第23話
「お前! って、あれ?」
「…………くぅ、くぅ………」
中に入った途端に問い詰めようと思って声を張り上げたのだが、相手が無防備に寝ているので一気にそんな気は失せてしまった。
「しかし、こんな地べたに座って寝てるのがシスターだなんて他のシスターに知られたらまずいんじゃないのか?」
やはり何度見ても銀髪の可愛らしい女の子にしか見えなかった。俺はあるギャルゲーの岡崎という言葉から勝手にギャルだと思い込んでいたみたいだ。
しかし、名前は完全に日本人。それなのに銀髪はくびをかしげざるを得ない。
なぜかこの世界は顔が偽れないのだ。それ故に、オタクの婚活の場としてオンライン合コンなんか催されているとも聞く。
(なんか、ある有名イラストレーターさんがそこで可愛い子をゲットしたとか言ってたしな)
「んん……あれ。私、ここで何を……」
「あ、起きたか?」
まだ、完璧に意識が覚醒していないのかフラフラしている。
さっきまでの怒りなどとうになく、むしろ冷静に話し合いたいと思っているだけに、相手がちゃんと話し合える体制が整うまで待つことにする。
「あ、お、おはようございます? あれ、ログアウトしたのでは」
「ああ、一回はしたよ。そうか、NPCはログアウトなんて言わないもんな」
「え!? あ、いや、これは!」
明らかに慌てるような仕草を見せる。
「悪いけど、君のことを調べさせてもらった。岡崎朋絵さん」
「っ!?」
もっと惚けるかとも思っていたのだが、表情でそうだと出てしまっていた。
証拠なんかを出そうかと考えていたが、とんだ徒労だったようだ……まぁ、すんなりいってくれた方がこっちとしても楽なんだけど……。
「まず、聞きたいことがある。答えてくれるかい?」
「……あなたは国の人間なんですよね? お言葉ですけど、ちゃんと働いていますよ。ちゃんと税金だって落とされているはずです。な、なにも悪いことなんてしてにゃいです!!」
あまり、長文には慣れていなかったのか最後に噛んでしまっている。
そのせいで顔が赤くなるのがよく分かる。もともと、白っぽい顔だからこそかもしれないが…。
『確かに、岡崎朋絵は素行に関しては悪いことはない。ちゃんと税金の支払いがあったよ。ただ何の仕事をしているかがわからないんだ』
「どんな仕事をしているのですか?」
純粋に尋ねてみた。俺の予想が正しければ、朝はこうしてここにいるのだとすれば、必然的に夜の仕事となる。食事などの家庭的なものは親の
そういうと、朋絵は地面に向かって指を指して示した。
「ここってこと? ああ、オンラインで働いてるの……ってええ!?」
これが驚かずにいられるだろうか…。いや、ヤバい事をしていると決めつけていたからこその驚きかもしれないと自己分析してしまう。
「私にとってはまさに天職かと思いました!!!そ、それはもうジャンプしまくって、目が回って、壁に激突して頭の上にスターが廻るくらいです!!」
まさに興奮冷めやらぬといったように俺との距離を詰め、全身でその様子を表現してくる。
俺はもちろん一歩引いた。まだ一歩だけだ。これ以上なら物理的に距離をとるくらいしなければならない。
(心なしか、なんか最初にあった時と話し方がちがうような……)
「それで、コーラルオンラインの運営のあこぷりけというとこでお世話になることになったのですが……ここでシスターとしてあの剣を抜ける者をただ待つっていう仕事でして…」
「それじゃあ、ずっとここにインしたままってこと?それはヤバくないか?」
そんな心配のこもる質問に首と両手を使って必死に否定する。
「違うんです。ここ一帯は夜になると、ログアウト不可能エリアになって冒険者を近づかせないようになっていますし、もし来ても夜は凶暴な獣が来ることになってますからその間はここから出ることができます」
「じゃあ俺が夜に近い時間にここにこれただろ。あれは?」
「あの時は、正直に言えばログアウトする寸前でした。まぁ、まだ業務時間ギリギリでしたので別にこれても問題なかったですよ。ただ……」
「ただ、何だ?」
朋絵は言おうかどうか迷っている様子だった。「別に無理に言えって言ってるわけじゃないから…」と付け加える。
「いえ、これからは共に行動する訳になったのですから必然的にあなたがこっちに来ている間には起きていなければならなかったんです。……でも、あなたがこっちにくる時間なんて分かりませんでしたから、ずっと起きていないといけないので…すみません間接的にあなたが剣を抜くのが悪いって言っていますね」
「……ごめん」
確かに朋絵の言う通りだと悟った。新には褒められて内心うれしかったけど、朋絵にこう言われてしまうと申し訳ない気持ちが沸き上がってしまう。
「あ、じゃあ、俺と連絡しよう」
「え?」
それは本当に思いつきで出た言葉だった。
そんな俺の言葉に朋絵は虚を突かれたような顔をしている。
「俺がこの時間に行きたいって連絡すれば一緒になれるだろ」
「ああ、た、確かにそうですけど……いいんでしょうか? ええと、一応私、運営からお給金貰っている立場でそんなことしてしまって……」
「逆に聞くけど、俺がここに来るまでずっと入ってるとか、できると思ってる?」
「それは……」
遠慮する朋絵に向かって、逆質問を投げかけた。もう、セリーヌが朋絵だと分かった以上、相手は同じプレイヤーだ。ということは、あのオンラインにダイブしていることになり、長時間のプレイは完全に不可能だ。
ましてや、俺が来るまで待ち続けるなど、一生ここに入り続けるのと同義。つまり、寝ず食わずでずっとゲームに張り付いていなければならず、そんなことは人間には出来るはずがない。
そんなことを「頑張れ」的な感じで見過ごすことなんて出来るわけがなかった。というより、鬼畜以外そんなことさせられないだろう。
しかし、それが仕事だとすれば辞めることなんて生活がかかっており、出来ないのだからお互いが連絡しあって入れば、一石二鳥じゃないかと巧は考えたのだ。いや、今考えた……。
「な、そうしよう?」
半ば強引かもしれないが、頷かせるように言葉を投げかける。
「じ、じゃあ、お願いします」
俺に向かって、朋絵は頭を下げたのだった。
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