第10話 J太の上昇
びゅーっ
と強い風が吹いて、J太の方へ紙切れが飛んできたのだ。
間もなく彼女が、
「あっ! 私の受験票!」
と言って走ってきた。
風に煽られて、彼女の受験票は木の枝にひっかかってしまった。
「あー、あんなに高いところにのっかっちゃった〜どうしよう〜。」
彼女が困っている。
「俺、とってあげるよ。」
うっしゃー! よく言った! 俺!!!
カッコつけて言ったはいいが、受験票がひっかかっている枝は、まあまあ高い所にあるぞ。そこいらに落ちている枝でつついてみようと思ったが、届きそうなほど長い枝は見当たらない。かと言って、揺らして落とせるほどの、やわな木でもなさそうだ。
さあJ太、彼女にいいところを見せるビッグチャンスが到来したんだ、多少無理してでもあの紙切れをもぎ取るのだ。
いつの間にか、またもう一人の自分が語りかけてくる。
おなら事件の汚名返上をかけて、J太は木によじ登り始めた。
「えっ、大丈夫……? 無理しないで……」
と、彼女が申し訳なさそうに見守る中、J太はせっせと木に登っていく。
子供の頃、近所の公園で木を見つけては登りまくり、よく親に叱られたもんだ。
あともう一つ、あの枝に足をかけられたら、受験票に、手が届きそうだ。
ちょっと、俺いま、かっこよくね?
ふと、木の下で待っている彼女の様子が気になる。
彼女が、 心配そうな面持ちで俺を見上げている。
くう〜、か、可愛い〜
きっと、上目遣いっていうのは、この娘のために人類が編みだしたスキルなんだ……
そして、春風っていうのは、この娘の髪をなびかせるために吹いているに違いない……
J太は彼女に心を奪われ、見とれてしまった。そして、同級生と思わしきあのチャラ男に対してちょっとだけ優越感を感じていた。
が、ほんの一瞬の油断が災いし、不運は訪れた。
J太は足を踏み外してしまったのだ。
「う、うわ、あわぁあああっ」
どさっっっ
という音とともに、木の根本へ真っ逆さまに落ちてしまった。
「キャーッ、だだ、大丈夫?!」
彼女が心配顔で駆け寄ってきた。
J太の肩にそっと手を添える。
彼女のまとう、ほんのりと甘く優しい香りが、J太を包み込む。
「うん、全然平気!」
強がっては見たものの、激痛が襲ってきた。
やばい、足の骨折れた……。
「つか……いっでぇええええええ!!!!!」
意識が朦朧とする中、俺は自分で救急車と親に連絡した。
「お、落ちた……」
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