深井姉弟、旅に出る。part6
【ねぇ那知。本当は何がしたいの?】
その言葉が本当の意味で誰に向けられたのか、それが理解できないほど馬鹿じゃない。
きっと私は那知にこんなことを言う資格なんてない。
私ー深井友紀那が弟の那知にとってどんな存在なのか。その答えは那知にしか分からないけど、これだけは間違いないと確信をもって言える。私は那知から好ましく思われていない。
「のぼせやすいって自覚があるんだろ?だったら自己管理をだな……」
「ごめんね。もう大丈夫だから」
助けてと言われた時は心臓が止まるかと思ったが、ただのぼせただけだと分かるとホッとした。
うなじの辺りを冷やし、ポカリを飲み干した頃にはいつもの姉に戻っていた。
「少し早いけど博多に戻ろう。歩けるか?」
「多分大丈夫……っとと」
まだ姉はふらつくようだ。ここまでの運転の疲れから長風呂をしてしまったのかも知れない。そうなれば俺にも責任がある……がどうしたものか。休むにしてもあまり人目につかない場所のほうがいいだろう。と、なると。
「仕方ない車までおぶっていくよ」
決して他意はない……とは言えないけど他に選択肢もなさそうだ。
「無理だと思うけど……私重いし」
拒否するための方便だな。流石に姉から嫌われていることに気が付かない程自惚れていない。
「最近割と筋肉が付いてきたと思う……が姉さんがそう言うなら」
「……やっぱりお願いしようかな」
どっちだよ。
「じゃあ……はい」
姉に背を向けしゃがむ。今日ばかりは姉がスカートを穿いてないことに感謝した。足が長くて背の高い姉はジーパンの方が似合うことを知ってはいるが、それでもスカートを穿いて欲しかったな。
「し、失礼します」
どうやらパニックを起こしているらしい。
「よっと」
背中に姉の体重が預けられると、両足に力を入れて立ち上がる。
「大丈夫重くない?」
「ノープロブレム」
お世辞にも軽いとは言えなかったが、三十分歩く位どうという事はない。背中の柔らかい感触も含めて少し重めのリュックサックを背負っていると思えば本当に問題はなかった。そして手ぶらで来てよかったと心の底から思った。
「那知が男の子だって再認識させられるなー」
耳元で話されると何だかこそばゆい。
「もともと男だろ」
「分かってるよ。それでも私の後ろに付いてきてた那知も知らない間に大きくなったなーって」
一体いつの話をしているんだ。
「まだ身長で姉さんに勝ててないから大きくなったとは言えない」
俺と姉に身長差はほとんどない、が姉がヒールを履いたりすると追い越される。
「それは仕方ないって。生まれた条件が違うんだから。」
「あーそうかもな」
俺が帝王切開によって産まれた事を言っているのだろうが、見当違いもいいとこだ。
俺は適当に相槌を打ちつつひたすら歩いた。
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