第22話

 ここで一晩を過ごし、日が出て来てから出立することにした。

 という話をする前にとんでもない事を言われている。

 昨日のことに遡る—


「おっ、ログアウトできるようになってる」


 あの後、何気なく確認してみるとログアウトが光り、押せば最終確認画面が表示されるようになっていた。


「当然でしょう。ここは建物なのですから、できて当然だから」

「ああ、そうだな。んじゃ、早速」


 確認画面にはいを押してログアウトした。





「………んんぅ」

「お疲れ様です」

「ん? お、おう……」

「…………」

「…………なんでいんの?」

「護衛の任務中ですから」

「あ、ああ……そう?」


 見事に即答だった。

 麻衣の返事に驚いて返しがおぼつかなくなってしまう。そんなことにも気づいているのかいないのか分からない無表情さで俺を見てくる。


「………」

「どうかしたんですか?」


 まるで見つめられているようで恥ずかしい…なんて言えずに黙り込むしかなかった。

 遅れて新が入ってきた。


「お疲れ様。はい、コーヒー。インスタントだけどね」

「ありがとうございます」


 コーヒーを受け取る。マグカップには可愛い女の子のSDイラストが付いていた。

 これも、俺への配慮なのかと思いながら飲む瞬間に「あっ、コーヒー飲めたっけ?」とか、慌てふためく新がいて少しホッとした。

 俺はゆっくりとコーヒーを飲み、マグを脇に置いた。


「それで、穂積……さんが護衛っていうのは?」

「ああ。それはまぁ……有り体に言えば、監視役を継続ってことで君のそばにいてもらってる。ついでに君のメディカルチェックも担当してもらうことにした。巧くんも同世代の方が落ち着くと思って」

「はぁ……」


 同世代に自分の身体のことを管理されるのは落ち着くのかどうかよく分からなかったが、とりあえず側付きのようだと思った。


「ああ……それとよくやってくれたよ。今後次第だけどね」

「え? 何がですか?」

「何って岡崎朋絵のことだけど?」

「はい、俺は何もしてないと思うのですが?」

「いやいや、礼拝堂から連れ出せるようにしたじゃないか。彼女を」

「は? まさか、彼女が!? でも、NPCじゃ……」

「いやいや、なぜかあそこに行くと地下に岡崎朋絵のアカウント反応があったんだよね。でも、髪の色がおかしいしこっちもよくわかってなかったんだけど、間違いなくあれが岡崎朋絵だよ」


 新は自分をも納得させるようにうんうん頷いている。

 多分、100パーの確信はないのだろう。

 俺は黙って再び落ちようとする。


「行くんですか?」


 麻衣が気だるげな目で聞いてくる。まるで興味など微塵もないと言った目だ。


「ああ、ちょっと問いたださなければならなくてな」

「そうですか」


 感情が読めない麻衣に苦笑いを浮かべながらも、身体を任せることにした。

 …………………

 ………………

 ………


 教室が茜色に染まり始めるころ。


「……ふぅ」


 私は本を閉じた。犯人だと決めるための証拠を主人公が述べるという読者としては、一気読みしたくなる非常に面白そうな場面なのに…だ。


「なんでかしらね…」


 誰もいない教室でつぶやく千里なのだった。

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