まだらパセリを貴方に

すなば

第1話

「んじゃ、俺は帰るけど大倉は反省文頑張れよ!」


「は、えっ、一緒に待っててくれるんじゃなかったの?」


「お前それ何枚だよ~、さすがに多すぎだって」


「こんなに書くと思ってなかったし~…」


「まぁ、それは俺も思ってなかったけどな」




ざわざわとした教室内でそんなことを話す私、大倉奏おおくらそう名川皓希ながわこうき


6時間目の終わりは大体こんな感じでガヤガヤとしてる


まあ、そんな中私が反省文を書かなきゃいけなくなったのは授業中の居眠りの圧倒的な多さ


別に眠いわけじゃないんだけど、先生の話聞いてたら眠くなっちゃうんだよね


こんなんは学生のあるあるだと思うんだけどなあ?




「とりあえず俺帰るわ」


「SHLは?もしかしてまた受けないの?」


「だるいって!そんなの受けてるくらいだったら早く帰って二度寝でもする」


「早退数多くなっても知らないから」


「なんて言いながらも先生に毎回適当な言い訳付けてくれる奏は優しいよなぁ~」


「うるっさいな、帰るなら早く帰ってください」


「はいはい、帰るよ。じゃあ、また明日な」




そう言って、やっぱりまだ帰るつもりらしくドアに手をかける皓希


まぁ、言われて考えてみればたしかに毎回先生に適当な言い訳をつけているのは本当のことだった


私、少し甘やかしすぎてるのかな


今度はもっともっと強く言って、先生にも何も言わないようにしよう


それじゃないとあいつのためにならないや




「ドア開かないんだけど」


「注目浴びたいからってそんなデマカセ言っちゃダメだろ~」


「自作自演とかそんな感じだろ?」


「今日は珍しく名川すべってばっかだったもんね」


「いや、本当に開かないんだって!嘘だと思うなら開けてみ?」




そう言ってドアの前から退いて、皆にドアを開けさせようとする


皓希のにわかに信じがたいことを自分なりの方法で、自分で確認をするクラスメイト達


それにしても困った


このドアを開けないと帰れもしないっていうこと


SHLだって、このままじゃきっと行われないし先生たちが来る気配もなぜかない


私達のクラスだけドアの立てつけが悪いとか、隔離された場所にあるとか、そんなに生温いもんじゃない


ここの空間だけいきなり異空間に飛ばされたっていう表現が、たぶん一番しっくりくると思う


なんでこんなことになったのかを冷静に考えてみようと思っても、ついさっき移動教室から帰って来たばっかりの私達


ドアが開かなくなるなんて言う細工なんてできるはずがないし、皆が揃ってから誰かが閉じ込めたとか、そういうのもなんとなく違う気がする


というか、もしそうだとしたらクラスが40人よりも少なくなってるはずだけど、みんな自分の席に座ってるし、座ってない人は前の方で突っ立ってるし


その策は除外されるよね


…探偵じゃないしわかんないけど、これは完全に私達だけを故意的に閉じ込めた人間が外部にいる


そういうことだってことはわかった


ただ、どうやって外に出るかだよね


2年生フロアのあるのは4階で、生憎飛び降りることはほぼほぼ不可能で、ハシゴガあるわけじゃないから、窓からは降りれない


ドアが開かないんじゃ正規ルートじゃ帰れない


ん~、完全に奏さんお困りです




「スマホ!スマホあるじゃん!」


「ん?スマホ?」


「外部と連絡が取れるんだったら、上手いこと出られるかもしれない!」




私のその一言に納得して、みんな一斉にスマホを確認しだす


これ、多分何も知らないで私達の教室内みた人はまさに現代だなぁって感じる光景だと思うね


皆が黙々とスマホをいじってるんだから、もはや珍百景モノだ




「あっ、私圏外になってる」


「そんなことある?…あれ、私もだ」


「俺も圏外」


「俺は普通に充電切れ」


「おーいぃー、しっかりしろや~」




もしかしたら圏外じゃない人がいたかもしれないのに、充電切れじゃわかるものもわかんなくなったじゃん…


まあ、1/40なんてなかなかない数字だしみんな圏外だったって考えるのが妥当なのかも


でもそうだね、これじゃ外部との連絡はとれないし…


わんちゃん公衆電話があればなって思ったけど、公衆電話なんてなかったや


しかもあったとしても出られないし、ここで耐えるしかないっぽいね




「食い物と飲み物持ってる人いたら教卓に出してもらっていい?このままじゃ多分みんな何も食べられないまましんどくなるからさ」


「それって、食べ物だったらなんでもいいの?」


「うん。お菓子でもガムでもアメでもかまわないから、あったら頼む」




そう言って、机の中からそれどこに隠してたんだよってくらいの量をひっぱりだす食いしん坊担当的な扱いの菅井楓香すがいふうか


スナック菓子やらのど飴やらがどんどん出てきて、あれは一種のエンターテイメントなんじゃないかと思う


ほぼほぼ楓香のお菓子とかで教卓は置くスペースがなくなる


ここで思ったんだけど、飲み物って誰も持ってないのかな


口をつけてない飲み物っていうのはさすがに誰も持ってないと思うけど、さすがにここまで来たらそんなこと言ってられない


ほら、人間食べ物が食べられなくなっても水でカバーできるっていうじゃん?


私達の体は80%水分だし、それくらい重要っていうこと




「トイレってどうするんだろう」


「簡易トイレ持ってる人…なんていないよね」


「どうしようか」


「窓だって開けられなかったし…」


「ただひたすらに我慢するしかないんじゃない?」


「せめてトイレに行けるようには行きたいよね」


「それくらいはいいだろって感じだよな」




そう言ってるクラスの中で威張ってる、いわゆるウェイ系


本当にいつも思うけど、こいつらはうざいし視界に入るだけで不快

になる


腹立たしいことばっかりしてくるし、人間の神経通ってないのかって思う


けどまあ、そんなこと言ってられないし?


今だけは、みんなと助け合ってなんぼみたいなところはあるからうだうだ言ってられないね




「あっ…」


「え、開いたじゃん」


「これって、どういうこと?普通に帰れるってこと?」


「あ~!やっと帰れる!!じゃぁ、俺お先で~す」


「私も~、今日バイトで時間ももうそろそろだから急がなきゃ~」




吐き捨てるようにそう言って教室からいなくなる2人


皆と喜びを分かち合ったりできないタイプなんだろうな


人の痛みとか、きっとそういうのも高校生になっても理解できてないんだろうとも思う


別にあの2人の名前だって憶えてないくらいの関係だからどうだっていいんだけどさ


なんて考えてたら、廊下から大きい音が鳴る




「今の…なんだと思う?」


「発砲音…?」


「まさか、ここ学校だよ?そんなのありえる?」


「ありえないでしょ~」


「でもそうだとしたら、今の何?」


「なんだろう…なんかそう言われると発砲音にしか聞こえなかったって言うか…」


「俺みてくるから、みんなそこから動かないで」




そう言って廊下へと向かう皓希


2人が歩いて行った先を見ると、何やら複雑そうな顔をしている


その先になにがあるのか


皓希の目に何がうつっているのか、わたしにはわからない


わからないけど、簡単に呑み込めることではないっていうことはわかる




「撃たれてた…と思う」


「と思うって、どういうこと?」


「2人の状態は?」


「もっとちゃんと見て来てよ」


「違うんだよ…もう2人、いなかったんだよ」


「…は?」


「荷物とかもなくて…教室から顔だけでも出してみればわかるよ」




下を向いたままそういう姿になんだか執拗に心配してしまう


撃たれて倒れ込んだんでしょ


ていうことはきっと、血の跡が残ってるはず


皓希はそういうの苦手なタイプだから、きっと酷だったろうな


無理強いをしてでも1人で行かせるべきじゃなかった




「なんか、伸びてたし引き摺られた?」


「伸びてたって、何が?」


「血が伸びてたんだよ」


「ここを直進したとこまでずっと」


「でも、トイレの先に変な線が描かれてて…怖くてそこから先には進めなかったから、もしかしたらずっとその先まで続いてるかもしれない」


「どこかに連れてかれてるんだよ」


「どこかって?」


「それはわかんないけど、教室から見える場所じゃないのはたしかだよ」




葬儀…とか、そんなもんじゃないよね


なんでなんだろう


2人が殺される意味が分からない


無差別なのか、誰かが仕組んだのか


そもそものところ、発砲音が聞こえたっていうことは誰かが発砲したっていうことになる


ていうことは、私達の他に誰か別にいるっていうこと?


引き摺られた感じって言ってたし、自分達で動いたわけじゃないと思うし…


疑問があるんだけど、あれだけ大きい音が鳴ったのになんで先生たちは見に来ない?


普通だったら何かおかしいと思ってくるんじゃないの?


職員室まで聞こえなかったっていうのは、同じフロアだからおかしい話だ




「おかしい…おかしすぎる」


「誰かに仕組まれたっていうのはさすがにもうみんなわかってるよね」


「この最悪な事態からの切り抜け方を知りたいんじゃないの」


「それは俺もまだわかってないけど、でもあの線は超えない方がいい」


「トイレの先に引かれてたっていう、あの線?」


「そう。あの線を越えたらきっと撃たれるんじゃないかって思うんだ」


「そっか…」




つまり、白い線の中でなら私達は行動可能


そこを超えるとペナルティで死刑ってとこだろう


簡単に死刑なんていうのは過激なやり方だと思うけど、それがこれを企んだ人のやり方なんでしょ


これをあと何回乗り越えれば、私達は解放されるんだろう


簡単な道のりじゃないのはわかってるけど、このままもう1人も欠けないで終わらせたい


…なんて、甘いこと考え過ぎかな

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