第7話 G男のおしり

 そこへ、メガネ女子がお茶を出してくれた。


 そしてペラペラと喋りだした。


「教頭、良かったですね、うちの体育用品は一流のものを揃えてますけど、そろそろ耐久年数にさしかかるものが、多いですものね。」


 お、何故か彼女は好反応。


 G男は必然的に、これはチャンスと前のめりになった。

「それでしたら、ぜひとも我が社にお任せください!常時最新のアイテムを取り揃えておりますし、定期点検も責任を持ってさせていただきます。」

「あら、それは助かりますね、教頭。ほら、あちらの窓からもグラウンドがよく見て頂けるかと思いますわ。」

と、グイグイ攻めてくる。が、破れたズボンでむやみに室内をウロウロするわけにはいかない。


 教頭が立ち上がり、

「そうだね、うちはスポーツが盛んだから、常に誰かがグラウンドで練習しておるのが見えるんだよ。今も何処かの部活がやってるんじゃないかね。」

と言いながら、窓の方へ近寄って行った。


 お、教頭も喋りだしたぞ。ここで一気に畳み掛けるか。


 そのときメガネ女子がG男に寄り添うように近づき、

「教頭が腕組みしているのは、機嫌がいいときのクセなんですよ。よろしければ、ほら、山根さんとおっしゃいました?山根さんも窓からご覧になってください。」

 教育現場にしてはキツめの香水の香りにくらっとしつつも、なんとかズボンのお尻は死守しなくてはならないG男。しかしそんな素振りは一切見せず、ソファに座ったまま、営業トークをかます。

 あくまで、冷静に、かつ熱意を持って。

「これだけ、スポーツに力を入れておられる学校ですから、もちろん、ない方が良いのですが、万が一事故が起きるようなことがあっては大変なことです。何より、大切な学生さんたちが、安心して毎日練習できることが大事ですよね。

 是非、私どもに、その環境づくりのお手伝いをさせて下さい。」

「そうかね。」

「弊社の定期点検は実績があり、他の顧客のみなさんからも好評を頂いております。」

 G男は満面の笑みをキープしながら、無意識にソファから立ち上がっていた。

 

「山根くん、今グラウンドで陸上部がやっとるよ。我が校は陸上もなかなか盛んでね。」

と教頭が拍車をかけてくる。


 元陸上部員のG男の血が騒ぐのも無理がなかった。

「陸上部ですか!」

 ソファから窓の方へ歩み寄り、教頭と並んで、窓の外を眺めることになった。


 おー、やってるやってる、陸上部!

 さすが、なかなかいいランニングフォームだな……


 そこで再びメガネ女子の口が開く。


「バックネットや、サッカーゴールも、見た目は立派ですけど、結構古いんですよ。それで……」

 軽妙なトークが一瞬途絶えた後、部屋に響き渡ったのは、

「あっははっ!」

という笑い声だった。笑い声の主はメガネ女子だ。

 彼女の目に写った光景、それは……


 窓辺に向かって立っているのは二人の男。

 一人はナイスミドルでもう一人は営業マン。


 ナイスミドルの背中には、くしゃっとなったカイロが、ナナメに張り付いている。


 営業マンのズボンのお尻は、それはもう派手にビリっと破れているのだった。

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