第26話
しばらくオンラインに入りすぎて、疲れを実感した俺は、気晴らしも兼ねて学校に行く事にした。これなら、何か縛りがない分、まだ気軽だろうと思ったからだった。
新には君の自由にしてもらっていいと許可も取れたので、後ろめたい気持ちはない。
「お久しぶりなのです。巧さん」
「うおっ!? ……ああ、久しぶり」
いきなりミューがふわっと現れ、思わず飛び引いた。毎回これだと流石にAIとしてまずいのではないだろうか……。
「ご、ごめんなさい。驚かせてしまって」
「なぁ、もうちょっとこうどうにか出来ないのか? その…現れる位置をもっと遠くにするとか」
頭を下げて謝るミュー。本当に申し訳なさそうにぺこぺこしている。
確かにこれを見ていると可愛いから許すとかなりそうなものだが、いくらすり抜けるから衝突事故にならないとしたって、毎回会うたびに驚かされるのは後々困りものになると思った。
「な、なるほど…やってみます!」
また今度でいいやと言おうとかしたら、今やるとと言い出したので見守ってみる事にした。
「はっ!」
「遠すぎるだろ!」
俺との距離が五十メートルくらい離れてしまっている。これでは、視認することはできても人のいる場所では何かと目立つ。
「ううっ……ど、どうしたら」
「なぁ、その急に現れるのが良くないんだから、ずっと俺たちみたいにいろよ」
急に出現するのが悪いのだから、それを無くせばと考えた。
けれど、なぜかミューは俺の方に来て肩を掴まれた。
「ぞ、ぞれは私が必要ないってごとですかー?!?!」
「え? いや、そんなこと言ってないだろ」
何事かと思ったら急に泣かれてしまう。取り巻きのAIがこちらをじとっとした視線を送られ、たじろぐ。
「と、とにかく泣くのはやめてくれ。俺は別にお前の存在意義をいらないなんて思ってないから!」
とにかくこの視線はいくらAIだとしても心苦しかったのでミューを泣き止ませる事に集中する事にした。
「ホントですか?」
「ああ、俺の信じる神に誓う」
ようやくしゃくり上げ程度に収まる。
取り巻きも、侮蔑の視線をやめてそれぞれの行動をとるようになったところでふっと肩を落とした。
しかし、消えずにいるというのはミューの存在意義を消すという事でダメだ。
「どうして、消えずにいるのはダメだと思ってるんだ?」
泣き止んだところでふと質問してみる。どうしてが分かれば、何か糸口が見つかるかもと思った。
「私たちはこの世界を案内するAIです。この世界に来た人が私を求める声や思いに瞬時に対応することが私の使命であり、生きがいです。私が消えないでいるとその人のところへ直ぐに行けません。そんな私はこの世界にいる必要性がなくなってしまいます」
「そうだったのか……」
今のを聞いてミューはやはりAIなのだと再認識させられた。ミューと会話していてもどこか人と同じように扱っていたところがあったように思う。それは、ある意味いいのだと思うけれども、違う面ではやはりヒトとは違うのだと線引きを引かなければならない。
「分かった。じゃあ、今度はここくらいに現れてみてくれ」
そう言うと、足でバツ印を付けてやる。
「分かりました。よーし……えい!」
一旦消え、再び現れる。
今回現れたのは………。
「は? どこいった?」
「ここでーす」
「ますます遠いわ!?」
「うーん、なんででしょうねー」
屋上にいた……。
この件に関しては俺が諦めた方がいいのかもしれない……。
ため息をつきつつも、心が温かくなる感じがした。
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