第40話人手不足と能力不足

 

「はあー、難しいわね。でも確かに、キナ臭い案件になってきているのは事実だわ」


 世界能力者機関日本支部の長である大峰日紗枝は瑞穂からのメールを読んで大きく溜息をついた。

 溜息の原因は現在、能力者機関から派遣され任務遂行中の日本支部期待の新人でランクAの瑞穂からのメールの内容である。

 瑞穂は政情不安定のアジアの小国ミレマーにて護衛の任務に就いている。

 ミレマーは50年程前に軍事政権が誕生し、ずっと軍の独裁で政治がなされてきた国だが、ここ近年で人権の尊重と民主化の機運が生まれ、次第に軍事政権がその流れを抑えきれいようになると、軍内部で民主化を画策する組織と現政権とが主導権を奪い合うようになった。

 何とか内戦に至っていないのが救いだが、それも今後どうなるか分からない。


 そして、そのミレマーの趨勢を握っている3人の人物がいる。

 一人は現政権の代表であるカリグタ・テス・ホー元帥とその片腕でその内政手腕が買われ、この国で内戦が起きないように剛腕を振るっているグアラン・セス・イェン首相、もう一人は民主化を進める組織の代表マットウ・ネス・ヒュール准将だ。

 軍部主流派且つ現政権を掌握しているカリグダ派は民主化を良しとせず、民主化を求める民衆に表立っての弾圧はしていないが、民主化運動を裏から抑え、それをカリグダの腹心であるグアランが主導している。


 そして、そのミレマー国を牛耳る軍にあって穏健派であり、民衆派のマットウ准将はこの民主化運動に賛同し、軍内部の現政権への不満分子も纏め上げ、国民選挙の実現を狙うグループの首領である。

 国民が飢えても、現軍事政権は厳しい税を民衆に課し、いもしない外敵に備え軍装備の拡充や新兵器の開発に多額の予算を投じている。

 また、その内情はそれらにかかわる軍幹部たちの横領や着服のオンパレードだ。彼ら軍幹部は貧しい民衆を横目に贅沢な生活をしており、下級兵士たちはその恩恵に与ろうとしっぽを振る者も多い。また、そういった者達はその生活を守るために賄賂も横行している。


 まさにこの頂点に君臨しているのがカリグダである。

 この長きに渡る力による統治と腐敗に民衆たちも命がけで立ち上がったのは歴史の必然であろう。例え、黙って見過ごしていても民衆は飢える一方なのだ。

 だが、立ち上がったのは民衆だけではなかった。そのミレマーの国軍の一部が現政権に公然と批判し、民主化を訴えたのだ。

 同じ軍といえど、その下級兵士の大部分は平民出身であり、以前から軍による国政の運営や腐敗に批判的な者も多い。マットウはそれら不満勢力を糾合し、軍の4分の1まで掌握するまでに至った。今やミレマーでの一大勢力の軍閥の首領である。

 この政情不安が極まっているミレマーにおいて、世界能力者機関日本支部所属の瑞穂とマリオンはこの民主化代表のマットウの護衛の任についている。


 そして、このミレマー国の命運を占う日が刻一刻と近づいていた。

 それは、国際連合での総会にマットウ准将が招かれたのである。当然、マットウ准将はその場でミレマー国の現状をその議場で公のものとし、民主化を訴え、国際社会から軍事政権への圧力をかけてもらうための演説をする予定である。

 そうすることで、マットウは軍事政権に民主化への圧力を内外からかけ、同時に軍内部での政権側の勢力を切り崩し、その民主化勢力の拡充を図り軍事政権打倒後にミレマー建国以来、初の選挙を実施する道筋を立てるつもりであった。


 そういった折にマットウの暗殺未遂が多発した。当然それはマットウ側も警戒していた。しかし、一つだけ予想だにしていなかったことがあった。

 それは暗殺者が能力者だったということだった。

 これを受け、マットウ側もあるツテを使い世界能力者機関に護衛の依頼をしてきたのだ。その国連総会の日まで。

 世界能力者機関は表向き、異能力を持たない一般人に対して能力を振るうことを所属能力者に厳しく禁じているため、こういった仕事は決して受けはしない。

 しかし、今回は軍事政権が雇ったと思われる機関所属外の能力者がマットウ准将の暗殺を目論んでいる情報を得たことで、依頼を受けるに至った。


 ところが、今現在、機関は依頼過多で人手不足の状態であった。こういったことは珍しいことであるが、何年かに一度、こういう時期がある。

 そういう時は他の支部に応援を頼み、何とか依頼を回していく。今回の依頼は地理的には中国かインドの支部が請け負うはずであったが、依頼過多でパンク寸前の両支部から日本に応援を頼んできたのだ。

 日本支部も現在依頼が多く、正直この依頼を受けたくはなかったが中国とインドほどではなかったことから困った時は助け合いである。逆の場合もあることはあるので支部間で険悪な状況になるのはあまり良いことではない。

 そういったことから、日本支部支部長の日紗枝もこの依頼内容をみてあまり気が進まなかったが日本支部で受けることになった。


 日紗枝はこの依頼の人選については頭を悩ませたが、ちょうど能力者機関新人試験でランクを取得したばかりの新人たちが配属されたところである。

 こういったタイミングもあり、書類とデータはまだ来ていなかったが、瑞穂とマリオンのことは新人試験主催者として日紗枝も把握していたことからこの二人に仕事を与えた。

 実は、二人は新人試験においてランクAという高ランクを取得した優秀な能力者である。


 ランクA程の高ランクの能力者は非常に強力な能力を有しているが故に、このような雑用のような依頼に派遣するようなことは滅多にしない。

 今回の依頼は、依頼者から事前に相手能力者の仕業と思われる召喚された妖魔の危険度、及び召喚数を情報として得ていた。

 その情報から鑑みるとランクAのような超級の能力者が二人も必要な依頼ではないことは確実だった。


 正直、ランクA能力者にとって温すぎる仕事内容だ。

 だが、瑞穂、マリオンが超優秀といっても新人である。日紗枝はどこかで、経験を積ませておきたいという気持ちを持っていた。

 将来の日本支部、もしくは機関全体を背負って立つ可能性の高い二人を大事に育てたいのだ。


 そういう考えがあり、今回の依頼はそういった有望な新人の育成をプランニングしなくてはならないタイミングで舞い込んできた依頼という側面があったとも言える。

 とは言え、機関にしてみればこのAランクともあろう二人をこのような依頼で派遣することは超サービスとも思われて仕方ないことだ。


 ところが、事態は日紗枝の想定とは違う方向に動いてきた。

 それは、瑞穂からの報告である。

 瑞穂からの報告を読むとミレマーの軍事政権側が雇ったと思われる能力者が想像以上に手練れなのだ。また、それだけではなく瑞穂によれば敵能力者は複数の可能性が高いとのことだった。

 別に瑞穂とマリオンは依頼を失敗したわけではない。相手が想像以上に手練れであるので、依頼を確実にするために近接戦闘に優れた能力者を派遣して欲しいというものだ。

 確かに世界には機関に所属しないフリーの実力者である能力者たちはいる。また機関もそのすべて把握しているわけではない。


 だが、ここではそんなことが問題ではないのだ。

 そうはいえども、世界能力者機関のランクAは伊達ではない。各支部に数名しかいないランクAの能力者ともなれば、その秘めている力は先進国の軍の一個師団には相当するとも言われている。もちろん、能力者の持つ能力の種類によって一概には言えないが、それほどのものなのだ。

 それ故に、世界各国もこの秘密裡に発足したこの世界能力者機関と敵対する事態は避けているほどである。

 そのランクAを二人も派遣しているにもかかわらず、応援を頼んできたこと自体が異常なのだ。


 この異常とは大きく2つある。

 1つはこのランクAの能力者が2人もいて、応援を頼むということを判断するまでに至ったこと。

 確かに瑞穂とマリオンは新人である。経験が少ない彼女たちには見えない敵の作戦や判断ミスもあろう。

だが、それを見越しても普通ではない。正直、この2人なら作戦とか判断とか関係なしに力押しでも解決できるはずのものだ。やる気になれば、この2人でアジアの小国で後進国でもあるミレマーの軍隊とも互角以上にやりあえる。


 日紗枝はこの瑞穂とマリオンを組ませて派遣した際に、この2人がどうやって依頼を完遂するかだけを気にしていた。失敗はあり得ない。そんなことは最初から心配していない。

 どういう風に敵が雇った能力者に応対していくのかだけが興味の範疇だった。それで2人の今後の課題が分かれば今回の依頼は大成功といっても良いと思っていた。

 日紗枝の想像としては、瑞穂の性格から直接の護衛をマリオンに任せ、自らは敵能力者の本拠地に乗り込み壊滅させるという手段を選ぶだろうと考えていた。

 そして、恐らくそれは簡単に成功して、この依頼はすぐに達成されてしまうだろうとも思っていたのだ。


 そして、もう1つ。

 それは機関が誇るランクAの能力者2人を前にして、全く引く気がない敵能力者の存在。


「まったく、ひょっとしたら、とんでもない依頼を押し付けられたのかしら……」


 日紗枝は瑞穂の報告を読み終わり、デスクに頬杖を付く。


「やっぱり、想像通りに動いたんだ。瑞穂ちゃんは守るのは苦手だもんね、性格的に。その上での応援要請か……。でも、相手を倒す以外の方法も考えたりしないもんかね~、瑞穂ちゃんは。マリオンさんも大変そうね」


 日紗枝は苦笑いする。

 今回の瑞穂たちの依頼はマットウの護衛で、しかも一応、期限も区切っている。それは国連総会での演説までだ。

 恐らく、それでミレマーでの大勢は決定的なものとなるであろうとの目算があるからだ。そうなればマットウの暗殺の意味は大分薄れる。

 その時点で、他の能力者への交代である。その後はもちろん、中国支部かインド支部に派遣してもらう。元々、その約束で日本からの支援として派遣したのだった。


「まあ、自分たちですべての解決を図ろうとするわね、瑞穂ちゃんなら」


 確かに瑞穂、マリオンはランクAの能力者なのだ。プライドもあるだろう。日紗枝としても、それぐらいはやってもらいたい気はするし、できるだろうとも思っていた。

 しかし、この報告と応援要請。


「考えすぎかもしれないけど、この相手は確かに嫌な感じね。若い2人とはいえ、ランクA相手にまったく臆するところもないどころか、まるで織り込み済みみたいなこの行動。そんなフリーの能力者なんて……いるとは思えないけど。一体、どんな奴らなの?」


 日紗枝にとっても正直、得体のしれない相手とは思う。フリーの能力者とはいえ世界能力者機関を知らないものなどいないはず。

 それで、ランクA2人に尻尾を全く掴ませないその実力と周到さは、実戦経験豊富な相手の可能性が高い。

 日紗枝はそれでも依頼の失敗はないとは思うが、万が一もあるかもしれないとも考えるようになった。


「少々、サービスが過ぎるかもしれないけど……」


 日紗枝はそうこぼすと、現在、派遣可能な能力者のリストを確認する。だが、既に殆どの能力者は出払っており、空いている能力者はいない。

 仕方なく緊急性の薄い依頼を受けている能力者を探すが、瑞穂の望む近接戦闘に優れた能力者となるとさらに選択肢がなくなる。


「ふうー、やはり厳しいわね……」


 日紗枝が大きく息を吐き、瑞穂からの応援要請を却下しようかと考えた時、支部長室のドアがノックされた。


「どうぞ」


 日紗枝がそう言うと、扉が開き秘書の垣楯志摩が礼儀正しくお辞儀をして入って来た。


「失礼します、大峰様」


「ああ、お疲れ様。志摩ちゃん、意外と遅かったわね」


「申し訳ありません。ちょっと、こちらに戻る際に寄り道をしてしまいまして」


「へー、志摩ちゃんが寄り道なんて珍しい」


「はい、それと少々遅れていた先月の新人試験でランク取得した者の所属リストのデータを取ってきました。まだ、機関データには反映されていないものです」


「わざわざ、取ってきてくれたの? ありがとう」


 日紗枝は志摩からUSBメモリを受け取るとデスクの引き出しに入れようとする。


「あ、大峰様」


「うん? 何?」


「申し訳ありませんが、中身をご確認いただけませんか? 実は気になる点がございまして……」


「え? 何かあったの?」


「はい……。大峰様は先月の新人試験で堂杜祐人という受験者はご存知でしたか?」


「堂杜……? そんな子はいなかったと思うけど……。誰なの?」


「そうですか……。では、リストをご覧下さい」


 日紗枝は訝しみながら、USBメモリをデスクトップパソコンに挿しこむとデータを立ち上げてリストを確認する。

 すると、そこには瑞穂、マリオンの写真に並んで堂杜祐人と記載される写真が確かにある。驚いた日紗枝は祐人の写真をクリックしてその試験結果の詳細データをだした。


「え? え? まさか本当に? でも確かに日本支部所属になっているわ!」


「はい。私も聞いていませんでしたので驚きましたが、確かに彼は日本支部に配属されています。正式データが遅れていたということもあって私も確認をしていませんでした」


「こんなこと……私はこんな子は見覚えがないわ。こんな重要なこと忘れるなんて」


「やはり、そうでしたか。大峰様も疲れているんですよ。私も大峰様から聞いておりませんでしたので、まさかとは思ったのですが……」


「志摩ちゃんは何故このことを?」


 そう言われ、志摩は本日、起きたことを詳細に説明した。

 高速道路が混んでいたので、仕方なく一般道を使ってこちらに向かっていたこと。

 そこでも混んでいたことから、少々道を変えて車を走らせていたところに、強力な結界が張られた波動を感じたので調査に行ったこと。

 そして、そこで会った少年の話をした。


「そんなことが……。それはその堂杜君にも悪いことをしたわね。今度、機会でもあれば謝っておくわ。でも……何て巡り会わせかしらね」


「はい。本当に偶然でした。それで彼は機関の仕事を熱望している様子でした。どうも、生活が少々苦しいようで……その建築現場でたまたまアルバイトをしていたようです。それと確認しましたところランクはDです」


「そう、新人にしては立派じゃない」


「本人は周りがすごすぎて、最下位の自分はあまり目立たなかったのだろうと言っていました」


 日紗枝はそれでも忘れるなんてこと……と思いながら、申し訳ない気持ちも込めつつ、改めてパソコンの祐人の詳細データに目を向けた。


「え? 何? この能力データ!」


「どうかされましたか?」


「見てこれ!」


『筆記三十二点(色々と考慮してギリギリF)、体術A(剣聖の査定考慮込み)、基礎霊力D(測定不能であったが協議の結果)、法術・能力の完成度D(多分に運も良かったと考えられるが協議の結果)、判断力・勘A(長時間の協議の結果)』


 志摩はデスクで挟んだ日紗枝の横に並び、試験結果のデータが映し出されているパソコン見る。


「こ、これは……何というか……歪な、いえ、ユニークな結果ですね」


 志摩は見たことのないこの能力判定の記載に顔を引き攣らせた。


「こんな子、えらく目立つわよ! 忘れるわけないわ。ちょっと、このカッコされている注釈の詳細は?」


 日紗枝はさらに細かく記載されている、ランク認定の過程を読む。


「な、何? これ……。体術ではアルと……剣聖と互角!?」


 日紗枝も志摩も目を丸くしてしまう。


「霊力は非常に強いが使っているか不明! 能力の完成度試験ではマンティコラを運良く退けた!? 普通、新人試験でこんなマンティコラみたいな上級の魔獣とやり合せないわよ! 勘は一般人と全く変わらないが、判断力は全受験者の中でピカイチって……!」


「お、大峰様、落ち着いて」


 驚きで興奮している日紗枝を志摩は宥めるが、志摩自身も驚愕している。


「何なの……この子は」


「確かに、こんなのは聞いたことがありませんね」


「志摩ちゃん、どんな子だったの?」


「はい、とても私好みな……オホン! 話している限りでは人間性には全く問題ないように感じました」


 日紗枝は志摩をジト目で見つめる。


「な、何でしょうか?」


「志摩ちゃん……いえ、いいわ。でも、こんな子をさすがに疲れてはいても忘れるなんてありえないわ」


 日紗枝は真剣な顔になり考え込む。

 志摩もそう思う。これだけのユニークな能力者は嫌でも目立つだろう。下手をすれば一番印象に残っていても不思議ではない。


 それを忘れている……。


 日紗枝の中にこの堂杜祐人なる能力者に警戒心のようなものも湧いてきたが、すぐに考え直した。

 何故なら、ここまで詳細に能力者機関のデータに試験結果が記載されているのだ。その場にいたのは疑う余地はなく、間違いなく試験を受けているだろう。

 志摩は日紗枝のその考えを読んだように、ある推測を口にする。


「もしかすると……その時の吸血鬼が原因かもしれません」


「ふむ……確かに。そう言えばあの襲来してきた吸血鬼の能力の影響で瑞穂ちゃんやマリオンさんも記憶に随分と曖昧な部分があると言っていたわね」


「はい。大峰様も吸血鬼と一人で対峙しています。その可能性は高いと考えられます」


「なるほどね……それなら説明がつくわ……ハッ!」


「どうされました? 何か思い出しましたか?」


 志摩は日紗枝が突然、何か思い出したような態度を取ったので期待を込めるように聞いてみる。


「いえ……何でもないわ……。ただ、今、違和感のようなものが……」


 それは日紗枝にとって罪悪感にも似た強い感情が一瞬だがよぎったのだ。

 その日紗枝の表情を見て、志摩は頷いた。


「やはり……」


「何? 志摩ちゃん」


「今の大峰様の反応は私が聞いている瑞穂さんやマリオンさんの反応にそっくりでした。これで試験時の吸血鬼の影響とみて間違いないと思われます。それにその吸血鬼は既に消失しておりますので、その影響は徐々に消えていくでしょう。あまり、お気になさらなくていいかと思います」


「そう……ね。そうするわ」


「はい」


「それはそうと志摩ちゃん、これを読んでくれる?」


 日紗枝は気を取り直し、志摩が来る前に頭を悩ませていた瑞穂からのメールを見せた。


「これは……困りましたね。予想外です」


「そうでしょう? それでさっきまで頭を悩ませていたのよ。いつもだったら人手で困ることはないんだけど、たまにこういう時期もあるから」


「今は依頼が多く、能力者の空きがないですからね。それにしてもランクAの2人を派遣した先から応援要請とは……」


 日紗枝は疲れたようにデスクに体を突っ伏した。


「そうなのよ~。こちらとしても、こんな案件でランクAを送っておいて恥をかけないしね……。しかも、できれば近接戦闘の得意な能力者希望だって……あ!」


「大峰様?」


「いるじゃない! 空いている近接戦闘の得意な能力者が!」


「まさか……」


「そう! この子よ! 見て……この変態的な体術能力。ランクはDでも瑞穂ちゃんの要望には叶うわ」


「た、確かに……。近接能力だけでいえばそうですね……ですが……」


「何?」


「瑞穂さんの攻撃の際の時間稼ぎですよね? その際に巻き込まれないような連携を組まないと……。連携の練習済み、もしくは最低でもランクC以上でないと堂杜君が危険です。大峰様、確かに人手不足ですが、彼では能力不足かと」


「…………。だ、大丈夫よ、その辺は瑞穂ちゃんもランクAだし!」


「新人ですが……。それに今まで連携の経験が……」


「ははは! 大丈夫、大丈夫! ちょうど良かったわー。この堂杜君も早く依頼が欲しかったようだし、まさに一石二鳥! ちょっと外国だけど!」


「堂杜君は高校生のようですが……」


「ちょっと一週間くらいだから! 瑞穂ちゃんならもっと早く終わらせるかもしれないし! 学校の件は志摩ちゃんが何とかしておいて」


 志摩は大きく溜息をついた。

 日紗枝はあらぬ方向を見つめ、意図的に志摩の方を見ない。

 志摩は日紗枝を尊敬はしているが、日紗枝のこの悪い癖はどうにも問題だと常々感じていた。


 この日紗枝が時々……いや頻繁にだす「考えるの止~めた」は。

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