第5話覚悟の入学式④

 

 祐人達が席に着くと、スケジュール通りの時間に、担任らしい女性が入ってきた。

 皆、当然、高校生活で初めての担任に注目する。

 だが、これは注目せずにはいられない。

 スラリとした容姿。スリットの入った、白のスーツを完璧に着こなしている。鼻筋のとおった高い鼻。銀縁眼鏡の奥にある、知性を携えた目。

 教室内が騒めく。男子生徒は一様に頬を赤くし、女子生徒からは、ため息が漏れる。その女性は教壇の前に立つと、黒板に貼ってあった座席表を外し、静かにチョークで名前を書き始めた。

 その一連の動きにも、まったく無駄が感じられない。


「皆さん、入学おめでとうございます。私はこのD組を担任する高野美麗たかのみれいです。一年間、皆さんと一緒になってクラスを盛り上げて行きたいと考えています。よろしくお願いします」


 当たり障りのない、よくある挨拶。

 しかし、D組の生徒のざわめきや、浮つきを消すには、充分な迫力があった。新担任の表情はピクリとも動かない。生徒達も固まっている。


「皆さん。返事は?」


「「「「「「よろしくお願いします!」」」」」」


 今、出来たばかりの新クラスとは思えぬ息のあった返事。

 たった数秒で、美麗と名乗った担任は、その統率力の高さを全員に肌で理解させた。


「よろしい。では今後のスケジュールを説明します」


 まさしく、クールビューティーを地で行っている新担任は、淡々と、そして分かりやすく説明を始める。その姿は、生徒達に緊張感と深い忠誠心を与えたらしく、全員があなたに付いていきます、といった目をして黙々とメモを取っている。

 しかし……そんな中で一人、祐人だけは違った緊張感を持っていた。


(この人! みんなの氣を呑んで……自分の氣をクラス内に覆わせている?)


 祐人は、黒板に向っている担任の背中を見つめる。

 古武道でもそういったものがある。何か武術を極めているのかもしれない、と祐人は考えだす。

 しかし、祐人は、そこで担任の氣が更に高まるのを感じた。隙の無い背中に、その氣が凄まじい勢いで昇華されていくのが分かる。

 祐人は、それに吸い込まれるように見入ってしまう。


(あれは……小周天! す、すごい。邪気も感じない。わざとやっている!? 何で? 僕に見せているのか? いや、こちらのことは知らないはずだし)


 美麗はこちらに振り返り、一瞬、祐人と目が合う。何か口を動かして、初めてニッと笑った。


「えーーーーーー!!」


 祐人が突然、勢い良く立ち上がると、周りの生徒は吃驚して、一斉に、祐人へ視線を集中した。

 祐人は「あ……」と自分が作り出したまずい雰囲気に、汗を流しながら固まる。

 一悟も静香も目を大きくして、一体どうした? という顔になっている。


「あなた……何かしら? えーと、堂杜君ね」


 美麗は名簿を確認してから言う。質問というより、詰問に近い感じだ。


「いえ……すいません。な、何でもありません」


「では、座りなさい」


「……はい」


 祐人は縮こまりながら座る。だが、祐人は読唇術で担任が言った言葉を、確かに読み取ったのだ。

 それは「纏蔵老師と孫老師によろしく」だった……。

 混乱気味の祐人が座るのを、無表情に確認した担任は、顔を正面に向けた。


「それでは皆さん。ホームルームを始めます。先に言っておきますが、席は次の中間試験まで、そのままです。質問は随時受け付けます。その都度、聞いて下さい。では、今日は皆さんに自己紹介をしてもらい、各自のロッカーと下駄箱を確認して、記入して欲しいプリント等を配布して解散となります。次回のホームルームで時間を取りますので、その時に、クラスでの各自の役割分担を決めましょう」


 新担任の号令一下、一人ずつ自己紹介が始まり、今日の入学初日の行程は終了した。


「はい、お疲れ様でした。本日はこれでお終いです。明日は寮生以外の人は休みですので、明後日にまた会いましょう」


 生徒達が下校準備を始めだすと、美麗は祐人に顔を向ける。


「それと、先程騒いだ堂杜君。悪いですが、プリントの回収をお願いできるかしら? それとちょっと手伝って欲しいことがあるので、一緒に職員室まで来て下さい」


「あ、はい……。分かりました」


 祐人は僅かに戸惑い、クラスの男子生徒が羨ましそうにしているのを感じつつも、美麗の後について行く。とはいえ、周りの生徒達は、先程の失態で目を付けられたのだな、と自然に考えた。

 祐人は緊張気味に美麗の後について行き、職員室に入ると、クラスで回収したプリントを美麗の机に置く。


「ご苦労様」


「あ、あの先生。手伝いって……」


「あれは嘘です。ちょっと、話しておかなければならないことがあります。あなたには」


「……何でしょうか?」


「そんなに緊張しなくてもいいわ。そうですね、堂杜君はこの敷地に入った時、変に思わなかったかしら?」


 美麗は、自分のデスクの椅子に腰を掛けて足を組むと、祐人を正面に捉えて、デスクに肘をついた。


「例えば、やたら神気が強いな……と」


 美麗は足を組み直し、祐人の顔を観察するように見ると、祐人は軽く目を逸らした。


「それはその通りです。何故なら、そういう場所を選んで、この学校を建てましたから」


「え!! えーと、何のことを言っているのか……」


「意外と警戒心が強いのね。それなら、先程、あなたに仙氣を見せたように、私もあなたと同じ……と言えば、分かるかしら?」


「…………」


「あなたのことは、纏蔵老師と孫老師から聞いています。心配しないで。ここは普通の学校です。ただ、あなたや私、他にも少ないですが、そういう生徒と教師がいることを伝えておきます。でないと、後で驚かれても困るから」


「はあ……」


「そういうことですが、それ以外はごく普通の学校ですから、お互いに意識することはないです。それにあなたの場合、理解者がいる方が、何かといいでしょう? その特異体質とか」


「知っているんですか!? 僕のこれ!」


「ええ。まあ、言われなくとも、私達みたいな人種には会えばすぐに変だな、とは思われるでしょうけど。だから、その大量の霊力が、ただ無駄に漏れている特異体質のことは、先に私達と同類の在校生や教師には伝えてあります。その時になって、ややこしくなるよりいいでしょう? それと、それ以外のことは伝えてないから安心しなさい」


 その説明を聞き、祐人は真剣な顔になる。


「一つだけ聞いてもいいですか?」


「どうぞ」


「僕と同じって……どこまで同じなんですか? それと、どこまで知っているんですか? 堂杜家のこととか……。差し支えなかったらでいいんですが」


「二つ聞いているわよ。まあいいわ。ええ、私も道士よ。あなたと同じ仙道を学ぶ者です。私は孫老師からも手解きも受けたことがあるのよ。その意味では、あなたの先輩にあたるのかしら? もっとも、私はあなたと違って最初から仙道を追求している者だけれどね。実は……あなたと、以前に会ったことがあるのよ?」


「ええ! そうなんですか? すみません、全然、覚えがなくて……」


「気にしなくていいわ。堂杜家は本当に珍しく、仙界と縁の深い家ですから……。他の能力者とは、全くと言っていいほど、交流も無いのにね」


 美麗は軽く息を吐き、表情を僅かにだが和らげた。


「それともう一つの質問だけど、堂杜家の事は良く知っているわよ。私の知る限りでは最強の霊剣師の家系だとか、その堂杜家の管理物件とか、あなたが魔來窟まらいくつを通り、その向こうの世界で……魔界で3年ほど、逗留して来たとか」


「な! そこまで……。魔界との時差まで知ってるんだ……」


 祐人は、深刻な顔で聞き入る。


「心配いらないわ。これを知っているのは仙界でも、ごく僅かな者だけ。というのも、これは保険なのよ。あれだけの世界を揺るがしかねない危険物件でしょう? 堂杜家に力があるうちは良いけれども、もし、そうでない場合は、私達があれをどうにかしなければならない。宇宙の運行を見ている三仙ですら、あれには気をつかっているのです」


「そうなんですか……全然知りませんでした。え、まさか! この体質のせいで、霊剣師になれない僕に、孫師匠が来てくれたのも保険だったんですかね?」


「そういうことになるわね」


「そんなこと爺ちゃん、全然、教えてくれないんだもんなぁ」


「ですが、何度も言うように、それ以外、ここはごく普通の学校です。普通にしていればいいわ。私もあなたも先生と生徒よ。こちらでは2週間程度でも、あなたは魔界で3年過ごしたブランクがあるから大変でしょうけど、特別扱いも当然しません」


「あ、はい。そのようにお願いします」


「では、話はお終いです。気をつけて帰りなさい」


「はい、分かりました。それでは、今後ともよろしくお願いします」


 祐人はお辞儀をして出て行く。美麗は職員室を祐人が出て行くのを見届けている。

 だが、その目には先程とは違い、この教師に似つかわしくないものが宿っている。

 それは、情熱や思慕とも、取れるものであるかもしれない。


「……ええ、よろしく。私はあなたを決して忘れないわ。どんなことがあってもね……」


 それは小声ではあったが、確かで力強い声色だった。




 祐人は、一人、昇降口に向かい、新しく割り当てられた自分の下駄箱に上履きを入れて、靴に履き替える。一悟からは「待とうか?」と言われたのだが、悪いなと思い、先に帰ってもらった。


「はぁ~。でも、驚いたな」


 祐人は歩きながら、やっとの思いで入学した高校で、まさか、あんな人が担任だなんてと思う。


(校長が、爺ちゃんの知人というのは聞いていたけど、校長も何らかの “能力者”なのかな?)


 入学式での、校長のヨボヨボ姿とスピーチの内容を思い出す。


(何だかなぁ……。爺ちゃんの知人ってまともな人っているのか?)


 大きくため息をついた祐人は、今後のことを考える。どの角度から考えても、前途多難な自分の行く末を案じてしまった。だが、とりあえずは、当面の課題と向き合わなければならない。

 まず何よりも、引越し後の収入源の確保が必要だ。

 そこで祐人はハッと重要なことに気付く。


「あ、来月末には封地の見回りに行くんだった! まあ、今は安定してはいるだろうけど……忙しいなぁ。全く、厄介な家に生まれたよ。しかも、この体質のお蔭で、落ちこぼれだし……」




 堂杜祐人には誰にも言っていない、もう一つの顔がある。


 堂杜家は代々、物の怪や妖魔といった人外と戦うことが可能な能力を継承している家系である。

 そういう家庭環境から、祐人はその能力の継承のための訓練を、物心つく前から修行をさせられてきた。


 しかし、他の能力者の家系と違い、積極的に退魔、退霊の依頼を受けたりはしてはいない。

 大昔から、堂杜家はそういった仕事は最低限の生活費を稼ぐ程度に留めてきた。

 実際、現在はそういう仕事を受けずに生活をしている。

 何故ならば、それは偏に堂杜家が、世間で必要以上に目立つことをしないためだけにである。

 今は祖父の纏蔵が道場を開き、能力で稼ぐことなく、細々と暮らしている。といっても、現在、門下生は小さな子供ばかりなのと、人数も少ないので、本当は細々どころでは無いのだが……。


 そうであるのも、堂杜家の抱える、他の能力者の家系とは異なる特殊事情があった。

 堂杜家は、堂杜家自身が己の家に課した、一つの重要な役割を果たさなければならなかった。

 それは、秘匿されているが、堂杜家はこの世に大きな厄災を招きかねない危険な物件を管理しているのだ。いつ如何様な理由で、堂杜家がこの役割に殉じているのか、祐人は聞かされていない。


 だが、堂杜家が管理している封印や結界は数か所あり、どれも危険などという言葉では片付けられないものばかりである。

 また、まるでそれに合わせたように、堂杜家に伝わる能力は、結界の構築や、次元壁の曖昧な地の封印を得意とする、強力な技が伝承されていた。

 代々、堂杜家はそういった役割を果たしてきており、過去から現在にかけて、特に重要な封印には定期的に見回りをし、結界の修復、再封印、再強化を義務としてきた。


 そして……その中でも……堂杜家が特に注意を払っている物件の中に、ある洞窟がある。

 その存在の歴史は定かではないが、堂杜家発祥の地でもあると祐人は聞かされていた。

 その秩父山脈の奥に存在する、その洞窟は、魔來窟または魔窓窟と言われ、堂杜家が管理する超危険物件の中でも、さらに別格の扱いを受けているものである。


 何が、そこまで危険なのか?


 それは……魔來窟が常に、この現世に開いている、次元の大穴であるからだった。

 常に開いている……現世の大穴。その魔來窟は、堂杜家に伝わる秘術で、強力な結界が張られ、向こう側との往来が出来ないようにしてきた。


 向こう側とは……。


 向こう側とは、異世界にして、多くの人外達の故郷。

 こちら側では〔魔界〕と呼ばれる、この現世と隣り合わせの異世界空間である。


 この〔魔界〕に通じる洞窟という、とんでもない物件が、野ざらしにされてしまうのは、どのような時代でも、あまりに危険であった。

 そのため、堂杜家は数ある封印、結界の中でも、特にこの洞窟の結界の見回りと修復、再強化等を最重要事項の仕事としている。


 誰から頼まれたものでもなく、また誰かに賞賛されることも無い。だが、堂杜家は、この役割を義務として果たし、話によると千年近くに亘って、これに殉じてきた。

 そのことについては、祐人も少なからず自分の家に誇りを持っている。


 そもそも、次元壁の緩みや歪みは、実はそう珍しいケースではない、というのが能力者達の間の常識である。

 しかし、それは突発的な偶然や、ある特別な周期、または、ある霊地における特別な干渉により、この世の壁が弛むというものが多い。一般的に、これを事前に見切るのは不可能なくらい難しいと云われている。


 例外的に、秘法と呼ばれ、魔術、法術による人為的干渉というものもあるが、堂杜家の管理物件クラスになると、それは非常に大規模に、かつ強力な力が必要である。

 秘法とは現代科学とはまったく違う理論、見方、力である。

 能力者自体、常人から見れば異質な存在であるが、現在はその能力者達にも現代科学の常識が入り込み、認知できない、というのが現状だ。

 人間は認知できないものを具現化することは不可能なのである。


 だが、この魔來窟が異常なのは、そういった秘術とか周期とか、全く関係なしに、常に開いているのである。

 このようなものは存在してはならない、あってはならない。そんなものがあるとすら、思わない代物。


 そして……こんなものがあると知られれば、どうなるか?


 この大穴がいずれかに晒されれば、良からぬことを考える者や、人外もいるかもしれない。

 それら不測の事態から、この大穴を守るために、堂杜家の人間には封印術以外にも、強力な力が必要だったということは想像できる。


 堂杜家の直系は、代々霊剣師の家系である。

 中国の能力者の家系にも、霊剣師の家系はあるが、堂杜家のものは、それとは少し違う。

 霊剣師の剣とは、その意味の通りの剣であると同時に、法具に近い特性を持つ。そのため、術式解放のための祭器という意味合いの方が強い。

 しかし、堂杜家の霊剣師とは、より剣技を充実させて接近戦に特化されているのだ。言うなれば、堂杜流霊剣師といったものかもしれない。


 堂杜家は、強力な封印術と強力な近接戦闘能力を兼ね備えることで、過去のあらゆる事態にも対処してきた。

 その上で、堂杜家はこれらの危険物件を世間に知られることがないように、知恵を絞り、時にはその力を振るい、結果、一千年以上の時を、変わらず守り続けてきたのだった。


 だが……そこで、ある問題が生じる。


 あろうことか、堂杜家直系である祐人に、霊剣師の才能がまったく無かったのである。

 そのようなことは堂杜家史上、初めての珍事件、いや大事件であった。

 ところが、このような異常事態、緊急事態に際し、祖父纏蔵は気にした様子も見せなかった。「まあ、別に他の能力があればいいじゃろ?」とサラッと言い、連れてきたのが仙道の達人、孫韋だった。見た目は、ただの飲んだくれの爺さんで、纏蔵とは親友の間柄とのことだった。


 そもそも何故、祐人に霊剣師としての才能が無かったのか? 

 その理由は霊剣師となるのに、祐人はとても困った体質を持っていたことに起因する。

 いや、それは能力者として考えても厄介な体質だった。


 というのは、祐人自身が持つ大量の霊力が意識、無意識にかかわらず、常時、出ているのである。

 普通、能力者は、能力発動時に霊力を発する。それはつまり、能力発動の触媒である。

 ところが、祐人はその霊力が勝手に出てしまっているのだ。


 では、その勝手に出ている霊力を使えば良いでは? ともなるが、そう簡単にはいかない。

 能力者が発現させる能力というのは、能力者の霊力の大きさや密度、付加される属性等によって、千差万別である。それを能力者が自分の意思で操り、独自の能力を発動するのである。

 更に言えば、その霊力の大きさや密度、付加される属性というのは、ある意味、料理のレシピのようなものである。

 つまり、霊力という食材を中心に、属性といった調味料を使い、料理を完成させるということに近い。これは、魔力を主体とする能力者でも同じことが言える。


 そういうことから、祐人の調理もできない大量の霊力が勝手に出ている、というのは、能力者として致命的な問題であったのだ。

 また補足だが、各能力者の発動能力は、性格や得意とするスキルによっても変わってくる。

 この能力者のレシピは、どの能力者でも、あまり知られたくない事柄である。分かったからといって使えるというものでもないが、その能力の成り立ちや、根源が知られてしまうということは、アンチテクニックの醸成につながってしまうこともある。

 つまり、能力者にとって死活問題であるとも言えた。


 何はともあれ、祐人は、その霊力自体が常に出ていて、しかもコントロールをしようと何度も試みたのだが、中々うまくいかない。唯一の救いは、堂杜家にとって生命線とも言える、封印術だけはマスターしたということだろう。

 だがこれが、祐人の霊力を自在に操る堂杜流霊剣師の資質を欠く、という大きな理由だった。

 また、実害でいえば、霊地に近づくと高い確率で雑霊等に襲われるというのがあった。これにはさすがに祐人も、だいぶ煩わしいと感じている。

 こういった祐人の特異体質に、困った両親は纏蔵のツテで孫韋を招き、祐人に霊力を介しない力……仙道を修得させることにしたのである。


 実は何故、仙道を学ばせるということになったのかには理由がある。

 それは、仙道における仙氣は、霊力に限らず他の系統の力と反発はしない、というものだった。

 そういったことから、一つの個体に霊力と仙氣を同居させても問題は無い、というのが、祐人に仙道を学ばせた理由にもなっている。


 この考えは前提として、能力者の世界の常識がある。

 第一に、能力者のほとんどは、霊力、もしくは魔力のどちらかを、その身に宿して力を発揮するというものであり、そしてそれは、ほぼ100%、先天的なものだ。


 そして何よりも、霊力と魔力はその力の根源が違うため、激しく反発しあう。そのため、霊力による能力者で魔術師というのは存在しない。つまり、一個体に霊力と魔力の両立は、事実上出来ない、というのが定説だ。


 もう一つは仙道とは先天的なものではない、ということだった。仙道とは、己の生命力を極限にまで高める修行によって身につけるものである。

 つまり、ゼロからの習得が可能であるということであった。さらに仙道修行によって身につけた仙氣は、霊力と魔力とも反発することはない。


 この二つの点から、堂杜家は、祐人に仙道の習得を試みたのだった。

 このように聞くと、仙氣はどちらともに反発しないので、お手軽な感じを受けるが、その修得は容易なものではない。

 その証拠に、ほとんどの仙道に関わる者、つまり、仙人や道士と言われる人達(人でない者もいるが)は、その修得に一生を賭している。その途上で命を落とした者も数え切れない。

 ただ、仙道の追求は不老不死の探求と密接に関わっているため、一生と言っても何百年ということにもなるが……。


 祐人は修業をして十数年だが、現在の実力を考えれば、常識を超えた素質があったといっても過言ではないであろう。

 本人も気付いておらず、周りも伝えることをしていないのだが……。


 その祐人の師である孫老師はというと、最近は、僅かな指示をだすとすぐに「後は自分で修行せい」と言い、いつも纏蔵と酒盛りばかりしている。

 それにはこういった背景もあるのだが、祐人にしてみれば、二人ともただの不良爺さんにしか見えない。また、それだけでなく、類は友を呼ぶのか、纏蔵の周りにはどうも変わった人が多い。それは祐人の悩みの種でもある。


 祐人は直近の二人の顔が頭に浮かび、不愉快な気分になってすぐに抹消した。

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