第25話

 夜遅かったせいか、あの後は新と真衣に軽く会話しただけですぐに眠ってしまった。

 寝てしまったと気づくのものも事後だったほどに昨日は疲れていたんだと感じた。それほどまでにオンラインに入っているというのは相当な負荷がかかっていることなのだと身をもって分かった。

 彼女がそれをほぼ毎日のようにそれをしているのだとしたら相当の疲労が脳にかかっているに違いないと想像がつく。


「それにしても真衣がいきなりネコ化したのは意味不明だったな……」


 あの時は眠すぎて、多分何もリアクション取れなかったけど、何か伝えたかったんだと思う。

 ………可愛かったけど。


「あ、起きた」

「うおおおおおっっっ!?!? ほ、穂積さんか……お、おはよう」

「……うん、おはよう。…えっと、にゃあ」


 取ってつけたように後出しで招きネコの真似をしてみせた。あいもかわらず、どうしていいか分からない。テキトーににゃあと返せば良いのだろうか。


「……に、にゃあ……?」

「?」


 首を傾げられてしまったぞ! 違ったということか?!

 そんな焦りの表情を見せる俺に分からないといった感じで首を傾げ続ける真衣。

 これが、素でなかったら怒るぞ。

 ………まぁ、可愛いんだけど……///。


「ああ、起きたんだね。おはよう」


 新が朝ごはんを持って入ってきた。


「あ、ちょ、ちょっと!!」

「ああ、そんなことしてどうしたんだい??」


 俺は、素早く新の持っていたお盆を机に置いて、新を壁際に連れて行く。


「……なんか、穂積がずっと語尾ににゃあとつけるのですけど、知りませんか?」

「ああー、あれねー」

「何か、知ってるんですか!?」


 俺が一歩詰め寄る。


「いやぁ、シ、シラナイナー」

「おい、正直に話せ」


 新に睨みをきかせる。俺と目を合わせない新に何か隠し事があるのは確実だ。実際、こういう嘘をつくことに関しては軽々と行って見せると分析していた。


「いや、僕は別に大したことは言ってないんだよ」

「いいから、心当たりを言ってみろ」

「あ……う、で、でも……」


 ここまできて尚も俺の追求を逃れようとする新。


「い・い・か・ら・は・な・せ」

「は、はい……」


 俺が首筋に掌底で添わせると身の危険を感じたのか、素直に返事をした。


「それで、その心当たりってのは?」


 こちらを見て、なおも首を傾げてにゃあにゃあとしている真衣に愛想笑いを返して話を促す。


「君がダイブ中に護衛にいた真衣ちゃんに聞かれたんだよ。この人が私に向かって負い目のような態度を取るって……。だから、猫の真似でもしたら喜んでくれるかもよって軽い気持ちで言ったんだ」

「そしたら、ああなったと……」

「だだだってさ! 僕は軽い気持ちだったんだよ。真衣ちゃんはそんなに感情を表に出す性格じゃないから、言われてもやらないと思ってたんだ」

「でも、間に受けちゃってる」

「う、そ、そうです。ご、ごめんなさい」


 ガクッと肩を落とす新を置いて、真衣の招きに応える。


「あの、それやってて恥ずかしくないか……」

「? ない」

「え……」


 取り敢えず、この二人の中でこれが起こるのはなんともないだろう。むしろ、俺の目の保養になっていてとてもいい。

 しかし、これが周囲の目から見たら、どう思われるのは目に見えてわかり「どうアレしたのかしら」とか噂されそうだ。

 ただ真衣も無理やりやっているということはなさそうだ。ということは……。


「穂積さん。それは俺しか喜ばれない……」

「? そう…じゃあ、あなただけにする。だから、その呼び方はやめて」

「お、おう。ほ、穂積」

「違う、真衣でいい」

「あ、そう……じゃあ真衣」

「うん。何?巧」

「い、いや、その……俺の名前」

「私も名前で呼ぶ。……ダメ」

「い! いや、ダメじゃない!」


 逆に恥ずかしくなってしまう巧だった……。

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