第41話世界能力者機関の初依頼

 

「イヤッホーイ! キターーーーー!!」


 祐人は学校の授業を終えて、その後に行ったアルバイトからテント……いや、自宅に帰ってくると喜びを爆発させていた。というのも待ちわびた世界能力者機関からの初依頼がついに来たのだ。

 ボロボロに錆びたポストに機関から祐人宛に依頼書の入った封筒が投函されていた。


「待ってたよー、この日を、この時を! これで生活が! これからジャンジャン仕事もらってテント生活ともおさらばだ! ンーム! ンーム!」


 祐人は届いた依頼書の入った手紙に何度もキスをする。


「さあて、依頼は何かな、どんなかな? フンフン〜」


 祐人は大事そうに手紙を開けると中に数枚の紙が折られて入っており、そこに依頼内容と成功報酬等が記載されていた。まず、一枚目を見ると今回の契約書が入っており、成功した際の報酬も記載されていた。


「え!? ……すすすすごい額だよ! こんなに報酬が良いの!?」


 祐人は手を震わせながら、契約書を顔に着きそうなぐらい近づけて食い入るように見る。


「す、すごすぎる。この一回の仕事で家の修復が可能だよ……ランクDでこんなに?」


 祐人は驚きと喜びでテンションが安全域を振り切りそうになるが、二枚から記載されているその依頼内容を読み続ける。


「え!? えーーー! 四天寺さんとマリオンさん? 二人の手伝い?」


 そこには既に任務遂行中の四天寺瑞穂とマリオン・ミア・シュリアンに合流し、その仕事に就くことと書いてある。

 祐人は一気に頭が冷めて、真剣な顔になった。瑞穂とマリオンとはあの新人ランク試験以来、当然会ってもいなければ、連絡も取っていない。それ以前に彼女たちの連絡先も知らなかった。

 祐人にとってあの試験の時に、唯一と言っていい程、自分と強く関わってくれた人達である。試験中に起きた瑞穂とマリオンとの出来事はそれぞれ祐人には印象深いものだった。だから、祐人はまたいつかこの二人には会いたいとは思っていた。


 あの時、試験直後のランク取得祝賀パーティーの際に吸血鬼……ガストンが襲来して来た時にも自らの危険を顧みずに自分を心配して駆けつけてくれて、自分と最後まで肩を並べて戦ってくれたのはこの瑞穂とマリオンだったのだから。

 だが、そのガストンとの戦いで祐人は戒められていた自身の封印を解き、魔力と霊力の同時発動という強力な力でガストンを退けた。その時、この力で彼女たち二人を巻き込まないように気を失わせて。

 そして……この封印を解いた力の反動は祐人との縁や記憶を使ってしまうというもの……。


「……覚えてなんていないよな」


 寂しげに祐人は呟く。

 だが、祐人は同級生で自分にとって大事な友人達……幼馴染の茉莉、親友の一悟、茉莉の親友であることから自分とも繋がった静香のことを思い浮かべる。

 この友人たちは、過去に自分のことを忘れたこともあった。

 だが、今回は忘れずにいてくれたのだ。

 それは、祐人が忘れられても何度も一からやり直すように関わり続けたことで、また繋がり、今回はこの力の反動にも影響されずに覚えていてくれたのだ。


 そして……この中で茉莉だけは一度も祐人のことを忘れなかった。

 それは祐人の知る限り肉親を除けば、茉莉を含めて二人だけ。

 しかも、それを何度も祐人の目の前で体現してくれた人は、魔來窟を通り、その先の魔界で出会った少女……リーゼロッテだった。


 だが、リーゼロッテはもうこの世にはいない。

 祐人は目を瞑ると、彼女との掛け替えのない思い出が頭を駆け巡る。

 彼女がいたから、あの魔界で蔓延る魔神たちを相手にしても生き延びた。

 彼女がいたから、魔界にある彼女の国を、彼女の国民たちを守った。

 彼女がいたから、魔界に君臨する魔神たちを退けることが出来た。

 彼女がいたから、今、祐人はこうしていられる。

 彼女がそれで良いと言ったから、祐人は前に進める。

 そして、彼女がいてくれたから、今、こう思えるのかもしれない。


「リーゼ、僕は諦めないよ。何度忘れられても、もう一度この気持ちのいい人たちと繋がることを」


 祐人は、また瑞穂とマリオンに会おうと思う。そしてまた自分を覚えてもらおう。


「僕はあの二人の友人でありたいと思うから」


 祐人は生気のある目を開ける。


「うん!」


 祐人は一人頷くと機関からの依頼の手紙を読み続け、二枚目に入る。すると、手紙の間からサイズの違う数枚を束ねた紙がスルッと横に落ちた。

 何だろう? と祐人は思い、それを取り上げる。


「え!? これはお金? しかも、外国の!? どういうこと?」


 祐人は二枚目を見るとQRコードのある航空チケットだと分かる。


「マジで……?」


 そして三枚目をみると今回の依頼が詳細に書いてある。


「ブーーーー!」


 祐人は内容を読み吹き出してしまう。


「ミレマーなんて国、知らいなよ! 護衛が仕事で……それはいいけど……、期間は一週間んんんーーーー!?」


 祐人は青ざめた顔で、さすがにこれは……と思うが、よく考えれば機関の仕事に場所も期間も関係ない。相手から依頼を受けてそれを果たすものだ。今回はたまたま外国で、一週間ということだっただけであろう。

 祐人の頭に学校の担任である超クールビューティー高野美麗の姿が浮かぶ。その祐人の頭の中の美麗は身長五メートルぐらいで、祐人の頭を片手で鷲掴みした。


“あなたは当高の生徒なのにもかかわらず、バイトのために学校を休むのですか?”


「い、いや、先生! こ、これは生活と家の補修のためで……」


“しかも! 一週間んんん!?”


「ヒエーーーーー!」


 ハッとした祐人。


「ヤバいよ、まずいよ! 殺される~! どうしよう~」


 祐人は今回の依頼は惜しいが断ろうかと考える。何故なら命の方がもっと惜しい。

 冷や汗を流しながら三枚目を読むと、そこには大きなフォントで綴られている言葉があった。


『拒否は認めないから。拒否したらランクをはく奪しちゃうぞ。by 支部長』


 そして、その下には手書きで小さく、こうも綴られていた。


『ごめんなさい、堂杜君。今度、お詫びにご飯おごります by 垣楯』


 だが、志摩の文面は謝っている割にはその文字の周りに蛍光ペンで描かれたピンクや黄色のハートが散りばめられている。何かウキウキ感がしっかり伝わってきた。


「なんだよ!! これ!」


 祐人は志摩のはタチの悪い冗談と受け取ったが、これでは八方ふさがりだ。何とかうまくいく方法がないかを考える祐人は良い案も浮かばずに、時間だけが過ぎていき、もう何も思い浮かばない状況に。

 焦燥感に満たされていく祐人は、友人たちの顔を思い浮かべた。ここでは普通、肉親の顔でも浮かぶものだが、祐人にそんな選択肢は鼻からない。

 父はまだ魔界にいる。あの祖父の顔など、出来れば一生忘れていたいと思った事すらある。祐人にとっては祖父纏蔵は唯の不良老人だ。


「そうだ! 茉莉ちゃん達に相談してみよう」


 それは、どう考えても何も解決しないと分かるものだったが……祐人にはもう他に縋るものはなかったのだ……。

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