第21話
その北の礼拝堂を目指して、ハイマの村を出る。なけなしの金で、羅針盤を買い、方角だけは見失わないようにした。
「ずっと北というけど一日で着けるんだろうか?」
それだけは心配ではあるが、今は装備を整えることが先決だと思い、歩き出した。
平原は長くは続かず、程なくして山登りが始まった。
途中、やはり雑魚敵が現れたものの、難なく倒した。今の俺には特に大した経験値にならないので、気にするほどでもない。
山登りは険しく、道が舗装されていないために草木を掻き分けながら少しずつ進んでいくしかなかった。
「まだ、気候が穏やかなのがせめてもの救いだな」
汗を拭いながら登っていく。
もう、あたりがあかね色に染まってしまっていた。それなのに礼拝堂はおろか集落さえも見当たらない。
そろそろ足が限界だった。死なない、とはいうものの疲れもしないというわけではない。
諦めて、ログアウトしようとメニュー画面を出すが…。
「ログアウトできない……」
ログアウトの選択面が暗くなっており、押しても反応しないようになっていた。つまり、ここはログアウト不可能エリアだということになる。
「まずいぞ…またやばい魔物に追いかけられるのはカンベンだぞ…」
夜になれば野蛮な魔物が現れる設定のこの世界。建物は、なぜか結界の力で魔物は寄りつけないことになってはいるが、そもそも礼拝堂が見当たらない。
北、と言っても広いから見つけづらいのは分かりきっていたことではあるにしても、こんなに辛いのは正直、予想外だ。
一度足を止めてしまうと、今まで感じてなかった疲れが一気になだれ込んでくる。
この倦怠感と足の痙攣が再び力を込めるのを邪魔する。
もう日差しは消えかかり、視界が遮られていく。
この世界に光は村みたいな集落でなければ存在せず、それ以外では魔法によるものか何か火を起こさない限り視界は無いに等しい。
「おわっ⁉︎」
やはり、ここで何かやらかすのが俺だと思う。
何か分からないが、自分が落ちてしまっていることだけはよく分かるのだった。
とっさに、目を瞑った。
「痛ったー!」
背中に衝撃が走った。どうやら、地面に背中をぶつけるような形で背中を打ったみたいだ。
しかし、そこで死なないのがオンラインだという事を感じさせる。
(なんとか、不死で一命か……普通ならゲームオーバーなんだろうな……ん?)
周りを見渡すと、灯りのようなものが見えた。
周囲を警戒しつつもその方へと歩みを進めていく。
もうあの光以外頼るものがなく、罠だろうが仕方がない。
「これは……祭壇?」
灯のともる場所に行くと、神殿のような壁画が描かれている場所に着いた。
壁画には、王様のような人に膝をついて何か物をあげるような絵とか、その王みたいな人が周りの人間から崇められるような絵が描かれている。
「いいえ、今は礼拝堂…ということになっています」
「君は……?」
「ここの管理を現国王から仰せつかりました。セリーヌと申します。あなたは…冒険者にしては満身創痍な感じですね。残念ながら、ここには金品の類はありませんよ」
手を広げて、本当にないよとアピールしてる。セリーヌはシスターのような服装をしており、銀髪の髪が腰まで伸びていた。
「俺は、ここに王の剣があるって聞いて来たんだ」
そう答えると、呆れたような顔を見せるセリーヌ。
「そう言って来た冒険者は結構いましたけど、誰も扱いきれずに精神が崩壊してしまいました。……失礼ですが、あなたのような始めたての冒険者では彼らの二の舞になってしまうだけだと思います」
「やってみなくちゃわからないだろう?」
「ですから、そう言って何度も冒険者が精神を壊されているのです。……これは本当ですよ?」
と言いつつもさり気なく、その場所へと連れていってくれる。
奥の間には、棺と共に剣がその上に突き刺さっていた。
『本当に精神が壊されるって本当か?』
俺は念のため、新に確認を取る。
『確かにそのゲーム内で鬱みたいな症状になるらしい。そして、大体うまくいかなくてアバターを初期化する羽目になってる』
『上手くいかないってのは?』
『ああ、それは、ゲーム内で何度も自殺を繰り返してしまうんだ。もちろん、自分の意思に反してね』
「さぁ、抜きたいのならあそこに行きなさい。ここで辞めても全然いいのよ」
セリーヌがそう言ったところで、確認画面が出てくる。流石に確率までは出なかったが、注意、といった感じで表示された。
『僕らは目的さえ達成してくれれば、後は自由にしてもらって構わない』
生唾を飲む。
緊張するが、現実への影響がないことに安心していた。
だからこそ、平気で何人もの冒険者が挑戦しているのだろう。
棺の上に登り、剣を両手で掴み、力を入れる。
「ぐわっ……これは!」
力が抜けていく感覚、持ち主のHPを吸い取っているようだ。
(でも、これだけなら……っ!)
いくらスキル『不死』とはいえ、体力を吸われる感覚はリアリティがあり本当に苦しい。
だが、苦しい中でも、剣を抜くことに力を割ける。
「まさか……」
何か電撃が走り出したが、この際『不死』のスキルを思う存分使うことにするときめた。
「うおおおおおおおおおおおお!」
抜いた途端に勢い余って棺から落ちた。
また、背中に痛みが走った。
「痛ってー…」
「ああ……まさか抜いてしまう者が現れるなんて……」
セリーヌは唖然とした表情で、俺と剣を見ていた。
「俺のものってことでいいんだよな?」
「ええ…それはもちろんそうなのですが、まさか本当に抜けるものが現れるなんて、驚きを隠せません」
「へへへ…まぁ、これだったら俺にしか抜けないだろうなー」
やはり俺しか抜けなかったという部分に嬉しさがこみ上げてくる。
さっそくどんな
「へぇ。『コンビクションソード』っていうのかー。…なになに、持ち主の信念に呼応する片手剣。ん?効果ってこれだけ?」
これだけでは単に英語を訳しただけの剣に思えてしまう。Convictionという英語でも書かれているのだから、そういう説明になるのは当然だろうと思った。
「何を言っているのですか。この剣は、持ち主の信念に答えてくれるのです。それってすごすぎることなのですよ。…分かってないって顔してますね」
「……ああ、さっぱり」
ぽかんとした表情の俺に呆れた顔をするセリーヌ。
「まぁ、使っていればわかると思います。はぁ…出来ればこんなむさぼらしい格好の方にこの剣を抜いては欲しくなかったですが、それは私の意志でどうにかできるようなものではありませんし、受け入れるしかありません」
何かぼつぼつといった後、俺を見るセリーヌ。
「な、なに?」
「私もついていきます」
「゛え?」
「なにがいやなのですか?言っておきますけど、あなたには拒否権はありませんよ」
「どうして?」
「わたしはこの剣の管理者なのです。この剣のそばにいるのは当たり前のことです」
さっきからずっと嫌そうな顔をされながら、ついていくなどとのたまうシスター。
(そんなに嫌ならやめてもいいのに…)
そう思ったが、どうしても行くと言ってループ会話になってしまったので俺が折れるしかなかった。
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