深井姉弟、旅に出る。part7

 私は多分物凄く性格が悪い。那知の前髪を切ったのも善意からくるものではない。そこらの美容室に行けばもっとカッコよくなるだろう。元々前髪だけが長く、目が隠れるほどだったから那知も不便そうにしていた。切った後に感謝されると罪悪感に苛まれた。

 私と那知ははっきり言って全然似ていない。目元もタレ目の私に対して那知はつり目気味だった。それでも那知の前髪を切り、目元を露出させたのには理由がある。目の色だ。私たち姉弟に唯一共通しているものがあるとすれば、それは紫色の瞳だ。神に与えられたその瞳が私たちが姉弟である事を証明しているように思えた。


「クソ……思ったより遠いな」

 姉の体重は五十キロ前後なのだろうが、いかんせん距離が大きい。いや、来たときは何とも思わなかったから体感で距離が大きくなったように錯覚しているのかも知れない。

「大丈夫?降りようか?」

「姉さんはそのまま大人しくしておいてくれ」

 一度買って出た仕事を途中で放棄はしたくない。それにもうすぐ駐車場に着くはずだ。

「……ねぇ那知」

「何?」

 姉の長い髪が耳に触れる。若干濡れていて物凄くいい匂いがした。そして冷たかった。

「那知はお母さんのことどう思ってる?」

 質問の意図は理解できたが、模範解答までは理解できなかった。

「別に何とも思ってない。てか母親に対する思い何てあるわけないだろ」

 感動的なエピソードみたいだな。母親への思いって。

 まぁ実際どう思う?って聞かれたら何とも思ってないと答える人の方が多いだろう。

 イビキがうるさいとか、トイレが長いって答えるような質問じゃないからな。

「そう……それならいいんだけど」

 質問の意図は理解できても姉の心情までは理解できなかった。


「はぁー……疲れた」

 三十分で着くと思っていた俺が馬鹿だった。レンタカーに着く頃には五時前になっていた。

「お疲れ様。ありがとね」

「ど、どういたしまして」

 面と向かって感謝されると何だか照れ臭かった。いや、そんなことより

「運転大丈夫か?湯冷めとかしてない?」

「多分大丈夫」

 姉はそう言うがかなり心配だ。

「何なら下道でも……」

「何時間も掛っちゃうんだよなぁ」

 俺は別に構わない。

「もう平気だから。それより早く戻るよ」

「姉さんがそう言うなら……」

 運転するのは姉だ。俺がとやかく言う権利はない。

「じゃあ行くよ」

 そう言い姉はエンジンを掛けた。もう姉の理想とする運転をしてくれ。

 そう思った俺だが結局トイレに行きたくなりSAに寄ってもらい姉の理想とする運転を妨げた。

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