風が吹いて、春が来て

第9話 J太の下心

 V大附属高校、合格発表の日。


 正門を入ってすぐの校舎の掲示板に、合格者の受験番号が張り出され、ぴらぴらと風に吹かれて音を立てている。

 その下に、受験生たちが、十数人ほどむらがっている。

 インターネットのホームページでも閲覧できるらしいが、なんだか味気ないので、J太は学校へ直接確認しに来たのだ。

 同じことを考えるやつが結構いるもんだ。


 ……というのはもちろん建前である。


 もしかしたら、広瀬すず似のあの娘に会えるかもしれないという下心。

 ただその為だけに電車に乗り、はるばる丘の上まで登ってきた。

 とはいえ、合格していなければ、当然それどころの話ではないのだが。

 自分という人間は、都合のいいことしか考えないようにできているらしい。

 何はともあれ、合否の確認をしなくては。親も、俺からの知らせを待っているはずだ。


 J太は紺色のピーコートのポケットから受験票を取り出しながら、掲示板の方へ向かう。


 やべ、緊張する。

 4053番、ありますように!


 えーと、3580、3581……

 4046、4048、4049、4051……


 だめだ、次の列を見るのが怖すぎる。

 目をそらして、一旦掲示板に背を向ける。

 その時……


 オーマイ!


 広瀬すず似のあの娘が正門から入ってくるのが見えた。

 J太はこっそりガッツポーズをした。

 うっしゃー! 俺って、めっちゃついてる!

 なんて、なんて、ラッキーボーイ!!


 試験のときは、あのズボン破れのおっさんのせいで、ハデに醜態をみせちまったから、今日はピシッとしてるところを見せつけなきゃ、と。

 ……にしても、やっぱ可愛い。

 試験の日の制服のブレザーも良かったけど、今日はキャメルのショートダッフルコートにショートパンツ、細い脚にタイツとブーツを合わせていて、ちょっと小柄な彼女によく似合っている。

 

 彼女がチラッと自分の方を見て、手を振ってきた。


 ん? 俺?


 J太はどきっとして一瞬固まったが、案の定、彼女が手を振った相手は自分ではないことに、すぐに気付かされた。

 彼女は、先に来ていた受験生の中に、友達を見つけたようだった。

 そりゃそうか。

 J太は自分の不自然な動きをごまかそうと、少し離れた木の方へ移動した。


 木に寄りかかりながら、スマホを盾にして彼女の様子を伺っていると、革ジャンにジーンズ姿のチャラそうな男と親しげに喋っているのが見えた。

 何だあいつ、彼氏か?!

 J太は機嫌を損ねながらも、もう一度掲示板の方に、向かっていこうとした。

 とにかく自分の番号があるか確認せねば。


 その時だった。


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