深井姉弟、旅に出る。part4
「だから何でそこで倒置法を使うの!?」
「別にいいだろこれくらい」
「そんなんだからイキリ小説とか言われるって自覚しなよ」
「クソッ!!気にしてることをペラペラと!!」
俺と姉はカラオケに来てコラボ小説を書いていた。
ここなら防音だから二人でどれだけ話しても音が漏れる心配はない。姉の好判断ということだ。
「第一何でそんなに格好つけた表現が多いの?もっと肩の力を抜いてさ……ね?」
哀れんだような説得の仕方。どうしてこんなことに……いや本来の目的はこれなんだ我慢しないと。しかしあの時は驚かされたな。もう二度とゴメンだ。
「やっぱりコラボ小説を実現する上で致命的な点があると思うの」
それはまた別の日の出来事。俺と姉で軽く書いた仮の状態のコラボ小説を片瀬さんに渡したのが始まりだった。
「これそんなにダメですか?」
自慢じゃないが普通に出版するには申し分ない出来に仕上がったつもりだ。
「ダメっていうか……二人が別々に書いたものを無理矢理合わせてるとしか思えないの」
完全に見抜かれている。実際二人が別々に書いた原稿をそれらしく合わせただけだ。
「……別に姉さんとの仲がいいわけじゃないんで仕方がないと思います」
どうしても共同作業というのは無理がある。俺たちのような姉弟なら尚更だ。
「というわけで二人っきりで集中できるように用意したものがありまーす」
「は?」
三十路を迎えたのにそういう言い方をするのはやめた方がいい。片瀬さんだと何故か悲しくなる。
「明日朝に関空ね」
渡されたものは福岡行きの航空券だった。
「はぁー……疲れた」
「お疲れ様。何か頼む?」
「じゃあオムライスで」
「了解ほかにも適当に頼んでおくね」
「あざーす」
やはり小説を書くと腰が痛くなる。猫背だからだろうか。
「すみません注文いいですか?オムライスを一つとカルボナーラとチャーハン。唐揚げとチーズピザそれと抹茶パフェをお願いします」
「多くないか?」
「別に多くはないはず」
どんだけ食うんだよ、と思ったが十二時を過ぎているし昼ごはんならこれくらい多くないだろう。何せカラオケのフードメニューって量が少ないし。俺も腹が減っているし食べきれるだろう。
「前言撤回思ったより多い」
「だね……」
全ての元凶はチーズピザだ。これが想像以上に濃くて重い。
「完全にギブアップ。食える気がしねぇ……」
更に唐揚げという伏兵が潜んでいるという事実。かなり厳しい。
「私ももう無理かな……」
どうやら姉も限界らしい。さて困ったことになった。
「どうするもう帰るか?」
「いや食べ切ろう。それが作ってくれた人への礼儀だから」
恐らく冷凍食品なのだが、確かにそれはそうだ。
「でもどうやって……」
「消化すればいいじゃん。だってここはカラオケなんだから」
そういえばカラオケって歌を歌う場所だったな。来る機会が殆どないため失念していた。
結局二曲程歌ったところでまた腹が減り、完食することに成功した。
そしてここでも俺が支払った。
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