2ページ
「よっ、奈々子元気そうだな」
「げんきげんき! たくさんぴんくたべたからげんき!」
たくさんぴんくたべた? なに、イチゴの事?
「ちっがーうっ、おもちだよ」
「だんごだよ」
自信満々に言った奈々子にさらりと門脇君が突っ込む。父の言葉に奈々子は小首を傾げて見せた。三歳児には団子も餅も同じものに思えるのかもしれない。
「ほらもうすぐ雛祭りじゃないですか。だからさっき嫁さんがお供え用に三色団子を買ってきていたんですけど、奈々子がピンク色の団子だけ取って食べたみたいで」
「えっ、ピンクだけを?」
やりおるな、この三歳児。
「ななちゃんぴんくすきーっ」
「好きでもダメ。ちゃんと三つとも食べないと」
「えぇ・・・? みっつたべたよ。ぴんくの」
無邪気に奈々子が言い放った。短い指をぎこちなく三にして。いやいや、その三つじゃないから。
「奈々子は末恐ろしいね」
「さっきまで怒られて泣いていたんですけどね」
門脇君は呆れ顔で答える。
「全く困ったものですよ」
「元気なのは良いことだけどね」
門脇君にフルーツを幾つか注文して、その場にしゃがんだ。一度奥へ引っ込んだ奈々子が手にしていたのは、色とりどりのあられの入った袋だった。
「奈々子、それはお雛さんのお供えじゃないのか?」
「うん、おひなさまだーいすき!」
「奈々子はお雛様大好きなのか?」
「うんっ」
今どきのひな人形は色んなデザインのものがあったり、キャラクターのものがあるってのも聞くし、奈々子のお気に入りの人形なのだろうか?
「だっておひなさまのときはおかしがいっぱいだからっ!」
あー、そっか、そうだよな。ピンク色の団子食べられるもんな。ひなあられも菱餅も。
奈々子はまだ辛うじて封の開いていないあられの袋を楽しそうに振った。
「全く、食い意地が張っていて困りますよ」
門脇君がフルーツの入ったバッグを手渡してくれる。中から甘いイチゴの香りがした。
「このくらいの子はそうでなくっちゃ。奈々子は好き嫌いとかないんでしょう?」
「そうなんですけど、奈々子は食べすぎですよ」
そう言っても奈々子は別にぽっちゃりでないし、このくらいの子は偏食の子も多いし、逆に健康的でいい気もする。親心は難しい。
「でも門脇君もついつい、奈々子が食べたそうにしていたらあげちゃうんじゃないの?」
だって可愛いし。
「ふふ、奈々子は嬉しそうに食べますからね。それで結局俺が嫁さんに怒られちゃうんですよね」
眉根を寄せて門脇君は笑う。結局笑顔には勝てなかったりするんだよね。だからどうか、奈々子に一粒イチゴをあげること、奥さんには秘密にしてね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます