第8話 G男の充足感
いやあ、汗かいた。
幸い、教頭は自分のことを気に入ってくれたらしく、次回見積もりを持ってくる約束はできた。
メガネ女子め、大笑いしやがって。
でもまあ、お陰でインパクトはばっちりだけどな。
無愛想な教頭だったけど、反応は悪く無かった。
なんとしても契約まとめてやるぜ。
しっかし、とうとうやっちまったなぁ、お気に入りのスーツがボロボロだよ……
契約の前祝いで、スーツ新調すっか。
G男は派手に破れたズボンをはいたまま、V大附属高校を後にした。
社へ戻る電車の中、G男の姉からスマホにメッセージが届いた。
なんだ姉ちゃんからか。
近頃、人遣いが荒くて困る。
そこそこの頻度で、やれ某有名店のケーキを買って来いとか、期間限定生チョコを買って来いだとか、そんなパシリの指令が送信されてくる。
独身だからって、暇だと思ってもらうと困るんだけど。
で、今日は何の用だ?
『501の豚まん買ってきて!』
『それとトイレットペーパーも!』
……はあ?それくらい自分で買いにいけよぉ
ん?また来た。
……えっ!?
G男の目に飛び込んできたのは、こんな文面だった。
『うそうそ!(笑)』
『赤ちゃんが、無事、産まれたよ!』
姉ちゃん……そうか、そうだったのか……やったな!
無意識に、姉からの文面を指で何度もなぞっていた。
もちろん姉の妊娠は知っていたが、予定日はまだまだ先だと思っていたから、G男は予期せぬ朗報に不意をつかれた。
それから徐々に、胸の奥からじわじわと暖かいものがこみあげてくるのを感じていた。
そして、
『おめでとう!』
と返信した。
なぜだかわからないが、電車に居合わせた、見知らぬ中年女性から浴びせらせる、いささか強めの視線を感じながら、G男はこれまでの姉の苦労に、思いを馳せていた。
5年前に結婚した姉は、なかなか子宝に恵まれず、不妊治療を試みていたものの効果がみられなかった。
そんなこんなで、経済的にも精神的にも休養が必要だろうと、一時期治療を中断した矢先に、自然妊娠したらしいのだ。
姉からのメッセージによれば、赤ん坊は標準より小さく産まれたらしく、面会はもちろんのこと、すぐには退院できないらしい。
それより何より、時には弱音を吐きながらも、頑張ってきた姉の姿を見てきたG男は、姉夫婦が苦労した末に、やっと命を授かったことが嬉しくてたまらなかった。
落ち着いたら、一度病院を覗いてやるか。
……えーっと、病院ってどこだっけ?
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