第18話

「…着きました。目隠しを取りますね」


 という麻衣の声で、視界が開けた。

 あたりを軽く見渡す。

 目の前には俺の家。その隣には、近所の家という感じで特に変わったことなど無かった。


「……中に入らないのですか?」

「ああ、いや……」


 立ち尽くしていることに疑問を持ったのか、麻衣がそう聞いてきた。

 俺はそれを否定して中へと進んだ。

 麻衣が後ろから一定の距離を保ってついてきた。


(家に帰るのはいいが、後ろの子のことをどう説明したらいいんだ?)


 一縷の不安を抱きながらも入ったからには仕方ないと少し諦め気味だ。


「ただいまー……」


 おそるおそるリビングへと向かうと、部屋には誰もいない。

 そらそうだ。

 仕事や学校に行っているはずだからだ。


(取り敢えず、いないものは仕方がない。ひさびさに気の許せる場所に来られたしゆっくりしよう)


 と思って横になろうと思ったが、彼女がいたことを完全に失念していた。

 彼女は役目に忠実といった感じだ。全く、微動だにせず俺のことをじっと見ている。

 少しくらい恥ながら見てくれるとこっちとしてもちょっと嬉しいのだが、なにせ無表情なのだ。

 扱いどころがわからない。


「なぁ、座ってもいいんだぞ。ほら」


 と言ってクッションを麻衣の前に置いてあげる。コミケの絵柄がついた物だったが、こんなに無表情なんだ気にしないだろうと思った。


「……では」


 ちょこんと正座で座ってみせた。一つ一つの所作にも無駄がない。


「別に、楽にしてていいから」


 俺は、クッションを枕にして寝転んだ。


「なぁ、君は……って⁉︎⁉︎」


 寝転んで、麻衣の方に向いたところで、太ももに目がいって慌てて背を向けた。

 その奥までは見えなかったけれど、見えなくてよかったと思っている。


「……どうされましたか」


 淡々と棒読みで聞いてくる。最後にクエスチョンマークが出てすらいない。


「いや、余計な気遣いかもしれないけどもっと楽にしててもいいぞ。別に俺は逃げたりなんてしないから」

「……いいえ、これは任務です」

「…そう」


 巧は麻衣の目を見た後、それ以上追及することをやめた。

 彼女の目には信念を感じ取ったからだ。遠慮しているのではなく、絶対にこうだという彼女なりの考えがあるのだろう。


「……」

「……」


 沈黙。

 小鳥たちの小気味いい鳴き声が聞こえて、暖かい日にも助けられて、俺の意識はゆっくりと落ちていった。

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