジモジしている嬌子たちを不思議そうに眺める。


「分かりかねる……」


 傲光もいつの間にか、こんなことになっている4人を見て首を傾げた。今、4人が一体、どのような状況なのか分からず、腕を組む。


 暫く、このままの状況で時が過ぎると、心なしか息の荒い4人はハッとしたように、顔を合わせて力強く頷き合う。嬌子とサリーは出て来そうになる鼻血を抑え、白とスーザンは火照った頬を冷やすようにパタパタと手で仰いだ。


 横で相変わらず、4人の様子を窺っていた傲光達に、嬌子は4人の考えを伝えた。


  祐人に何か喜んでもらえることをしたいと。


 傲光はそれを聞くと、大きく頷いて、


「そういうことなら、私も是非、力になりたい。お手伝いしましょう」


「あっしも手伝いますよ! もちろん、4人のわき役で構いませんで!」


「ウガ!」


 そこで真剣に顔になった嬌子が、


「で、問題は……何をすれば、祐人は喜んでくれるかしら……?」


「うーん、そうだね~」


 嬌子の言葉に皆、真剣に考える。


「祐人さんは、結構、何でも自分でこなしてしまいますからー」


「……」


「そうですね。御館様はああ見えて多芸な方。家事も手芸も極められている……」


「そうね~、家の修理は玄と傲光である程度までしちゃうから……それ以外となると……」


「「「「「「うーん……」」」」」」


 嬌子は、頭を悩ましながら祐人の暮らすテントの方に目を移す。


「そうだ! あそこに何かヒントがあるかもしれないわ」


 そう言うと、嬌子たちはテントに向かい、祐人のプライベート空間の入口を開けようとする。


「ちょっと、待ってくれ嬌子。勝手に御館様の部屋に入るのは……」


「大丈夫よ。祐人は結構、オープンにしてるもの。皆も、何回も中に入ってるでしょう?」


「確かに、そうだが……」


「それに、祐人のために何ができるかを考えるためなんだし」


「うーむ……まあ、今回は……。申し訳ありません、御館様……」


 嬌子がテントの入口のチャックを開けて、中に入る。続いて女性陣が入ってきた。テントはそこそこ大きいが4人が入ると非常に狭い。また、衣服等は中に置いてあるので、これ以上、人が入るのは無理ということで、傲光と玄とウガロンは外で待った。


「何かないかなぁ?」


 と言いつつ、嬌子はテント内を見渡す。白たちも考えるように、祐人の喜ぶことのヒントを探した。


 そこに、スーザンがチョンチョンと嬌子をつついてきた。


「うん? どうしたのスーザン。何か見つかったの?」


「……これ」


 スーザンが嬌子たちに祐人の私物の一つを取り上げて見せてきた。


「ん? これは学校カバンね」


「祐人は高校生だもんね~」


「はいー。祐人さんの制服姿、格好いいですー」


「でも、それがどうしたの? スーザン」


「……祐人、一週間いない」


 スーザンが鞄に指をさしながら言う。嬌子は頷き、


「うん、そうね、仕事でミレマーだっけ? 外国に……あ、なるほど……」


「どうしたの? 嬌子」


「ひょっとして、祐人は学校を無断で休んで仕事に行ったんじゃない?」


「……コクコク」


「でも、それがどうしたんですー?」


 サリーは人間社会のことに、そこまで詳しくないので、首を傾げる。


「学校はね、ある程度、出席していないと卒業できないのよ。だから、祐人は今回、一週間も休むのは、本当はあまり良くないことだわ」


「そうなんですねー。でも、どれくらい休んだら卒業できないんですー?」


「そこまでは私も知らないけど……。でも、祐人は学校を休みたくないと思うわ」


「あ! 確かに! 前に祐人がやっとの思いで入学できたんだって言ってたもん。多分、この高校に入りたかったんだよ! でも、生活費とかが必要だって言ってたから、仕方なく仕事に行ったんじゃないのかな」


「……(コクコク)」


「じゃあ、代わりに私たちが学校に行けばいいんじゃないでしょうかー?」


「そう! 私もそれを思ったの。スーザンが言いたかったのはこれでしょう?」


「……そう」


「なるほど!」


「そうすれば、学校も無断欠席にならないし……きっと祐人も喜ぶわ!」


「「「……!」」」」


 意見は一致した。


 テントから嬌子たちは出てくると、この考えを傲光達にも説明する。


「なるほど……確かに、それはいい考えですね」


「おお! あっしも手伝いますぜ!」


「ウガ!」


 皆の同意を得ると、嬌子は今後の作戦会議を提案。全員、頷き、家の居間に向かい移動した。


 そこで、嬌子の持つ変幻の術で祐人に化けて、祐人のいない一週間、自分たちで学校に登校することを決めたのだった。


 祐人に喜んでもらい、褒めてもらうことを目的にして。


 因みに、話し合いで全員が一日ずつ順番に登校することになり、順番はジャンケンで決めた。結果、傲光が初日の月曜日に先陣をきることになったのだった。


 あと、ウガロンは何度やっても、嬌子の変幻の術がかからず、術が打ち消されてしまうので除外された。


「ウガー!」



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