第19話

 特に特出した能力があるわけじゃない。というか、そういったことには無縁だと思う。

 今回の事だって、新に懇願されて半ば折れる感じで引き受けたけど未だ攻略できた人はいないし、こうなると俺でいいのかなと改めて思ってしまう。


(例えば、俺が何かしら異能の力で異性の魅了スキルみたいなのがあれば、選ばれる意味があると思う)


 どっかのラノベ主人公たちじゃないんだし、当然俺にそんなスキルも、もともとモテやすくもない。

 しかも、俺は単に恋愛シュミレーションゲームをある程度やり込んでいるだけでお願いされている。

 そう、ある程度だ。

 そんな、授業中も隠れずにギャルゲーをやれるどっかの主人公よりはやっていないし、そもそもやれる勇気などない。


(けれど、役に立ちたいとは思うけど……)


 そう、少しあの物語の中の主人公たちが羨ましかっただけなのだ。

 真っ暗な空間でそんな事を考えていたように思う。

 そんな時に、映画が始まったかのように俺の視界が変化した。


(ここは?)


 どこか知らない場所。

 断片的な情報しか入ってこない。声も聞こえない。

 まるで、パラパラマンガを見ているような感覚で景色がめまぐるしく変わる。

 だがそれは、女の子が懸命に男の子に気持ちを伝えているように見えた。


「……さん」

「……みさん」

「起きな……!」

「兄さん!!」


 ぼんやりとした声からはっきりとした声に変わる。

 まだ、頭がすっきりとしない。


「んん……」


 頭を声のする方へと変える。

 見覚えのあるブロンドの髪、まだその顔からは幼さが残っている。


「ああ……」


 やっと起こされたと分かったのは、寝る前までは彼女は家にいない事が分かっていたからだ。

 俺は身体をゆっくりと起こした。


「おはよ。兄貴」

「ああ……おはよう」

「じゃなくて、もう夕方だよ? しかも、いきなり転校だなんでどうして前もって言ってくれなかったの?」


 いきなりの質問攻めだ。寝覚めにはキツイ。


「いや、俺も突然のことだったんだよ…」

「え? 自分でじゃないの?」

「あ……」


 まっすぐな目線で見つめてくる我が妹。この目線からは誰にも逃れられない。いつまでもネチネチと聞かれ、最後にはこちらが手をあげる。


(まずいな……)


 最近、嘘をつくことが多すぎてはいるが未だ平気になることはできない。


「巧は国の政策によって、人口が少ない学校に留学という形で転校生に選ばれたのです」


 そこにお茶を入れてきた麻衣が即座に助け舟を出してくれた。

 お茶を渡された妹は麻衣に感謝しつつ、再びあの目線で俺を見据える。

 頼むからその目線はやめてくれ……。


「で、この子は?」

「あー、えーと」

「私は、転校した先の同級生なんです。巧さんの家に行きたいと駄々をこねてしまったんです。……すみません」


 妹は、ジロッと俺に確認の視線を送ってきたのでコクコクと頷いておく。


「私は、鳴沢美桜。 兄貴とは一つ下の高校一年生」

「はい、私は穂積麻衣。高二です」


 美桜が麻衣の手を取って自己紹介する。麻衣は少したじろいでいるようだが、悪い気はしていないみたいだ。

 ああやってすぐに相手の懐に自然と入れるところが妹の魅力でもある。

 実際に、妹を紹介しろという話を持ちかけられたことは数知れない。

 俺にしてみればわがままにしか見えないけれど。


「うちの兄貴は、ちょー付き合い悪いでしょ」

「いえ、そんな事ないですよ」

「ごめんね。こんな兄貴に付き合ってもらっちゃって、大変でしょ」

「あはは……」


 と、女性会話が俺をディスることで盛り上がっている。

 まぁ、それで誤魔化せるならいいかなと割り切ることにした。

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