深井姉弟、旅に出る。part7
私の行動には矛盾が多い。今回の旅行で那知が着る服を選んだのは私だ。一日目は白のTシャツの上からグレーのパーカーに黒ジーパンを合わせてみた。足の長い那知はとにかくジーパンが似合う。
弟という贔屓目を抜きにしてもカッコいいと思える。猫背さえ何とかなればなぁとは思うけれど、それでも十分だった。
こんなことをしたら知らない博多美人に那知を取られるかも知れない。
それも良いかもしれない。私の弟離れには丁度いい。いやこの世界でたった一人、唯一の弟という存在を自分が知らない人に取られたくはない。相手が千尋ちゃんであってもそれは変わらない。
そこにあるのは本物の姉弟愛だと信じたい。
「さて那知君」
「なんでしょう姉さん」
「ホテルに泊まった時に一度はしてみたいことと言えば?」
「ホテルでしてみたいこと……ケトルで小「それ以上いけない」
博多駅から徒歩一分ほどのホテルにチェックインを済ませ部屋に入ると俺と姉はついテンションが上がってしまった。
部屋には宅急便でこのホテルに送っておいたスーツケースが二つあるだけだ。俺と姉で一つずつ。片瀬さんは無駄に広い部屋を取ったみたいだが、スーツケースだけだと広すぎる。
「ということでこの部屋にデリバリーピザを頼んでおきました」
「は?」
「もちろんホテル側の許可は取った。モーマンタイ」
姉との価値観ズレに悩まされることが多い。まぁあの姉の弟を何年もやってると慣れてくるものだが。
「俺達こっちに来てからそれっぽいもの食ってなくね?」
朝はすき家、昼はカラオケ、そして夜はデリバリーピザ。何をしに来たか分からない。……小説を書きに来たんだったな。
「朝も言ったけど変に意識しない方がいいから。那知ちょっとこっちにきて」
姉にベッドに誘われる。すごくエロく聞こえるのが不思議。
「失礼します……」
やっぱ姉弟だな。姉の隣に腰かけた。
「はいチーズ!」
「えっ」
カシャリという音を姉のスマホが立てる。どうやらツーショットの自撮りで写真を撮られたらしい。
「ごめんもう一回」
絶対に変な顔している。もしくは目線が姉の胸に向いているかのどちらかだ。
「自然な那知の写真が撮れたしこれで良し」
自然な那知より作られた那知でいいじゃないか。不自然にイケメンな方が良いに決まっている。
「この写真をこうして……こうじゃ」
姉が見せびらかしたスマホに映った写真は俺と姉があたかもカップルのように加工されていた。
「ちょ…」
「そして…こうじゃ」
姉のスマホには片瀬さんとのLINEが映っていて例の写真が送られていた。
俺の姉は先を往く。 仁瀬彩波 @iroha0125
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。俺の姉は先を往く。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます