第17話

 千里も帰ってしまったし、職員室に戻っても美智香先生は「おう、帰っていいぞー」と言う始末でこれでいいのかと思いつつも校門を出て仮想世界を出た。




 目を覚ます。相変わらずの白い空間だ。こうも変わらないのも慣れてきてこうじゃなきゃ安心できないぐらいには思うようになってきていた。

 すでに横には新が座っていた。

 取り敢えず、起き上がることにする。


「どうだい今の気分は?」

「そうですね…割と倦怠感はない、と思うんですけど…うーん、分かんないです。俺、あんまりストレスとか自分で分かってないみたいなんで」


 俺がそう言うと新がメモしていた。おそらく、情報には無かったのだろう。後々、そういうところもモニタリングされて管理されるのかもしれない。


「早速、巧くんには一旦家に帰ってもらいたい」


 突然、話を切り出した新。

 あまりに予想だにしなかった言葉に「へ?」と聞き返してしまった。


「拘束も君の身体には悪い影響を及ぼすと言われてしまってね。一日だけ、外出許可を出すよ」

「それは願ってもない。ありがとうございます!」

「ただ、君には申し訳ないけど監視役が同行する事になる。それは了承して欲しい」


 理由はなんとなく想像がつく。俺が逃げないようにということだろう。

 自分自身、俺のことなんか放っておいても…と思わなくもないが、この施設、この事業を知ってしまった時点でそうはいかないのだろう。

 案の定、新からはこのことを家族も含めて外部に漏らさないようにと伝えられた。


「もし漏らしたら、監視役が何するか分からないからな……」


 そう言って悩ましげな声で唸ってしまう新。


(そ、そんなにやばいのか……)


 巧は唾を飲み込んだ。

 頭の中には、短剣でも構えていそうな暗殺者の想像が展開されていた。


「じゃあ、ドアに待機させてるから読んでもいいかい?」

「え、ええ……」


 俺がそう言うと、新は立ち上がって扉を開ける。そして、俺の監視役という人が中に入ってきた。

 取り敢えず、暗殺者のようなナリはしていない。それについては少しホッとした。

 顔からして女性、ショートの髪、少し先がカーブをかけて上に上がっている。

 表現は悪いがタコさんウインナーの形だ。

 もちろん、髪のツヤだったり見るからにサラサラそうな髪で彼女の魅力を引き出している。

 身長も少し低め、俺の肩くらいだろうか。


「はじめまして、穂積ほづみ 麻衣まいです」


 軽くお辞儀をしてくれた。

 少し垂れ目だったのが印象的だった。


(こんな子が俺の監視役? 大丈夫なのか)


 印象がそれだったからこそ頭にのぼってしまったことだった。

 とても強くは見えない。

 体つきだって俺よりも華奢きゃしゃに見える。

 肩は丸みを帯びて実に女性らしい。筋肉質であればあの肩はあり得ないと素人ながらにも思った。


「はじめまして、鳴沢巧です。よろしくお願いします」


 手を差し出すと、その手を見つめ一拍おいて手を合わせてくれた。


「敬語はやめて下さい。私の方が一個下なので」

「お、おう」


 表情を変えず、淡々と話す麻衣。この垂れ目からくるやる気のなさそうな目からは何を考えているかなど分かるよしもなかった。


「じゃあ、家まで送るよ。悪いけど、ここの場所は教えられないから、目隠しをさせて貰う」


 そうして、俺の視界は塞がれてしまった。

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